、今日は薔薇を切ってきてもいいよ」
「ほんとですか!?」


日課になっている薔薇のお世話に行こうとしたら、アフロディーテさんに思いがけないことを言われた。
時々こうやってお許しをもらうけれど、その度にどのお花をもらおうかとうきうきしてしまう。


八重咲きのピンクの薔薇も綺麗だし、ベルベットみたいなワインレッドのもいいし、ミルク色の子も素敵。


ちょっぴり元気がなくなってきた子にしようと思いながら、上機嫌でお水をあげる。
花がらを摘んで伸びすぎた部分を剪定して、薔薇が一番元気な状態にしていくのが楽しくて仕方ない。


「どれにしようかなあ……」


作業が全部終わらせて、どれにしようとお庭を行ったり来たり。
何本かぱちりぱちりと切ったところで、一旦全体のバランスを見た。

もう少し赤が多いといいかもしれない。
ピンクはもういいから、他に加えるとしたら白を少しかな。


そんなことを考えながら歩いていたら、いきなり茂みから何かが飛び出してきた。
ものすごい勢いで飛び出してきたそれは、そのままこちらに突っ込んでくる。


「ひきゃああああああ!!」


く、熊!?山羊!?それとも何!?


黒っぽい影の正体を確かめる勇気もなく、情けない叫び声をあげて固く目を瞑る。
身体を固くして待ち受けたはずの衝撃は、けれどいつまでたっても訪れなかった。
不思議に思って恐る恐る目を開けると、顎が落ちそうなほど口を開けた男の子が目の前で停止中。


   っ、きゃああああ!?」


だ、誰だ、これ!!
何が起きてるんだ!?


反射的に悲鳴をあげて逃げようとしたら、腕をがっしとつかまれた。
あまりにも強すぎる力に、思わず眉根が寄る。
それでも男の子は放してくれなくて、ただただ訝しげな表情をするばかりだ。
痛い、と意味をこめて軽く腕を手元に引き寄せると、我に返ったように勢いよく手が離れた。


……ううう、手の形にくっきり赤くなってる……。


「……ごっ、ごめん!こんなとこに人がいるとは思わなくてさ。あんた、アフロディーテんとこの女官か?」
「……いえ、女官じゃないですけど……」


明らかに年下の彼は、けれど物怖じせずに話しかけてきた。

敬語は使えないのか、はたまた使わないのか。
どちらにせよ、かなり元気がいい子のようだ。


「女官じゃない?じゃあ、なんだってこんなところにいるんだよ」


ここがどこだかわかってるよな?


さらに訝しげになった少年に、こちらも首を傾げる。
確かに聖域は滅多に普通の人が入れない場所だけれど、この子の言う「こんなとこ」は、もっと違う意味がある気がした。
けれどそれが何かまではわからずに、仕方なくありのままを確認する。


「こんなとこって……薔薇園にいるのが、そんなにおかしいの?」
「おかしいも何も!本当に何でもないのか?」
「だから、何が?」


一向に進まない会話に、さすがの私もむっとした。
せめて会話を成立させる努力をしようよ、少年!


とりあえずこの不毛な会話を何とかしようと、話の筋をぶった切って手を差し出した。


「私、。あなたは?」
「お?俺は星矢!よろしくな、さん」


おお、一応私が年上だという認識はしていたのか。

って、そうじゃなくて。


この名前の響き、何だか懐かしい。
これはもしかして   


「セイヤ君って、もしかしてアジア系?」
「ああ!さんも日本人だろ?」
「うん、そうだけど……セイヤ君も、日本人なんだ。中国の人かどっちか、迷ってたんだ」


ほら、名前しか言ってくれなかったから、セイが名字でヤが名前かと悩んだんですよ。
考えるといそうじゃないですか、セイさん。


「俺は日本人だよ!紫龍はハーフっぽいけどな」
「紫龍……それって、星矢君達と一緒にきた子だよね」


瞬君と会った時に、名前だけは聞いた気がする。
3人もきていたのかと驚くと、星矢君はあっさりとうなずいた。


「俺と、紫龍と、氷河と、瞬。青銅聖闘士だぜ!」
「ぶろんずせいんと……黄金じゃないんだね」


金ぴかの皆さんばっかり見ているから、いまいち青銅聖闘士というものがどんな格好なのかがイメージできない。
やっぱりブロンズの色をしているんだろうか。
しかしそれでは、耐久性に優れているとは言いがたい気がする。


どんな姿形をしているのかと思いながら呟くと、当然だとばかりに目を見開かれた。


「黄金聖闘士は、聖闘士を統べる頂点だぜ!?そうそういちゃ困るよ、さん」
「……でも、皆さん金色の聖衣を着てるよ?」
「当然だろ、黄金聖闘士なんだし。そんなことも知らないなんて、さんって本当に何者なんだ?」


心底不思議そうに訊かれても、こちらも答えていいものかどうか困ってしまう。
苦笑しながら首を傾げ返して、沙織さんに訊いてくれと瞬君の時と同じように返しておいた。
沙織さんが言うかどうかを判断するなら、まず間違いはないだろう。


「沙織さんかあ……わかった、後で訊いてみるよ」


ん?
ちょっと待って、沙織さんってそんなに簡単に会えるものだっけ?


青銅と黄金があるなら、その間に多分銀もあるはず。
となれば、星矢君は少なくとも第三段階のヒエラルキーにいるはずだけど   ちょっと待って。
星矢って名前、そういえばどこかで聞いた気がする。


そう、何か呆れながら聞いていた気が   




「あああああ!アイオロス様!!」




星矢君がびくりと反応した気がするけれど、それよりもアイオロス様だよ!
アイオリアさんよりも星矢って子の方が大好きなんじゃないかと思わんばかりの口調!
しかも結局、星矢君のことしか教えてもらってない……!


今更ながら気づいた射手座の後継者(アイオロス様の独断)に、思わずあんぐりと口を開けて見つめてしまった。












(星矢は戦闘の時はかっこいいけど、それ以外は年相応の生意気なくそガキ(笑)星矢相手だと、思わずヒロインがお姉さんになっちゃいます。貴重な相手ですね!)