お母様がいらしてから、私の住まいも一時的に沙織さんと一緒の場所になった。
何でも、この聖域で一番神聖なところなんだとか。
お母様は神様だから、必然的にそこに住むことになるわけで、そうなると連鎖的に私もここにくることになるんだけれど   


「お……落ち着かない……!!」


冥界でのお姫様扱いはもう慣れたけれど(というか、慣れざるをえなかったんだけど)、この聖域で、毎日賓客を通り越す勢いの扱いを受けるのは、ものすごく落ち着かないのだ。
普段なら今ごろ、女官さん達と一緒にアフロディーテさんの宮のお掃除をしている時間なのに、今はと言えば。


「まあ、はレース編みが好きなのね」
「好きというか、お父様に差し上げると喜んでくださるので……」


暇を持て余していたあの時に何となく作ったのがきっかけで、それ以降も何となく続けている。
何となくだなんて、日本人の典型だなあと思いながらお母様に答えると、優しい手つきで指をなでられた。


「でも、こんなに丁寧に編んでいるでしょう?それはきっと、が好きなことだからよ」
「そう……で、しょうか?」
「ええ、きっと」


確かに、編んでいる時はとても集中できるし、綺麗にできるととても嬉しい。
お母様の言う通り、私はレース編みが好きなのかもしれない。




とかまあ、こんな感じでのんびりと時間が過ぎていく。


それはとても幸せなことだとわかっているし、地上でお母様とこうしてお話しできること自体が素晴らしいことだと、わかってはいるのだけれど……。
突然の別格待遇に、思わずお尻をもぞもぞとさせたくなってしまうのだ。
アフロディーテさんのところがちょっぴり恋しい……。


、お腹は空かない?何か悩んでいるようだけれど、お茶でも飲んで気分を落ち着けましょう」
「あ、はい」


優しいお母様の言葉にうなずいてお茶を入れようと立とうとすると、どこからともなく女官さん達が滑るように入ってきた。
彼女達(多分沙織さんづきの女官さん達)はそのまま手際よくお茶の準備をしていって、お母様もそれを当然のように待っている。


……世界が違うと再認識しました、はい。
そうですよね、人の世界で神様がお茶の準備なんかしちゃいけないんですよね。

私、腐っても神様の端くれに並んじゃってたことを忘れてました。
というか、忘れていたかったです。


ちょっぴり哀愁をただよわせながら席について、最高級のお茶菓子と紅茶をお母様と味わう。


「ねえ、は普段、どんな紅茶を飲んでいるの?」
「え?ええと、アフロディーテさんって人が作ってくれた、薔薇茶を飲むことが多いです。ポットの中でふわって花びらが浮かんで、すごく綺麗なんです!」
「まあ、そうなの」
「はい!色も綺麗ですし、アフロディーテさん曰く美容にもいいとかで、確かにここにきた時よりもお肌の調子がいいんですよ」


ギリシャの硬水が身体に合わなかったのか、唇の周辺にカルキがこびりついて、来た当初はかなり困ったものだった。
それが改善されたのも、薔薇茶のおかげだと信じている。
新陳代謝を良くしてくれるとか聞いたけれど、あれを飲むようになってから、少しずつこちらの水にも慣れることができるようになったのだ。

そんなことを力説すると、お母様ははんなりと笑った。


「では、彼にお礼をしなくてはなりませんね」
「はい!どんなものがいいと思いますか?」
「そうね……私にあげられるものは花ぐらいだけれど、彼は喜んでくれるかしら?」


思慮深げに眉根を寄せるお母様に、思わず持っていたマドレーヌを握りつぶしそうになってしまう。


かかかか、神様から贈り物だなんて!
私から何か渡す気満々だったのに、お母様からだなんて!!


お花の神様からお花をいただいたら、そりゃあもうアフロディーテさんも光栄しきりだろう。
あんなに薔薇達を大事にしている人だから、きっととても喜んでくれるに違いない。

ぶんぶんとうなずきながら、私は何を渡そうかと考えた。

レース編みはもういくつかあげているし、お菓子も時々焼いては一緒に食べている。
私こそ、何もあげられるものがないではないか。
半泣きになったところで、お母様の白い手が頬に触れた。


   彼はきっと、からはもうたくさんの贈り物をもらっているはずよ?」
「……え?」
「だって、貴女の司るものは、それだけで贈り物になるもの」
「……私の、司るもの?」


お母様は花の女神。
お父様は冥界の神様。
となれば、もしや私にも何か司るものがあるんだろうか。

今更ながらにそれに気づいて、気づいたら何なのか無性に知りたくなった。
というか、知りたくなるのが人情だろう。


「わた、私の司るものって、何なんですか!?」
「あらあら、知らなかったのね。それなら知らない方がいいんじゃないかしら?こういうのはね、。知らない方が多くの人を救うのよ」
   よく、意味がわかりません……。」


知らない方がいいだなんて、まるでパンドラの箱だ。
開けたら最後、希望以外の全ての物がなくなったりして。


とか考えたところで、突然某ご長寿アニメ(ち○まる子○ゃん)のオープニングのワンフレーズが頭をよぎった。
お鍋の中から〜とか、どんな連想ゲームだ、私。


頭を抱える私を、お母様はただただ楽しそうに笑いながら見ていた。












(ヒロインも実は、あるものを司る神様だったりするのです。みんな忘れてますけど!)