「…………ん?」


誰かに呼ばれた気がした。
辺りを見回しても、それらしき人は見つからない。


   


   あれ?やっぱり……」


ちょっと待て。
この、頭に直接響くような声は……。


「神様……?」


そう、以前お母様がいらした時の状況とそっくりだったのだ。
けれど今度は、本当に知らない男の人の声。
とても素敵な声なのだけれど、知らないというだけで身構えてしまう。


「ええと、あの、何かご用でしょ   
「ああ!やはり天上で見ているよりも愛らしい!!」
「ひぎゃあ!!」


いきなり耳元で聞こえたその声に、比喩ではなく飛び上がってしまった。
おそるおそる振り返ると、何というか……うん、誰かは一発でわかった。

きらきらと輝く金色の巻き毛に、誇らしげに飾られた月桂樹の冠。
引き締まった身体に纏われた、赤いマント。

アポロン様だ!
美神と名高いアポロン様!!

わくわくしながらじっと見   ようとして、その前に沙織さんに呼び止められた。


さん、ちょっと待ってくださいね。……アポロン。こちらへいらっしゃい


後半の声が怖い。
とんでもなく怖い。
アポロン様もほら、顔色が滅茶苦茶悪くなってる。


「な……何だ、アテナ」
「そんな変態じみた格好で、この聖域を歩かせるわけにはいきません。さっさと着替えてきなさい」


……変態?
首を傾げながらまじまじとアポロン様を見直して。




   きゃああああああああああああああああああ!!」




マントの下、マントの下……!!
何も着てない……!!


「へ、へへへへへんしつしゃああああああああ!!」
!?」


駆けつけてくれたアフロディーテさんにしがみついて、ふるふると震える手で必死に変質者を指さす。


「アフロディーテさん、へん、へんしつしゃ……!!」
   ああ、確かに変質者だね。待っておいで、今撃退してあげるから」
「はい……!!」
「ちょ……待て待て待て!!仮にも神に対して何だその物言いは!」
お黙りなさい、この変態。さんを泣かせた罪は重いですよ」
「アテナ!?」


ヒィ!とアポロン様が悲鳴をあげた。
そんな姿を視界に入れるのも汚らわしいとばかりに、沙織さんが立ちふさがってくれる。


「私の忠告も聞かずにこの聖域に押しかけた上、さんに汚らわしいものを見せるなど……。いい根性ですね?アホロン」
「アポロンだ!!」
「あなたなどアホロンで充分です。さっさと帰りなさい」


ニケが振りかぶられた。
華麗によけるアポロン様。
床に突き刺さるニケ。

……この床、一体誰が直すんだろう……。
女官さんかなあ……。

アフロディーテさんじゃないことだけは確かだ、うん。


「あなたのせいで床に穴が開いたじゃありませんか。お詫びに直しなさい、アホロン」
「理不尽!?とても理不尽だぞ、アテナ!!」
「さ、。アホは放っておいてお茶にしようか。今日はアイオロスも付き合ってくれるそうだよ」
「本当ですか!?」


アイオロス様とご一緒するのは、そうそう滅多にない。
思わず喜色満面でアフロディーテさんを見上げると、何やら沙織さんとアイコンタクトを交わしていた。


「後でアイオロスをそちらにやりましょう」
「お心遣いありがとうございます、アテナ」
「というわけでアホロン。あなたはさっさとこちらへいらっしゃい。   アフロディーテ、修繕はこの男に行わせますからね」
「かしこまりました」
「おい、アテナ!!私は我が妻に会いに来ただけ   
「その妻とやら、まさかさんじゃありませんよね?」
「ヒィ!」


後半はよく聞こえなかったけれど(沙織さんがアポロン様をずるずる引きずっていった)(「ちょ、首絞まる、ぐえぇ!?」とかいう悲鳴は聞こえた)(大丈夫かな……)、沙織さんが真っ黒なオーラを出していたことだけはよくわかった。
一体どうしたのかとアフロディーテさんを見上げると、うっとりするような微笑と共に頬をなでられる。


「気にしなくていいんだよ、
「……はい!」


アフロディーテさんが言うなら、きっとそうなんだろう。
元気一杯にうなずいて、アイオロス様をおもてなしするために、お茶の準備へと思いを馳せた。

今日はどのお茶にしようかな。
きっとお疲れだろうから、レモンバームのお茶なんてどうだろうか。
そうすると、お茶請けはちょっと甘さ控えめの方がおいしいかも。
この間作った洋梨のタルトがおいしかったから、あれがいいかな。
確かまだ、残ってたはずだし。

「アイオロスとお茶をするのは久しぶりだね」
「はい!精一杯おもてなしします!」
「普段通りでいいよ、


苦笑したアフロディーテさんは、けれど「いい子だ」と頭のてっぺんにキスをくれた。
くすぐったくてくすくす笑うと、ふわりと優しく抱き上げられる。


「さあ、帰ろうか」
「はい!」












(アホロンならぬアポロン登場。変態はデフォルトです)