カミュさん達はあれから数日、宝瓶宮で色々なお話をしていたようだ。
具体的にどうとはわからなかったけれど、時々顔を出してくれるアイザックさんが、とても穏やかで楽しそうな表情をしていたのが嬉しかった。

お互い忙しいのは仕方がないけれど、これからは時々行き来をしてこんな風にお話できればいい。
みんな、大切に思いあっているのは、私にだってわかるほどなのだから。


そんな風にほのぼのしつつ、時々青銅っ子達に襲撃されつつ、毎日が過ぎていった。


さーん、腹減った!!」
「うわあああ、せっかく焼いたスフレがあああ!!」
「うめー!!」
「あああああ……!」


さん、数学の問題を教えていただきたいんですが……」
「いいよー、そこに座ってて!今お茶淹れるね」
「お構いなく」


「なあなあさん、ディズニーランドって行ったことあるか?」
「何回かあるよ。シーも2回だけ行った」
「へえ!いいなあ、どんなとこなんだ?」


「こんにちは。さんが好きそうな花が咲いてたから、持ってきました」
「ありがとう、瞬君!」


さん、その   ありがとう、ございます」
「アイザックさんとはお話できてる?役に立ててよかったよ」


入れ替わり立ち代わり、星矢君達(主に星矢君)がやってきては騒ぎを起こしたり話をしたりして帰っていく。
それはお世辞にも穏やかとは言えないけれど、久しぶりに経験する「普通」の日のような気もした。


星矢君達の長期休暇が終わって、アイザックさんもそのタイミングで帰ることになって。
寂しくなるなあと思ったのは、だからかもしれない。


「それじゃあ、沙織さん。また日本で」
「ええ。ちゃんと学校に行ってくださいね、星矢」
「ちぇっ、言われなくても行くよ」


そんなやりとりを交わす沙織さんと星矢君の横で、アイザックさんにバスケットと白い箱を渡す。


「これは   ?」
「今朝焼いたパンと、ビスケットとヌガーです。皆さんで召し上がってください」


もしも起きたら、ポセイドン様にも。


こっそりとお願いすると、一瞬虚をつかれたような表情になったアイザックさんが、思いっきり破顔した。


   わかった」
「お願いしますね」


アイザックさんをよこしてくれた優しいポセイドン様にも、地上で育った食べ物を食べてもらいたい。
多分、あのポセイドン様なら食べてくれるはずだ。


アイザックさんと2人でこっそり笑いあっていると、怪訝な顔をしたカノンさんに呼ばれた。


「何やってんだ、お前ら。、巻き込まれて海界まで墜落したくなかったらこっちに来い」
「行きます行きます!!」


墜落だなんて、そんな恐ろしい!


慌てて駆け寄ると、大きな手でぐしゃりと頭をなでられる。
やや雑なそれは、けれど思った以上にとても優しかった。


「お前がアイザックに懐いているのは知ってるがな、あまり困らせてやるな」
「困らせてませんよ!挨拶してただけです」


どれだけ子供扱いをするのかと頬をふくらませると、明らかにおざなりに「あーはいはい」とあしらわれる。

何だかとても理不尽だ。
私がアイザックさんに帰ってほしくなくて、駄々をこねていたようじゃないか。


「また会えますよ、
「そう気を落とすなって」


ムウさんとデスマスクさんになぐさめられつつ(というか半分馬鹿にされつつ)、アイザックさんを見送る。
カミュさんが少しだけ寂しそうな顔をしていて、やっぱりお弟子さんが可愛いんだと頬がゆるんだ。

それからすぐに星矢君達も帰ってしまって(シュンって消えた)(人としてありえない)、聖域は元通りに静かになる。
ほっとするのと同時に少しだけ物足りなくなって、アイオロス様にぺたりとくっついてみた。


あれだけ星矢君のことを可愛がっているようだったし、アイオロス様も寂しいんだろうか。


そっと見上げたアイオロス様はいつもと変わらない表情をしていたけれど、背中をなでてくれる手はいつも以上に優しかった。
やっぱり寂しいのかもしれないとさらにくっつくと、アイオロス様が小さく苦笑する。


「どうした、寂しいのか?」
「……ちょっとだけ」
「そうか」


優しく目を細めてうなずいたアイオロス様は、微笑ましそうな表情になった。


「やっぱり、年の近い友達が帰ると、寂しいもんなあ」
「…………は?」


待て待て待て。
何だか今、とんでもない言葉を言われた気がするぞ。


さもありなんとばかりにうなずいているアイオロス様の服をがっしとつかんで、もう一度確認する。


「年の、近い?」
「ああ、星矢達の方がいくつか下だったか。でもまあ、3つも違わないだろう?」


全くもって違う。


訂正してやってくれと辺りを見回しても、皆さん同じような表情だ。
(多分)わかっている(と思われる)アフロディーテさんとムウさんは、含みのある笑顔を浮かべるだけ。
……どう考えても誰も訂正してくれないということだけはわかった。


大きくため息をついて、ぎゅうと拳を握りしめて、落ち着け私と心の中で繰り返す。


よーしいいかー?いいともー。


そんな阿呆な脳内会話を済ませてから、べしりとアイオロス様の腹筋を叩く。


「……私、これでも20歳越えてます。ちゃんと成人式もやりました!」


くっとアイオロス様の目が見開かれた。
ミロさんの口が半開きになった。
アイオリアさんがは、と間の抜けた声をあげた。


そのまま5秒ほど沈黙が続いて、そして。




「はあああああああ!?」
「ありえねえ!ありえねえって!」
「成人……が、成人……?」




騒ぐ人あり呟く人あり現実逃避しそうな人あり。

全くもって失礼だ。
瞬君達はすぐに気づいてくれたのに、どうして黄金の皆さんはわからないのだろうか。

そんな中で不意にムウさんが動き、私の肩を抱き寄せておかしそうに笑った。


「本当に、皆さん失礼ですねえ。   は私と同い年なのにね?」
   え?」


誰と、誰が、同い年?

ムウさんと、私が。


ムウさんと?




「……えええええええ!?」




今度は私が絶叫する番だった。
無理、信じられない!!












(お年がばれたところで、お互いに驚きすぎました)