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翌日、私と瞬君は揃ってあんぐりと口を開けていた。 そんな私達に、沙織さんが何を考えているのかよくわからない笑顔でもう一度促す。 「さあ。さん、瞬」 それにあわせて、サガさんが手に持ったものを差し出した。 ……いえ、あの、その。 受け取りたいんですが、頭と身体が追いつかないというか。 「お父様……」 まさか、こんなに早いとは。 というか、まさか瞬君へのお手紙が紙切れ1枚とは。 それに比べて、私へのお手紙が厚さ5センチはありそうとは。 「……何か、逆な気もするんですが……」 「宛名は確かにお前だ、」 「……ですよねえ……」 ギリシャ生まれのサガさんが読み間違えるわけがないし、最近ようやく読めるようになってきた私にも、確かにこちらが私のものだとわかる。 まずはおそるおそる開いた瞬君の方を覗きこんでみると、見慣れた筆跡で一言。 『悪かった』 「……お父様……!!」 謝ってって言ったけど、確かに言ったけど……! 謝ること自体が奇跡だって知ってるけど……! 「……何かもう、いろいろごめんなさい……」 「いえ……こうやって謝ってくれただけで充分ですから。それに、ハーデスが本当に謝るとは、思ってもみなかったし」 少し乾いた笑いを浮かべながら、それでも瞬君は許してくれた。 「それで、さんの方はなんて?」 「え?ええと 蝋をはがして中身を開くと、瞬君の方とは比べ物にならないほどの細かい文字がびっしりと並んでいる。 「、ごめ……ん、なさい。わかって……ほし、い?ええと お父様の情熱だけはよく伝わったけれど、残念ながらこれを読めるほどの語学力はなかった。 アフロディーテさんを呼んで、翻訳してもらうべきだろうか。 何故か言葉だけは自動翻訳される不思議っぷりだから、読んでもらいさえすれば大丈夫なはすだけれど……。 どうしたものかと困っていると、サガさんがため息を一つついて手を差し出した。 「貸せ。読んでやろう」 「あ、ありがとうございます!」 助かった!と大喜びでお手紙を渡すと、「開けるぞ」と一言断ったサガさんがざっとお手紙に目を通す。 その目が後の方を追うにつれて、どんどん微妙な表情になっていった。 どんなことが書いてあるのかはさっぱりわからなかったけれど、何だかろくでもない予感がす る 。 「その……。これは本当に、ここで読んでいいものなのか?」 「いえ、あの……中身がわからないから、なんとも判断ができないなあ、と……」 「 「じゃあ、そうしよっか サガさんの言う通りにしようとしたけれど、笑顔の沙織さんが怖すぎた……! 今恥を回避して後で沙織さんにおっそろしいことをされるのと、今恥をかいて平穏な後を過ごすか。 どちらかと言われれば、もちろん後者でファイナルアンサーだ。 「うふふふ。さあ、サガ」 「 若干引きつった顔で礼をしたサガさんが、気の進まなさそうな様子でお手紙を読み上げ始めた。 「 「もういいです!もう充分です!!お願いですからやめてくださいいいいい!!」 沙織さんの生温かい目と瞬君の信じられないような目が痛い。 でも、サガさんの哀れむような目が一番痛い。 とりあえず何よりも、謝る相手が明らかに間違っている。 必死にお手紙を奪い取って、後でアフロディーテさんにこっそり読んでもらおうと決心した。 アフロディーテさんなら苦笑するくらいで済ませてくれるはずだ、きっと。 「 「……ゼウスには逆らえない、ゼウスに逆らったらもうペルセフォネーに会えない。でもアテナは怖い、また痛めつけられるのは目に見えている、痛いのは嫌だ、ならば依代を求めるしかない、関係のない者を巻き込むのは心苦しいが、そういうわけで今回のようなことになった」 ノンブレスで言い切ったサガさんは、気のせいではなくちょっぴり疲れて見えた。 横を向くと、瞬君も同じようにぐったりしている。 沙織さんだけは変わらない笑顔のまま、困った人とため息をついただけだった。 「まったく……しょうがない人ですね、さん?」 「……お父様……!!」 なんというヘタレ……!! きちんと読む前から恥ずかしい!! アテナを超絶怖がっているのはわかるけど!(だってあの矢ガモ事件はトラウマものだ) 痛いの怖いのもわかるけど……!(だってあの矢ガ(以下略)) 「とにかく、8割方はお前に対する謝罪と言い訳と愛のメッセージだったぞ」 「…………何かもう、読む前からお腹いっぱいです」 ポセイドン様もこんな気分だったんだろうかと、何だかシンパシーを感じてしまった。 口下手な分、普段から仕草や目で訴える人だったからなあ……。 今度から筆談した方がいいんじゃなかろうかと思いながらお手紙をしっかりと封筒にしまい直す。 どんな形であれ、お父様からの初めてのお手紙だ。 大事にぎゅうと抱きしめると、瞬君がぽつりと呟いた。 「ハーデス……ずいぶん、変わったんですね」 「お父様は変わってませんよ。ずっとずっと前から、こんな風にヘタレかっこいいんです」 聞き捨てならないことを言われて、これだけは譲れないと胸を張る。 お父様は誰かを傷つけて喜ぶような、そんな人じゃない。 少なくとも私はそう信じている。 まっすぐに目を見てそう言うと、瞬君は不思議な表情で優しく笑った。 「 (やっと瞬もハーデス様を許してくれました。というか、これだけアホな手紙を読まれて、見方を変えないわけがない) |