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ここのところ女神様とばかりお会いしていたから、男の神様とお会いするのは少し緊張する。 ああ、アポロン様は別だ、別。 登場の仕方が仕方だったし、あんなに頻繁にいらしてたら緊張も消えてなくなる……。 とにかく! そういうわけで、久しぶりのキトンにそわそわしながら、大きな扉の前で足を止めた。 アフロディーテさんは神様をお待たせしちゃいけないとかで、ここに着いて私を地面に降ろすと瞬く間に行ってしまっている。 ……金ぴかの鎧を着ていなかったけれど、あのままでも大丈夫なのかな……? あの格好じゃ浮いてしまうんじゃないだろうかと心配していたら、扉の横にいた衛兵さんが突然声を張り上げた。 「冥王ハーデスのご息女、様!」 「ひゃいっ!!」 思わず小さく飛び跳ねてしまいながら出した声は、変にひっくり返ってしまっていた。 聞かれた……! 今の絶対、中の皆さんに聞かれた……!! 恥ずかしさに身悶えしたくなるのをぐぐっと堪えている間に、扉はあっさりと開いてしまう。 おそるおそる中に入ると……うん、皆さん金ぴかでした。 アフロディーテさんもしっかり金ぴか。 いつの間に着替えたんですか、アフロディーテさん。 あからさまに笑うのをこらえている蟹さんを睨みつけたら、ますます苦しそうにされてしまった。 ぶふって!ぶふって何ですか!! しっかり聞こえてるんですからね!! 肩が震えてるのも見えてるんですからね!! 泣いてなんかないもん、これは怒りの汗だもん!! カノンさんが蟹さんをしばき倒してくれたのを見て、ようやく一息つく。 まったくもう。 皆さんちゃんとしないと、ヘルメス様にしつ……れ……。 「ヘルメス様ー!!失礼しました!!」 そうだよ、すでにいらしてるよ!! 誰よりも私が失礼だよ!! 地面に手と膝を付く、アルファベット三文字。あの伝説のポーズをとった私を、しっかりと筋肉のついた腕が抱き上げてくれた。 アフロディーテさん? 違う、アフロディーテさんの手は、もっとしっかりしているもの。 細くて綺麗でも、ちゃんと闘う人の手をしているもの。 嫌な予感を抱きながらそろりと顔を上げて――逃げ出したくなった。 ふわりと優しそうな輪郭を、ゆるい金茶のウェーブが象っている。 少し垂れ気味の目は鮮やかな若葉色で――笑うと片方だけえくぼができる頬。 …………ああ、アポロン様の親友をなさっているの、なんだか納得です。 癒しオーラ半端ない。 とても優しくておおらかな方だと、纏う空気だけでわかってしまう。 「初めまして――ちゃん?」 「は……い、初めまして……」 「急に来てしまってごめんね、忙しない思いをしただろう?」 「いえ、そんな!!」 急というならお祖母様……いや、アポロン様の方がもっとずっと急だった。 神様方はあれが普通なんだと思ってたから別に何とも思わなかったけれど、ヘルメス様みたいな方もいらっしゃるのね……! いけない、感動しすぎてつい涙が。 慌ててハンカチを出そうとしたけれど、それよりも先にヘルメス様の袖で拭われてしまった。 ハンカチよりもずっと柔らかくて、森の中にいるような香りがする。 「まいったな……君を泣かせると、我が君に叱られそうだ」 「我が、君?」 こてりと首を横に倒して、誰だろうと思った瞬間に思い出した。 そうだ、ヘルメス様はお父様の配下だった。 あまりにも天界になじみすぎて、しかもアポロン様よりもずっと太陽神っぽくて、うっかり忘れてしまっていた。 「すみません、大丈夫です!あの、ヘルメス様があんまりにも紳士だったから、びっくりしちゃって」 お父様には私から伝えておけばいいだろう。 言わなくても大丈夫なんて言えないくらいには自覚しています、お父様の愛の大きさ。 大切にしてくださるのは嬉しいけれど、周囲に迷惑をかけるのはやめてほしい……。 「紳士?私が?」 「はい!なんていうか……アポロン様の後だと余計に……」 「ああ……」 不思議そうにしていたヘルメス様は、アポロン様の名前を聞いた途端に苦笑した。 その中にも優しさがあふれていて……ヘルメス様、格好いい……!! 「悪い奴じゃないんだけどね、ちょっと思考が斜め上をいっているというか――変わっているんだよ」 「変わってますね、確かに……」 「あんまり邪険にしないでやってもらえると嬉しいな。あいつ、多分天界一モテない男だから」 「ヘルメス、それは推測ではなく確定事項ですよ」 「おや、アテナは相変わらず手厳しい」 さらりと口を挟んだ沙織さんに、ヘルメス様の苦笑が深くなる。 ぽんと一度頭をなでてくださって、それから静かに立ち上がった。 「さてと。慌ただしくて申し訳ないけれど、実はこの後も仕事が詰まっていてね。とりあえず応急処置をしていくから、今日のところはそれで我慢してくれないか?」 「……仕方ないですね、アルテミス達にも伝えておきます」 「彼女達は――ああ、奥の宮か。彼女達にも言伝があるんだ、寄っていっても?」 「もちろんです。それなら、貴方の口から直接伝えてくださいな」 やっと微笑んだ沙織さんに軽く礼をして、ヘルメス様は優雅に幕の奥に消えていく。 ぼんやりとそれを見送っていたら、ミロさんにぱたぱたと顔の前で手を振られてしまった。 だけどいいの、今はそんなこと! 「おーい、ー?」 「――っ、格好いい…………!!」 お父様、ヘルメス様はとっっっても紳士です!! すごく格好いいです!! (まさかのヘルメスフラグキター!!(笑)さあ、誰が勝つのかわからなくなって参りました。ヒロインのお婿さんダービー、参加者募集中です) |