ああもう、ヘルメス様ってば本当に格好いい!
どうしてアポロン様の親友をしていらっしゃるんだろうと思いたくなるほど紳士的!
いや、あれくらい紳士じゃないと多分つきあっていられないんだろうけど!

失礼なことは承知してます、それでも思わずにはいられない。
アポロン様にヘルメス様の爪の垢を煎じて飲んでいただきたいなあ……。

あの穏やかでほっとする声!
紳士的な振る舞い!
気遣いながらの会話!

ああ……お父様の次に格好いいかもしれない。
ヘルメス様ファンクラブとか会ったら、絶対入会するのに。

切ない吐息がついつい漏れてしまい、レース編みの手を止めて目を閉じた。
金の巻き毛が瞼の裏に浮かんで、思わず頬がゆるむ。


喜んでくださるかなあ……男の人ってレース編みほしがらない人が多いけど、控えめな模様だからどこかに使ってくださるといいんだけど……。


だらしなく顔がゆるんでいるのは許してください、癒しなんです。
ここ数日何故かアフロディーテさんもシュラさんもムウさんも忙しそうにしていて、実はちょっとだけ寂しいんです。

レース編みも一段落ついたし、気分転換にパイでも焼こうかと思いながらアネッサさんを探していると、入り口の方がなんだかにぎやかになっていた。


「どうしたんですか?」
「よう、さん!」
「……星矢君!?瞬君までどうしたの!?」


そっと顔を出してみれば、にぱっと笑う懐かしい日本人顔。
元気いっぱいの星矢君と、その後ろでにっこりと笑っている瞬君が立っていた。


「夏休みだよ!沙織さんに会いに来たんだ」
さんにも会いたかったし、ね」


本音全開が清々しくも微笑ましい星矢君に、嬉しいことを言ってくれる瞬君。
ああもう、やっぱり中学生は可愛いなあ。

こちらまで笑顔になってしまう彼らの明るさは、やっぱりすごいと思う。
さっきまで少しだけあった寂しさもすっかり消えてしまって、手招きをしつつ女官さん達にお茶のお願いをする。


「パイを焼こうと思ってたの!ちょっと時間がかかるけど、よかったら食べてって?」
「マジで!?よっしゃ、さんのお菓子、いただき!」
「生地は昨日作ったのがあるから、そんなに待たせなくて済むと思うよ」
「やった!」


星矢君は飛び上がってガッツポーズをしているし、瞬君も手を叩いて喜んでくれた。
ああ、こういうにぎやかさなら、いつだって大歓迎なのに!
ほっこり和みながら私の部屋に案内すると、星矢君が物珍しそうにきょろきょろし始めた。
そういえば、星矢君はこの部屋に入るのは、初めてだったかもしれない。
氷河君も紫龍君も瞬君と一緒に来たことがあるから、うっかり忘れてしまっていた。


「星矢君、ここに入るの初めてだっけ?」
「ああ。……にしても、すっげーな!ぬいぐるみと編みぐるみばっかじゃん」


さん、こういうの集めてんの?
純粋な目でそう訊かれて、思わず視線を泳がせてしまった。
……言っていいのかな、ぶっ倒れたりしないかな。
瞬君も微妙に目をそらしているところを見ると、言わない方がお互い幸せなのかもしれない。


「う……うん、ほとんどプレゼントなんだけど、可愛いの好きだし嬉しくて飾ってるの」

「へえ!なんか高そうなのもあるよなー。沙織さんから?」
「あ、うぇ、うん。沙織さんからのもあるよ」


ああ、微妙に正直なこの口が恨めしい。
瞬君なんかほら、思いっきり目をそらしちゃってるじゃない!

ずるいよ瞬君、私だって目をそらしたいよ!
犬みたいにきらきらした目の星矢君をどうにかしてよ!

沙織さん、こういうの好きなのかーとか呟いてる星矢君は、多分絶対プレゼントの参考にしている。
確かに沙織さんも可愛いものが好きだけど、そういうのは本人に訊くのが一番確実だろう。

それに何より、沙織さんからもらうものは、主にアクセサリーとかドレスとか、ちょっとばかり庶民には手が出せないものばかり。
私だって女の子だからこういうのは大好きだけど……高すぎて触るのが怖いです。
小さめのネックレスとかイヤリングとかを時々つけているだけだけど、それでも喜んでくれているようで安心する。


「星矢君、あのね、沙織さんは星矢君が一生懸命選んだものなら、何だって嬉しいんじゃないかな?」


もちろん、星矢君自身の趣味全開だと別だけど。
彼氏からのプレゼントは的外れなものが多いって友人達が憤慨していたから、念のために付け加えておく。
星矢君なら自分の趣味を押しつけたりはしないと思うけど、暴走して突っ走らないように。


「そっかなあ……俺、女の子の好きそうなもの、全然わからないんだよ」
「私だって男の人が好きそうなもの、わからないよ。誰だって最初はそうなんじゃないかな?」
「ああ、さん彼氏いなさそうだもんな」


にししと笑ったその頭を、瞬君が鮮やかにはたいた。
いい音がした。
ぱっしーん!っていった。


「星矢。デリカシーなさすぎだよ」


むうと眉をしかめる瞬君は可愛くて、怒ってくれたことは嬉しいけど……はたいたのは意外だった。
もっとこう、腕をつつくとか、そういう穏便なことをしそうだったのに。
星矢君も痛かったらしい、頭を押さえて文句を言っている。


「だってさ、彼氏いたら、こんなぽやぽやしてるわけないじゃんかよ」


……確かに、今はいない。
今は。


「いたことなら……あるよ?」




「……………………は?」 「…………え?」




あれ、何この微妙な沈黙?












(ヒロイン、まさかの過去暴露。周りの反応が今から恐ろしい青銅達)