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お父様に差し上げるストール(鉤針製)(ほしいとリクエストされた)をせっせと編んでいると、突然頭の中に声が響いた。 「 ええと、今のは どこかで聞いたことのあるような声だった気もするけれど……。 空耳でないのは確かだから、多分神様の誰かだろうというのはわかる。 女神様だろうということもわかる。 その上で私に会いにくるなんて、一体どんな物好きだろうか。 などと考えつつ、とりあえずアフロディーテさんにお願いをして、沙織さんに会うことにした。 聖域の最高責任者は沙織さんだ。 私に会いにくるにしても、まず何よりも沙織さんに許可をもらわなければいけないだろう。 「 「さん……それはきっと、ペルセフォネーですよ」 私のところにも連絡がきましたからと苦笑した沙織さんの言葉に、思わず頭を抱えてのたうち回りたくなる。 そ、そうだよ、お母様がいるじゃないか……! どんな物好きとか、どれだけ失礼なんだ、私!! 「そうですよね、お母様ですよね……!!」 「さんは、ペルセフォネーと会ったのは、あの一度きりですよね?」 「……はい……」 ああもう、娘失格だ……。 なんて謝ればいいのか、考えることすらおこがましい! ずどんと落ち込んでいたら、白くて細くて綺麗な指がそっと腕に触れた。 「さん、そんなに落ちこまないでくださいな。あの時はさんも混乱していましたし、誰も責めることなどできませんよ」 「でも……」 「ペルセフォネーも、そんなことでは怒りません。そんなに度量の小さい女神だとお思いですか?」 「そんな!」 お母様が心の狭い方のわけがないとかぶりを振ると、じゃあいいじゃないですかと笑顔で封じられた。 「急いで歓迎の用意をしましょう。香り高いワインと極上のチーズを用意しなければ」 「お母様、ワインとチーズがお好きなんですか?」 「太古からの神々への捧げ物ですからね。それに、晩餐会でもよく出されるでしょう?」 確かに、ワインとチーズは供物にありそうな組み合わせだ。 あれ?でもそれって、キリスト教だった気もするけれど……。 沙織さんが言うならそうなんだろうと一応納得をして、それ以上の言及は避けておく。 14歳のはずの沙織さんも、まさか神様としてワインを飲みだすんじゃないだろうかとか、そんな言及も避けておいた。 「楽しみですね、さん」 「はい!」 にっこりと小首を傾げた沙織さんに大きくうなずいて、私は何かしなくてもいいんだろうかと思い至ったのは、お約束のようにアフロディーテさんのところに帰ってきてからだ。 もう一度聞くわけにもいかずに悩んでいるうちに、あっという間に2日が過ぎてしまった。 仕方がないので、お父様にと作っていたストールを猛特急で仕上げて、お母様に差し上げることにしたけれど……喜んでくれるだろうか。 一応、色は白に近いクリーム色だから、おかしくはないとおもうけれど……。 お父様には後でまた色違いを編んで贈ろう、そうしよう。 お揃いのデザインなら、きっと絶対に大喜びしてくれる。 やっぱり黒で編みますね!と心の中で報告して、いつものようにアリッサさんに綺麗に結い上げてもらった髪を確認する。 沙織さんにプレゼントされた服のドレープも、女官さん達がいつも以上に気合いを入れて細かく作ってくれた。 普段は絶対に塗らないマニキュアも、桜色を一部の隙もなく塗られた。 お化粧も何だかとっても楽しそうにされて、当社比8割増しで綺麗に見える。 ……プロってすごい……。 「綺麗ですよ、様」 「ありがとうございます」 アリッサさんにも太鼓判を押されたけれど、自分でも驚くほどの変わりようだ。 女が化粧で化けるという意味がわかった気がする。 「行ってらっしゃい。ペルセフォネー様がどんな方か、後で聞かせてくださいね」 「はい!」 見送ってくれる女官さん達に手を振って、教皇庁への石段を慎重に上る。 裾を踏んで転ぶなんて、今の格好でやったら目もあてられない……。 少し息を切らせながら上り切ったところで、背中をぽんと叩かれた。 「よ、。アテナのところに行くのか?」 「こんにちは、ミロさん。サガさんに書類ですか?」 「ああ。やっと書き終わってさあ」 もう勘弁してくれとばかりに伸びをしたミロさんの手には、ちょっとよれっとしている紙の束。 きっと何度も駄目出しをされたんだろうと想像できて、ミロさんもサガさんも気の毒になってしまった。 駄目出しをされるミロさんも、同じような内容に目を通すサガさんも、どちらも大変に違いない。 「じゃ、俺こっちだから。気をつけて行けよ」 「はい。また後で」 「おう!」 元気よく片手をあげたミロさんを見送って、沙織さんのところに急ぐ。 お母様がいらっしゃる前に、ストールのラッピングをしてしまわなければ。 沙織さんは「素敵なものを揃えておきますね」と言っていたけれど、一体どんなラッピングなんだろう。 「沙織さーん、お邪魔します」 「お待ちしてました、さん。どれがよろしいでしょう?」 喜々として沙織さんが見せてくれたのは、ふわふわの半透明の紙やレースのついた布、色とりどりの綺麗なラッピング。 「箱はこれを使ってくださいな」 そういって差し出されたのは、桐でできた装飾入りの箱。 まさかこれ、これだけのために作らせたんじゃないだろうか。 沙織さんなら特注で即日製作させそうだ。 職人さん達はさぞ大変だったろうと、思わず目頭が熱くなってしまった。 「もうすぐペルセフォネーがくるはずです。早く仕上げてしまいましょうね」 「……はい!」 (クリーム色のを編んでいたのは、ハーデス様がまっくろくろで何だか重そうだと感じたから。白系統で編んでてよかったね!) |