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レース編みもぬいぐるみの配置換えも小物の整頓も全て終わってしまって、今日はなんだかとっても暇だ。 ベッドに転がってごろごろしていたら、小さな声で誰かに呼ばれた。 「あの 「はい?」 いまいち聞き覚えのない声に誰だろうと振り向くと、中庭に金髪の男の子と瞬君が立っている。 今の声は瞬君のものではなかったから、きっともう一人の子のものなんだろう。 「こんにちは、瞬君。それからええと 「氷河です」 「氷河君」 目鼻立ちは完全に外人さんなのに、どうやら日本人らしい。 もしや、ハーフだろうか。 ハーフって美人さんが多いよねえ。 ぼんやりとしていたら、瞬君がほっとしたように笑った。 「アフロディーテが任務だって聞いて、さん一人で大丈夫かなって思って。元気そうでよかった」 「ありがとう。今までも何回かあったし、お留守番は慣れてるから大丈夫だよ」 何だかんだいって、日に一度は誰かが覗きに来てくれる。 その人とおしゃべりをして、女官さんのお掃除を手伝って、ギリシャ語のお勉強をして、女官さんと一緒にお料理をして。 そんなことをしていれば、一日は結構あっさりと終わってしまう。 だけど、こうして心配してもらえるのは、それとは別にとても嬉しかった。 中に入ってとドアを開けて促すと、瞬君は軽く後ろを振り向いた。 「氷河もさんと話したいって言うから、一緒に連れてきちゃいました」 「わあ、嬉しいな!初めまして、氷河君」 満面の笑顔で右手を差し出すと、氷河君も小さく笑って握り返してくれた。 固くて皮のしっかりした大きな手は、年下とは思えないほどだ。 「何か飲む?緑茶もあるし、紅茶も色々あるし、一応コーヒーも置いてあるよ」 「じゃあ、僕はアールグレイを」 「俺もそれでお願いします」 「はいはーい。パイも持ってくるね!」 急ぎ足でキッチンに向かって、紅茶を淹れている間にシナモンパイとクッキーを用意する。 さすがに一人では持てなくて女官さんに手伝ってもらいながら戻ると、氷河君がさっとドアを開けてくれた。 「ありがとう」 「いえ、これくらい」 「さん、サイドテーブルのぬいぐるみをベッドに動かしてもいいですか?」 「あ、うん。お願い」 瞬君もぬいぐるみをそっと移動させてくれて、無事にトレイを置くことができた。 まくまくとパイを食べながら、ふと2人に尋ねてみる。 「2人のお師匠様ってどなたなの?」 もちろん知らない人の可能性の方が高いんだけれど、知っている人の名前が出たら、なんとなく楽しい。 わくわくしながら瞬君を見ると、白銀聖闘士のダイダロス先生ですと答えてくれた。 「さんは知りませんよね、先生のこと」 「うん。 多分黄金とか青銅とかと同じだろうとは思うけれど、いまいちどのくらいのランクなのかがよくわからない。 おそるおそる尋ねると、2人ともひどく驚いたように目を見開いた。 「さん、知らないんですか!?」 「ここに住んでいるのに!?」 「……ご、ごめんなさい……」 や、やっぱり、知ってるのが当然なんですよね! 別に知らなくても困らないしいいやーと思ってたらいけなかったんですよね! 思いっきりそんなつもりでいました、すいません。 「白銀聖闘士っていうのは、僕ら青銅聖闘士と黄金聖闘士の間に位置する存在です」 「星矢の師匠も白銀聖闘士なんですよ」 「ふうん……」 ランクが3段階しかなかったのは、失礼かもしれないけれど少し意外だ。 何の根拠もなく5段階くらいはあるのかと思っていた。 「意外と少ないんだね、聖闘士って」 「88の星の数だけですからね」 「それに、もう絶えてしまった聖衣もありますし」 星座って確か、今は88以上あったんじゃなかっただろうか。 新しく星座が作られたら、また新しい聖闘士ができるというわけではないらしい。 聖域も大変だと思う一方、瞬君の言葉に首を傾げた。 「絶えた聖衣……?」 一体どういう意味だろう。 着る人がいなくなって、もう埃を被っちゃっている聖衣とかだろうか。 「何度も繰り返される聖戦の中で、修復不可能なほどに破損してしまった聖衣もあるんです。今、ムウが少しずつ蘇らせていますよ」 「ムウさんが?修理できないのに蘇らせるって、一体どうやるの?」 パーツから鋳型を作ってどうのこうのとやっているムウさんを想像してみて、全然似合わないとかぶりを振った。 ムウさんが鍛冶屋さんのようなことをしているなんて、どう考えても似合わない。 「何だかなあ……」 「……もしかしてさん、ムウがどんな役目を負っていたのか、どうやって聖衣を修復するのか、知らないんですか?」 「うん。だって、そんなこと聞かなくても、ムウさんは気配りがすごく上手で優しくていい人だっていうのは変わらないでしょう?」 訊けば教えてくれるだろう。 けれど、聖戦中のことを訊くと、誰もが少しだけ痛い表情をするから、なるべく訊かないようにしていた。 昔を知らなくても、今の皆さんは知っているから、大丈夫。 笑ってパイを食べていると、軽く目を見開いていた氷河君が、気の抜けたような笑顔になった。 「……そうですね」 「うん。氷河君達のことも全然知らないけど、こうやって一緒にお茶してるだけで、すごく楽しいもん」 2人とも、とても丁寧にパイを食べてくれている。 それだけでいい子なのは充分わかった。 だから、今はそれでいい。 「……沙織さんがさんのことを嬉しそうに話すの、何となくどうしてかわかるなあ」 「え?」 「いえ、何でもありませんよ」 「……そう?」 (ヒロインの頭の中では、タオルを頭に巻いて汗だくになりながら鉄を打っているムウの姿があったとか) |