オリュンポスの男神は変わった方だけなのかと思っていたから、ヘルメス様みたいな方もちゃんといらっしゃるんだと知ったのは、かなりの衝撃だった。
ヘルメス様紳士すぎる。

さすがお父様の配下!
そうだよね、お父様はちゃんと良識があるもの!!
アポロン様とは違うもの!!

遊びに来てくれたムウさんに力説すると、何故か上の方から3つの高笑いが響いてきた。


女神様達ですね、すごく楽しそうで何よりです。
3人で楽しくおしゃべりされてるのかな?
お邪魔じゃなければ、後でご一緒したいなあ……。

でも、教皇が許してくれるかどうか。
そこが一番の問題だ。

私も皆さんみたいに、テレパシーを自由に使えたら、先に沙織さんに許可をもらえるんだけれど……多分無理だ。
テレパシーとか超能力の類の才能は、生まれてこの方とんと芽生えたことがない。

スプーン曲げをやろうとしても1ミリも動かない。
透視ができないかと福袋のをじっと睨みつけても紙のまま。
どこでもドアがあればいいと切実に思っていた、ただの大学生だ。

今は瞬間移動ができるスーパー人間が周りにごろごろいるので、どこでもドアはもう必要ないけれど。


「あの、アフロディーテさん」
「何だい?」
「次にヘルメス様がいらっしゃるの、いつかってわかりますか?今日のお礼も含めて、きちんとおもてなししたいんです」
「そうだな……私にはわからないけれど、アテナなら何かしらご存知だろう。この後サガに用があるから、ついでに聞いてみるよ」
「ありがとうございます!」


嬉しくてはしゃぎながらお礼を言うと、優しく頭をなでられた。


「それから、がアテナ達と一緒に話をしたがっているって事もね」
「……ばれてましたか」
「もちろん」


くすりと笑ったアフロディーテさんは、お仕事をするんだろう、部屋に戻ってしまう。
ムウさんもいつの間にか帰ってしまったので、なんとも手持ちぶさただ。

……薔薇のお世話をしに行こう。

今日は涼しいから、今の時間帯にお水をあげても問題ないはず。
真っ昼間にあげたりすると、暑さで茹だってしまうこともあるのだ。
以前炎天下で暑いだろうと水を撒きに行こうとした時に、アフロディーテさんにそう止められたのはいい思い出になっている……。

本気で慌てたアフロディーテさんは滅多に見れないから、ちょっと得した気分とかそういうのはありませんから!
慌てても相変わらず美人だなあとか思ってませんから!!
それよりも、昨日は花殻も摘めなかったし、いつもよりも丁寧にお世話をしなければ!

日除けにつばの広い帽子をかぶって、花殻を入れる籠を持って。
蟹さんにはどこのピクニックだと笑われたけれど、まさか聖域にビニール袋があるわけもなし、紙袋を持ち歩くのも不便すぎる。
色々試した結果なのだ、文句は言わせない。


1日放っておいただけなのに、薔薇はだいぶピンチに陥っていた。
害虫を1匹ずつ根気よく潰しつつ(気持ち悪い感触にはもう慣れた)、開ききってしまっている花も摘む。
それが終わったら水をあげて、アンプルを必要そうなところに差し込んで。

残念ながらもう駄目になってしまった枝を切っていたら、うっかり棘を刺してしまった。
こんな風に怪我をするのは最初の頃だけだったから、痛いよりも地味にショック……。

急いで水道まで行って血を洗い流していると、急に気持ち悪くなってきた。
ううう、何だろう……変な物は食べてないのに、吐き気がする……。


少し休もうと立ち上がった瞬間、世界が揺れた。




   !」




揺れた次の瞬間には、何故かアフロディーテさんの腕の中。
ぎゅうと強く抱きしめられて、綺麗な顔が少し怖い表情になった。


「まったくもう……、無理はいけないよ」
「無理?あの、私   
「熱中症だね。こんなに体温が上がって、気づかないにも程がある」
「ねっちゅうしょう……?え、あの、吐き気がしたから休もうと思ったところですけど」
「吐き気をもよおす人もいるんだよ。しばらくはベッドで静かにしていておくれ」


問答無用で抱き上げられて、気がつけばベッドの中だった。
アフロディーテさん、速いです……。

まだ薔薇のお世話が終わってないから、せめてそれだけはちゃんとやりたい。
それなのに、いつになく怖い表情のアフロディーテさんは許してくれなかった。


「駄目だ。……まったく、は自分のことに無頓着すぎるね」
「でも   
「それなら、ヘルメスの君に差し上げるものを作ったらどうだい?今ならゆっくりできるだろう」


促されて、はたと気づく。

紅茶シフォンを焼こうと思っていたのに、結局何もできていなかった。
今までは神様に消え物しか差し上げていなかったけれど……編み物とかでも、いいかな……?
編み物はお父様とお母様にしか差し上げたくなかったんだけれど……しょうがないかなあ。

お父様もお世話になってるし、特別!うん、特別!!


「そうします!あの、アリッサさんを呼んでいただけますか?」


うなずいて見上げると、アフロディーテさんはほっとしたようにうなずいてくれた。
これで心配をかけることもないし、ちゃんとお渡しするものを用意できる。
アリッサさんが来てくれるのを待ちながら、どんなパターンにしようかと小さく笑った。












(まさかのヘルメス特別フラグ。女神様達の高笑いは、もちろんヒロインの心の叫びをムウが中継した結果です)