沙織さんの横で待つにつれて、緊張がどんどん高まってくる。

お母様ってどんな声だっただろう。
どんな顔だっただろう。

柔らかくて綺麗で優しくていい香りがしたということは覚えているけれど、細かい記憶が全部まとめてぶっ飛んでいた。


「さ、沙織さん、私どこか変なところないですか?お母様に失礼な格好とか……!」
「安心しろ小娘、お前はいつでもへ」
おかしなところなどありませんよ、さん。いつも通りでいてくだされば、きっとペルセフォネーも喜びます」


……教皇、大丈夫かな……。
ニケで思いっきり頭殴られてたけど、陥没とかしてないかな……。

それを笑顔でしてしまう沙織さんが、ちょっぴり怖い。
引きつっているだろう笑顔でうなずき返しながら、最近やっと慣れてきた目の前の光景を見下ろす。


ヘッドパーツを取っている皆さんは、それでも十分金ぴかだ。
あれはやっぱり純金なんだろうか。
いやいや、金は結構柔らかかった気がするし、だとしたらあんな人外なパンチをくらったらひとたまりもないんじゃ   ああ、小宇宙ですかそうですよね。


そんなことを考えつつ沙織さんのスカートの裾をこっそりと握っていたら、何とも微笑ましそうな目を向けられた。
一応沙織さんよりも年上なんだけれど……この切なさは一体何だろう。
けれどそんな切なさも、沙織さんの呟きでどこかに吹っ飛んだ。


   来ますね」
「何という気品に満ちた小宇宙……!」


カミュさんがひどく驚いたように叫んだけれど、気品に満ちた小宇宙とはどんなものなんだろうか。
こっそり首を傾げている間に、目の前がみるみる明るくなっていく。
思わず目をすがめてしまったそのタイミングで、誰かに優しく抱きしめられた。


こんなところまで上ってこれるのは、私と沙織さん以外には教皇しかいない。
その教皇だって、沙織さんよりも前に出てくることはけしてない。

と、いうことは。


「お、母様……?」
「久しぶりね、


とろけるような微笑みでうなずいたお母様は、もう言葉では表せないほどに美しかった。


ああもう、わかる!わかるよ、お父様!
これは何がなんでも攫いたくなるほどの美人さんです!!


蜂蜜色の髪がゆるくウェーブを作って、そこから花の香りがする。
あまりのいい匂いに思わず顔をうずめると、くすくすと笑って髪をなでられた。


「貴女の髪は、あの人と同じ色ね。漆黒で真っ直ぐで、本当にそっくり」
「私、ちょっと茶色いですよ……?」
「あらあら、せっかくあの人を恋しく思っているんだもの。否定しないで?」


あんな綺麗な黒にはなれないと思いながらかぶりを振ったら、人差し指で唇を押さえられる。
そんな仕草もうっとりするほど綺麗なんだから、美人さんは本当に得だ。

夢見心地でうなずいた私に、沙織さんが笑いながら後ろを示す。
何かと思って振り向いて、叫びそうになってしまった。


「ひゃ   !」


ずらりと並んだ黄金の皆さんが、揃って膝をついて頭を下げている。
沙織さんに対しても1度しか見たことのないその光景に、思わず口元を覆った。


「私の娘が、いつもお世話になっていますね」
   は」


お母様の言葉に、少しためらったサガさんが短く答える。


神様に話しかけていいのは、呼びかけられた時だけ。
……だった、気がする。


だからサガさんも、答えていいのかどうか迷ったんだろう。
今の言い方では、誰に言っているのかわからなかったから。

そんなことには気づいていなさそうなお母様が、くるりと振り向いて目を細めた。


   さあ、。たくさんお話しましょうね!」


貴女が喜ぶと思って、色々持ってきたのよ。
そう言って見せてくれたのは、金色の果物。

「ネクタルの実よ。こちらにはないでしょう?」
「ネクタル……!神々の飲み物ですね!」


神話の中に出てくる、神々の好物。
桃のネクターはこれからきているんだとか。

まさか見られるとは思っていなかったプレゼントに、大喜びで受け取ってしまう。


「さ、沙織さん、これって私が食べてみても大丈夫ですか?」


神様にとっては単なる好物でも、人にとっては毒になるなんてオチは嫌だ。
おそるおそる沙織さんに訊くと、笑いながらうなずいてくれた。


「もちろん。しばらくは聖域の食事が物足りなくなるかもしれませんが」
「そんななんですか!?」


一体どんな味なんだろうと思いつつ、いそいそとシュラさんの前に行く。
お願いしますと差し出すと、思いっきりうろんげな目で見られた。


「……何だ、これは」
「切ってください!シュラさんなら綺麗にすっぱり切っていただけますから」


きっと綺麗に切り分けてくれるに違いない。


「……お前、聖剣を便利包丁か何かと勘違いしていないか……?」
「まさかそんな、シュラさん器用じゃないですか」


ナイフは厨房から借りてくるにきまっている。

大体、エクスカリバーと行ったら、アーサー王の剣じゃないか。
それか、ゲームでお馴染みの結構高位アイテム。
それがシュラさんとどんな関係があるんだろうか。

首を傾げて言い返すと、シュラさんがぐっとつまって小さくうめいた。


「……わかったから、早くナイフを借りてこい。アテナとペルセフォネー様に許可をもらえよ」
「はい!」


もちろん2人が反対するわけもなく、(迷子になる自信があるから)ムウさんに連れられてナイフを借りてきた。
危ないからとムウさんが持っていてくれたナイフをシュラさんに渡すと、しゅるしゅると綺麗に皮をむいてくれる。


「8等分でいいのか?」
「え?16等分ですよう!」
「……ずいぶん細かいな」


嫌そうな顔になったシュラさんには申し訳ないけれど、こればかりは譲れない。


「私と、皆さんと、沙織さんと、お母様の分です」


私だけ食べるのはずるすぎる。
せっかくおいしいものをいただいたんだから、皆で分けて食べるべきだろう。


何故か驚いているシュラさんをせかしていると、後ろで沙織さんとお母様が何かをささやきあって楽しそうに笑っていた。


あ、皆で少しずついただいたネクタルは、正に天上の味でした。
本気で明日からのご飯をどうしようかと悩んでしまった……(舌が肥えすぎた……!)












(ネクタルの材料がどうしてもわからなかったので捏造。ワインのことかと思ったけど、ディオニュソスがワイン(というかお酒)の神様だったはずだし…。アテナとペルセフォネーは「とてもいい方でしょう?」「ええ。さすが、私達の娘ね。ふふふ」とか言い合ってました)