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お母様と過ごす時間は、お父様と過ごす時と同じようにゆっくりと流れる。 甘い花の香りに包まれながらうっとりと目を細めると、お母様もにっこりと笑った。 「この香りが気に入った?」 「はい」 「それじゃあ、の樹は金木犀にしようかしら」 「……は?」 いやいやいや、ちょっと待ってください。 どこをどうしたら、今の言葉につながるんですか。 確かにこの香りは、金木犀のものだけど……。 「神は樹を戴くものよ、。そろそろ貴女にも贈らなければと思っていたところだったの」 「そ、そんな、神様なんて恐れ多い……!」 「あら、でも、貴女は私達の娘でしょう?」 ちょこんと小首を傾げるお母様は、反則的に美人さんだ。 こんな美人さんの娘でいいのか、私。 というよりも、お母様たちはいいのか。 そんな今更すぎる疑問をぐるぐると考えていたら、髪にふわりと金木犀の香りが舞った。 「ふふふ、黒髪にオレンジがよく映えるわ」 まるで、花の妖精みたい。 まるっきり花の女神様に言われて、喜んでいいのかショックを受けるべきなのか。 それよりも、金木犀って他の神様が使っていたりしないんだろうか。 もしそうなら、その神様に申し訳なさすぎる。 あ、でも、金木犀って中国の樹だったっけ? それなら、ギリシャ神話の神々には捧げられていない可能性の方が高い。 「お母様、本当にいいんですか?」 「ええ、もちろん。きっとあの方も喜ぶわ」 「……お父様も?」 「今の地上では、花言葉というものがあるんでしょう?この間魚座に教えてもらったけれど、あなたにぴったりね」 「……ええと、どんな花言葉なんでしょう」 聞くのが何となく怖い。 けれど、アフロディーテさんがお母様に何を吹き込んだのかが気になって仕方がなかった。 というよりも、いつの間にそんなに仲良くなっていたんだ。 確かに絵になる二人だけれど! 私なんかよりもずっと素敵なツーショットだけど!! 写真に撮っておきたいぐらいだけど!! ずずいとお母様に詰め寄っても、「さあ?にぴったりなことだけは確かよ」としか答えてくれない。 一体どんな花言葉なんだろうか。 首をひねりながら、髪に散らばった金木犀の花を一つつまむ。 独特の甘い香りがして、思わず頬がゆるんだ。 ああ、やっぱりいい匂い。 「これからは、金木犀が貴女の樹」 優しくささやいてくれるお母様の声が気持ちよくて、うっかりうなずいてしまった。 そう、思わずうなずいてしまったのだ。 その瞬間、金木犀の香りがより一層強くなる。 そうして初めて、私は事の重大さに気づいた。 「あ、ああああのお母様、何か今変な感じになったんですが」 「それが貴女のものになった証拠よ、」 「そ、そんなに簡単にできちゃうものなんですか……!」 なめていた。 なめていた、ギリシャ神話。 そりゃそうか、嘆き悲しむだけで樹になれたりしちゃう世界だもんね。 神様の一言で人が花になる世界だもんね。 こんな軽いノリで、私にも樹が与えられちゃうんですね。 打ちひしがれていると、金木犀の香りがふうわりと私を包んでくれた。 どうしたの、どうしたの。 大丈夫? そう問いかけられているようで、思わず小さく笑みがこぼれる。 どんな経緯にしろ、この子は私を表す樹になってしまったのだ。 ならば、今までよりももっともっと好きになろう。 今度、アフロディーテさんの中庭にも植えてもらおう。 そう思い直して、微笑ましそうに見ているお母様に笑いかける。 「お母様、どうもありがとうございます!」 「お礼をいわれるほどのことはしていないわよ?」 「でも、嬉しいですから」 元々好きだった金木犀の香り。 それがもっと好きになれた、穏やかな午後。 (アフロとペルセフォネーは、こっそり仲良くなってるといい。そして、金木犀を象徴に持っている神様がいないことを祈ります…) |