「あの、訊いてもいいですか?」


うっとりするようないい匂いの紅茶を飲みながら、目の前の人をとっくりと見る。
優雅にティーカップを傾けていたその人は、やっぱり優雅に小首を傾げた。


「何かな?」
「聖闘士って、顔で決まるんですか?」


横で何かを吹き出す音がしたけれど、とりあえず気のせいだろう。
うん、気のせいだ。


「おや、おもしろいことを言う子だね」
「だってここ、イケメン揃いなんですもん」
「さすがに、顔で選ぶことはしてないんじゃないか?」


そんなもので選ばれたら、俺達の立つ瀬がないよ。


苦笑して答えたその人は、アフロディーテと言うらしい。
アテナ以外の女の人!しかも超美人さん!とか喜んでいたら、男の人だと言われて泣きそうになった。


というか、ちょっぴり泣いた。
本人になぐさめられた。


その時に両手に抱えるほどの薔薇の花束をくれたから、私の中ではいい人ポジション確定だ。
隣のシュラさんは、顔を合わせた瞬間にものすごくすごまれたから、怖い人確定だけれど。


「でも皆さん、本当にかっこいいですよねえ」


芸能人も真っ青の美形っぷりだ。
特にこのアフロディーテさん、女性の名前がぴったりなほど美人すぎる。
私服だと着痩せして見えるから、余計に美人さん。


「……一応、ありがとうと言っておくよ」
「どういたしまして!でも、一番かっこいいのは、やっぱりお父様ですけどね!」


調子に乗って笑った瞬間、一瞬だけだけれど、シュラさんから鋭い目で見られた。
やばい、逆鱗に触れたか。


この聖域とやらでは、ハーデス様関係の単語は禁句に近いらしい。
そんなに仲が悪かったのか、アテナ……。


まあとにかく、それで私のことをよく思っていない人もいるらしく、アイオロス様とそっくりな人には面と向かって言われてしまったくらいだ。
気をつけようとは思っているんだけれど……やっぱり、そう簡単にウッカリ体質は変わらない。

またやってしまったと首をすくめると、シュラさんも気づいたのか気まずそうな顔になった。


「……すまん」
「あ、いえ。しょうがないですよ」


ぱたぱたと手を振ってアピールし、気を取り直して紅茶を一口。
ローズヒップの香りがふわりと広がって、優しい気持ちになれた。


「アフロディーテさん、このお茶は自家製なんですか?」
「気に入ったかい?」


にこりと微笑まれて、思わずよろめきそうになる。
危ない危ない、美人の笑顔は危険だ。


「はい、そりゃあもう!」


何とか持ち直して笑い返すと、アフロディーテさんが嬉しそうに笑った。


「そんなに気に入ったなら、後で庭園においで。花を分けてあげよう」
「ありがとうございます!   あ、でも、お茶の作り方とか、全然わからないんですけど……」


まさか、飾るだけというわけにはいかないだろう。
せっかくもらうんだから、おいしくいただきたい。


おそるおそる申し出ると、アフロディーテさんが瞬いて、微笑みながらうなずいた。


「それなら、確か茶葉がまだ余ってるはずだ。ちょっと待っておいで、探してこよう」
「重ね重ねすいません……」


平身低頭でお願いし後に、ふと気づいた。




……このままだと私、シュラさんと二人っきりだ……!!




ものすごく気まずい沈黙が、アフロディーテさんの守護(?)する建物の中にあふれる。
流れるどころじゃなく、あふれているところがポイントだ。


「あの……」


何とかこの沈黙を打開しようと声を出してみたけれど、鋭い目で一瞥されてその気力も萎える。


無理無理無理!
この人怖すぎ!



ヒィ!と悲鳴をあげそうになったところで、シュラさんがふいと目をそらした。


「あー……その、お前は……何故、ハーデスと親子に?」
「は……?あ、ええと……何となく?ハーデス様ってほら、ものっすごくヘタレですし


あ、やばい。
ガクブルしていてある意味気が抜けていて、うまく頭が働かずに、ついぺろりと本音が出てしまった。

案の定シュラさんがぎしりと固まってしまったのを見て、ますますガクブルしてしまう。


「だだだだって、あんなヘタレ具合見ちゃったら、ついふらふらっときちゃいますよ!!」
「……ちょっと待て」
「はい!」


反射的にびしりと背筋を伸ばすと、シュラさんがこめかみを押さえてうつむいていた。
ものすごく頭が痛そうな表情だ。
どうしたのかと首を傾げると、地の底を這うような低い声で呟かれた。


「……サガの言っていたことが、何となくわかった」
「サガさん?」


誰だっけ、どの人だっけ。


いっぱい人がいすぎて、どれが誰だかわからない。

アイオロス様の他はアフロディーテさんとシュラさん、ムウさんくらいしか覚えられていないので、軽く軟禁の今の状況が、実はありがたかったりする。
どの人だったかと悩んでいたら、シュラさんに軽くため息をつかれた。


「……お前が一番最初に会った相手だ」
「……ああ、美形のお兄さん!」


真面目っぽくて融通きかなそうな人か。




「お前は」




また低い声をかけられて慌てて顔を向けて、思わず固まってしまった。


だって、だって、あのシュラさんが!
マフィアじゃないかってほど怖いシュラさんが!
ほんのちょっとだけど、笑っていたんだもの!


「あ……あああああの!?」
「……俺達の意表を、突きすぎる」


ためらいがちに伸ばされた手がくしゃりと私の髪をなでて、目にも止まらぬ速さで引っこんでいった。
すぐにそっぽを向いてしまったシュラさんが、何だかさっきよりも怖くなく見える。


ちょっぴりほのぼのしたところで、アフロディーテさんが戻ってきた。


「待たせたね。   どうかしたのか?」


何だか楽しそうにシュラさんを見たアフロディーテさんを、シュラさんがマフィアも真っ青の表情で睨みつけた。


「アフロディーテ……!」
「ん?何だ、シュラ?」
「……うるさい!!」


真っ赤な顔で怒鳴ったシュラさんに、アフロディーテさんが声をあげて笑う。
つられて笑った私にシュラさんがまた怒ったけれど、もうさっきみたいに怖くはなかった。
何だ、結構いい人じゃない!












(本当はヒロインと仲良くしたいのに、真面目すぎてどうやっていいのかわからないシュラ。シュラ兄大好き!アフロは2人の会話をこっそり聞いてます)