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変態さんもといアポロン様が嵐のように去ってから、ずいぶん時間が経った。 あの時は本当にびっくりした……。 春じゃないのに露出狂に遭遇するとは思いもしなかった。 撃退したときのアフロディーテさんと沙織さんの格好よかったこと! はふ、とため息をつきながら思い出していると、長くて綺麗な指に額を小突かれた。 「、何を考えてるのかな?」 「あ、ごめんなさい。この間のことをちょっと……」 「ああ、あの変態か」 ちょっぴり眉を顰めたアフロディーテさんは、ものすごく嫌そうな声を出す。 そうですよね、美学に反しますよね。 「ああいう人、日本でも春によく出るらしいんです。気持ちよくて理性が飛んじゃうんでしょうか?」 「いや、あれに関しては、そういうものは関係ないだろう。年中あんな感じらしいよ」 「…………お気の毒です、ね?」 「ああ、哀れだね」 「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!はともかく、貴様のような人間風情に貶されるいわれはないわ!!」 「ひゃあああああああ!?」 がっしゃんと大きな音がして、アポロン様が飛び込んできた。 アフロディーテさんも驚いているから、知っていたわけではなさそうだ。 いつもは誰が乱入してきても、驚いたりしないで微笑んでいるだけなのに。 あああ、お気に入りだったお皿が割れてる……! 「前回はの手前、おとなしくやられてやったが……今回は許さんぞ!」 「そのを泣かせた張本人が言えたセリフじゃないな。私が引導を渡してやる」 「泣いてなど 頭上で交わされる会話は無視。無視。 聞いている余裕は、今はない。 だって、だって、このお皿。 サガさんが遠出したときに、わざわざ買ってきてくれたものだったんだもの……! くっつければ何とか元の形には戻るかもしれない。 元々飾るだけのつもりだったから、別に使えなくても構わない。 ぐしぐし泣きながらしゃがみこんで欠片を拾い集めていたら、ちょっとした拍子に指を深く切ってしまった。 「痛っ……」 「ああほら、危ないよ。私が処理しておくから、水で流しておいで」 「す、すて、すてないで……!」 優しく指を押さえてくれたアフロディーテさんを見上げて、必死にお願いする。 捨てられたら泣いてしまう。 本気で。 今にも捨てられそうな欠片を見回して、やっぱり復元できるとうなずく。 「ちゃんとくっつけますから!自分でやりますから!だから、捨てないでください……!」 「……わかったよ。大丈夫、危ないからムウに直してもらおう」 小さくため息をつかれた時には呆れられたかと思ったけれど、見上げた表情はいつも通りに優しかった。 緊張が一気にゆるんで、我慢していた分まで涙腺が崩壊する。 「ううううう……」 「よしよし、大切にしていたものね」 ぎゅっと抱きしめられて優しく髪をなでられて、思う存分しがみついて泣いた。 ぴしっとアイロンの線がついたリネンのシャツが濡れちゃったのを見て、申し訳なくなってくる。 泣いてばかりの自分が情けなくてさらに泣いていると、頭のてっぺんに優しい感触。 「は何も悪くないよ。毎日綺麗に磨いていたのを、私も皆も知っている。ムウならきっと、綺麗に直してくれるさ」 キスしてくれたそのままでしゃべられて、吐息が少しくすぐったい。 ようやっと落ち着いて顔を上げると、心配そうに目元を拭われた。 「 「ありがとうございます……」 「そしてそこの変態はどこかに消えろ」 「酷い!?最高神ゼウスの息子にして予言の神、ついでに太陽神でもある崇高なこの私に対して酷い!?」 「自己主張ばかり激しいカスですね。アフロディーテ、皿はどこですか?」 「そこにまとめてある。頼む」 「任せてください。完全にとはいきませんが、鑑賞する分には遜色ない程度に修理しますよ」 にっこりと笑ってくれたムウさんの姿を見ていたら、涙も引っ込んでしまった。 髪飾りもあんなに完璧に直してくれたんだもの、お皿だってきっと綺麗に直してくれるはず! 「ありがとうございます、ムウさん……!」 「いえいえ、お礼はスイートポテトのパイでお願いします。貴鬼が気に入っていましたので」 「ふふふふ、わかりました」 悠然と帰っていったムウさんを入口まで見送り、アフロディーテさんのエスコートでリビングに戻る。 それなりに大きなお皿だったから、なくなったところが少し寂しくなってしまった。 でも、明日庭園に行って、綺麗なお花を飾ろう。 そう考えたら、だんだん元気になってきた。 「元気になったみたいだね」 「はい。明日、お花を摘んでもいいですか?お皿が戻ってくるまで、あそこに飾りたいんです」 「もちろん」 ぽす、と頭に手を置かれる。 お父様やお母様とは違うけれど、その次ぐらいによく知っている手。 ゆっくり歩いてリビングに戻ると、いつの間にどこから入ってきたのか、サガさんが待っていた。 全然驚いていないから、多分アフロディーテさんが呼んだか、もしくは入ってくるのを承知していたんだろう。 テレパシーとか使えちゃうもんな、この人達。 うん、もう、深くは追求しない。 「怪我は大丈夫か?」 おお、あのサガさんに心配された。 ということは、やっぱりアフロディーテさんが呼んだに違いない。 だって、そうじゃなきゃ、怪我のことなんて知ってるはずがないもの。 「はい、大丈夫です。……ごめんなさい、お皿、割っちゃいました……」 怒られそうだなあと思いながらぺこりと頭を下げると、気にしていないというように頭をなでられた。 「あれしきのもの、また買ってきてやる。気を落とすな」 「 本当に、いい人ばっかりだ。 始めの頃の険悪ムードが嘘みたい。 当初の半軟禁生活を思い出してほろりとしている間に、サガさんは帰ってしまったようだ。 ずるずると何かを引きずっているような音が遠くから聞こえるけど……何だろう? (アポロンはサガに首を絞められた後、問答無用で沙織さんのところに連行されました。きっと恐ろしいおしおきが待っているに違いない。そして、ヒロインからは存在そのものを忘れられてます) |