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一体どうしたのかと瞬ちゃんの頭をなでていたら、アフロディーテさんがついに声をあげて笑い出した。 瞬ちゃんがさらに情けない顔になる。 「どうしたの?」 「……さん……」 泣きそうな顔も可愛いなんて、美人は得だ……じゃなくて! 「ごめんね、私、何か悪いこと言った?」 けして控え目とは言えない笑い声をBGMにしながらそろりと訊くと、瞬ちゃんは恨めしそうな顔でアフロディーテさんを睨む。 それにさらに触発されたように笑い声を大きくしながら、アフロディーテさんがこらえきれないというように口を開いた。 「 「……え、えええええええええ!?」 そそそそそんな、こんなに可愛いのに! 可愛いのに、男の子!? 「アフロディーテさんの再来……!」 どうしてこう、美人さんだと喜ぶと男の人ってパターンばかりなんだろう。 涙目で瞬ちゃん 仕方ないだろう、ものすごく嬉しかったのに! ぐしぐしやりながら目元をぬぐっていたら、大きな手が優しく頭をなでてくれた。 「すまないな、瞬。私の時もこうだった」 気にするなと笑ったアフロディーテさんは、もとなだめるように声を柔らかくする。 「後で部屋に飾る薔薇をあげるから、泣きやんでおくれ」 「……真っ白なのがいいです……。あと、ピンクの……」 「もちろん。が世話をしてくれるから、どれも綺麗に咲いているよ」 差し出されたハンカチで目をふくと、腫れてしまうと取り上げられた。 そっと押し当てるようにして拭われながら瞬君を見ると、ためらうような表情で、それでも手を伸ばしてくれる。 「あの……泣かないでください」 「うん……泣きやむから、ちょっと、待って」 そっと腕におかれた手が温かくて、小さく笑った。 へちゃりと眉が下がってしまったけれど、それはもう勘弁してもらいたい……。 カミュさんを呼んで冷やしてもらおうかと言い出したアフロディーテさんを必死に止めて、改めて瞬君に頭を下げる。 「ええと、勝手に勘違いして勝手に泣き出したりして、本当にごめんなさい。びっくりしたでしょ?」 「いえ……僕こそ、ちゃんと言わなくてすみません」 「普通は言わないよ、私が早とちりしちゃっただけ」 おわびにとキッシュを焼いてごちそうしたら、とても喜んで食べてくれた。 「さん、お料理上手なんですね」 「女官さんに教えてもらってるの。私の好きな味にアレンジしてあるから、アリッサさんには変わった味だって言われることもあるんだけど」 瞬君が気に入ってくれてよかった。 やっぱり、日本人好みの味になっているんだろうか。 (ごく一部を除いて)皆さんおいしいって言ってくれるけれど、今度はアリッサさんに教えてもらった通りに作ってみてもいいかもしれない。 そんなことを思いながらキッシュを頬張っていると、心の中を読んだようにアフロディーテさんがのんびりと言った。 「別に、今のままでも充分おいしいよ。アテナが日本人だから、私達は日本風の料理を食べる機会も多いんだ」 「そうですか?でもやっぱり、自分の国の味っていいじゃないですか」 「それはそうだけどね」 が作ってくれるだけで、私達は嬉しいよ。 うっとりするような微笑みでささやいてくれたアフロディーテさんに、思わず頬がほころぶ。 私のこと、ちゃんと認めてくれてる。 にやつきそうな顔をこらえて、けれどと小さくかぶりを振った。 「でも、私だって、もっと皆さんにおいしいって言ってもらいたいんですもん!頑張ります」 特にデスマスクさん! 絶対おいしいって言わせてやる……!(いつも「まあまあだな」しか言ってくれない)(その度にアフロディーテさんに怒られている) ぐぐっと握り拳で闘志を燃やしていたら、瞬君が驚いたようにこちらをじっと見ていた。 首を傾げて見つめ返すと、声をひそめて耳元でこそりとささやかれる。 「……アフロディーテ、いつもあんな感じなんですか?」 「え?うん、すごく優しいよね」 毎日のように、あの綺麗な顔にうっとりさせられています。 頭をなでてくれる時の笑顔といったら、もう! 喜々として答えると、余計に驚いたようにアフロディーテさんの方を見る。 一体どうしたんだろう、何をそんなに驚いているんだろうか。 「瞬君?」 「あ、ええと、何でもないです」 よかったですねと微笑む瞬君も、アフロディーテさんに負けず劣らず綺麗だ。 にこにこしながらうなずいて、食後のお茶を持ってきてくれたアフロディーテさんの手元に歓声をあげた。 「綺麗!」 まとめられた茶葉がポットの中で花びらのように開き、その中から本物の花が浮かんできている。 悪戯っぽく笑ったアフロディーテさんは、注いだカップを真っ先に私の前に置いた。 「飲んでごらん」 「え、でも、お客様は瞬君 「気にしないでください。さん、お先にどうぞ」 お客様よりも先に飲んでいいんだろうかと瞬君を見ると、笑ってうなずかれる。 それでも何だか気が引けて、ちらちらとうかがいながらカップに口をつけて。 「……おいしい……」 中国茶独特の風味が、ふわりと鼻を抜ける。 「紫龍から?」 「ああ。老師が持たせてくれたらしい」 「やっぱりね」 納得したようにうなずいた瞬君に誰のことかと尋ねると、一緒に聖域に来ている子の1人らしい。 名前もそれっぽいし、中国の子だろうか。 今度会ったらお礼を言おうと思いながら、もう一口大事に飲んだ。 (あのアフロが甘々な表情をしているのに、死ぬほど驚いちゃった瞬。女だと勘違いされたショックはあんまり引きずらないようにしようと考えたようです) |