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「、アイザックが来たよ」 「本当ですか!?ありがとうございます」 ノックと共に顔を出して教えてくれたアフロディーテさんにお礼を言って、綺麗にラッピングをした箱をいそいそと持ち上げる。 受け渡しが誰でもいいなら、きっとすぐにでも来てもらえたんだろう。 けれど今回は、アイザックさんに来てもらわないと意味がない。 多分ものすごく調整をしてくれたんだろうと申し訳なくなりがらも、顔がゆるむのを押さえられなかった。 「もう黄金も青銅の4人も、あちらに集まっているからね。も早く支度を」 「はい!」 いつものごとくアリッサさんにキトンを着せてもらいながら、他の女官さんに髪を整えてもらう。 こちらに来てからちょっとだけ伸びた髪は、複雑に編み込まれて大人っぽくすっきりとまとまった。 これをほんの数分で作ってしまうのだから、すごいとしか言いようがない。 「お待たせしました」 「ああ、綺麗だね。 「……お願いします」 横抱きをされるのはいまだに恥ずかしいけれど、私にあわせるよりもアフロディーテさんのテンポで歩いた方が早いのだから仕方がない。 恥ずかしさをこらえるためにぎゅうとしがみついていると、意外とすぐに下ろしてもらえた。 目の前には、何度か見ている大きな扉。 もう着いたのかと驚いている間に、内側から扉が開かれてしまう。 儀礼通りに頭を下げて中に入ると、本当に皆さんが勢揃いをしていた。 すいと離れていったアフロディーテさんにありがとうございますと笑いかけて、正面の沙織さんに向かって進む。 「アイザックさんをお呼びいただいて、本当にありがとうございます」 「気になさらないでくださいな。海界とは互いにもっと交流を持たなければと思っていたところだったんです」 「……それなら、よかったです」 全部本当ではないのだろうけれど、気遣って言ってもらえたなら、素直にお礼を言うべきだろう。 小さく笑ってうなずいた私に、沙織さんも目を細める。 こちらに、と示されて、そのまま段を上って沙織さんの横に並んだ。 いつもは見上げている皆さんを上から見下ろせて、何だかちょっぴり不思議な感じだ。 バケツのようなサガさんのヘッドパーツをぼんやりと眺めていたら、扉の衛兵が声を張り上げた。 「海将軍、クラーケンのアイザック殿!」 慌てて背筋を伸ばすのとほぼ同時に、ヘッドパーツを小脇に抱えたアイザックさんが入ってくる。 私と目が合った瞬間に小さく驚いたようだったけれど、すぐに一瞬微笑んでくれた。 同じく微笑み返すのと同じタイミングで、中央まで進んだアイザックさんが跪く。 お決まりの口上とそれに続くやりとりを聞きながら何となく辺りに視線を向けていると、とんでもなく驚いた氷河君が目に入った。 ついでにカミュさんにも視線をやれば、こちらも小さく目を見開いて固まっている。 おお、驚いてる驚いてる。 わざわざアイザックさんに来てもらった甲斐があったというものだ。 「わざわざご足労いただき、本当にありがとうございます。現在の聖域の様子、是非心ゆくまで視察をしてくださいな」 「貴重な機会をいただけたこと、心より御礼申し上げます」 「まずは、わが従姉妹君の贈り物を 「はい」 促されて階段を下りて行って、そのすぐ下まで進み出たアイザックさんに箱を渡す。 「まだまだ未熟な腕前ですが、どうぞお納めくださいと」 「承知致しました」 私が元の位置に戻ると、沙織さんがそれまでの固い空気を取り払うように微笑んだ。 「アイザック、聖域にはちょうどカミュも氷河もいます。積もる話もあるでしょう、滞在中は宝瓶宮へ」 「ありがとうございます、アテナ」 深く一礼したアイザックさんが出ていった後、教皇に小さく小突かれる。 まさか後ろから襲撃されるとは思ってもみなかったので、思わず頭を押さえて勢いよく振り向いてしまった。 その先で教皇はふんと鼻を鳴らす。 「きょろきょろと落ち着きがなさすぎるわ、たわけが」 「だ……だって、皆さんを上から見下ろすなんて初めてなんですよ?つい見回したくもなりますよ」 「お前はアテナの従姉妹君という立場だということを忘れたか」 「忘れてません!」 「ならば、次回からはそれ相応の威厳を持て」 「……はあい」 一般庶民の感覚は、どうやらわかってもらえないらしい。 口を尖らせて渋々返事をすると、星矢君がおかしそうに笑うのが見えた。 ケチいよな、とその口が動いたのが見えて、思わずうなずいてしまう。 だよね!だよね!と必死にうなずいていると、こらえきれずに吹き出したアフロディーテさんに手招きされた。 「、おいで。帰ろう」 「あ、はい」 「ああ、私もご一緒してもいいですか?」 慌てて階段を下りると、ムウさんもアフロディーテさんに近寄ってきた。 珍しいと目を瞬かせて見上げると、鳶色の瞳が柔らかく細まる。 「この間、髪飾りを壊してしまったと言っていたでしょう?私の方で直せそうなら、引き取って直しますよ」 「 お掃除をしていた時に、壁の装飾にぶつけて壊してしまった髪飾り。 金属製の華奢なそれは、飾りが根元からぽっきりと折れてしまっていた。 そういえばムウさんは鍛冶職人っぽいことをしていたのだったと思い出して、一気に直りそうな気がしてくる。 かなりお気に入りのものだったから、本当に直るのならものすごく嬉しかった。 「ありがとうございます、ムウさん!」 「どういたしまして。 これに似合いそうだったのにと顔を曇らせたムウさんは、髪型を崩さないように気をつけながらそっと頭をなでてくれる。 そして懐から何かを取り出すと、耳の後ろ下に差しこんだ。 「え?え?」 「直るまでの間、変わりにでも使ってください」 「え?」 「よく似合っているよ、」 「え?」 慌ててそっと髪に手をやれば、しゃらりと涼しげな音がする。 手に触れる感触とその音で、ようやく髪飾りをつけられたのだと気づく。 「 嬉しくて思わず飛びつくように抱きついたら、ムウさんが笑いながら「役得ですねえ」なんて言っていた。 もちろんその後に壊れた髪飾りを見せて、ちゃんと直ると太鼓判も押してもらいましたとも。 (ようやっとシベリアンファミリーが再会しました) |