おかしいな、星矢君だったら「うっそだー!!」って爆笑ぐらいはしそうなものなのに……なんだこの静かさ。
瞬君と揃って口をぱくぱくさせている星矢君に首を傾げていると、フリーズが解けたように勢いよく立ち上がられて思わずのけぞる。
何かと思ったら、ものすごく真剣な目でがっしと肩をつかまれた。


さん……それ、他の奴には絶対言っちゃ駄目だぜ?」
「え?なんで?」


元々言う気もないけれど、どうしてそこまで真剣に言われなきゃいけないんだろう。
瞬君に視線を向けても、苦笑しながらうなずかれるだけ。
解説はしてくれないようだ。


「ええと……私に彼氏がいるのって、そんなに予想外?」
「いや、冷静に考えてみればいてもおかしくないのかもしれないけど、ちょっと色々頭をよぎったからさ」
「色々?」
「ああうん、まあ、その、あれだよ」


どれだよ。
つっこみたくなるのをぐぐっと押さえて、星矢君の続きを待つ。


「とりあえず、彼氏がいたことは内緒な?な?」
「……何だかよくわからないけど、言わないようにするね」
「よろしく!」


ガッツポーズを決めそうな勢いでうなずいた星矢君に曖昧に笑って、飲み物のお代わりを持ってこようと席を立った。
今のやりとりで何だか暑くなってしまったから、冷たいミントティーの方がいいだろう。

冷蔵庫からアップルミントを取り出して、ティーカップもガラス製の物をセット。
いそいそと戻ったら、何故かムウさんが星矢君の頭を鷲掴みにしていた。


「いでででででで!!!!」
「聖闘士ともあろう者が情けないですよ」
「関係ねぇだろそれ!頭は鍛えられないって!!」


…………ええと、どういう状況?


お盆を持ったまま立ち尽くしていると、怯えた目で二人を見ていた瞬君がふとこちらを見てくれた。
軽く目を見開いた彼は、ものすごくいい笑顔をしているムウさんに声をかける。


「ムウ、さんだよ!!」
   おや、こんにちは」
「こ、こんにちは……?」


何気ない様子で挨拶されたけれど、普通に返していいのかわからない。
星矢君はまだ悲鳴を上げているし、何故か瞬君が助けて!という感じに見てくるし、私はどうしたらいいの……?


「ムウさん、どうして星矢君の頭をつかんでるんですか?」
「ああ、気にしないでください。教育的指導ですよ」
さん助けて!」
「ええと……とりあえず、ムウさんもミントティー飲みますか?」
「ええ。ありがとうございます」


あ、手が離れた。

星矢君が頭を抱えて「ぐああああああ」とか言ってるけど、ムウさんが何だかちょっと怖い笑顔だからスルーしておこう。
急いでカップをもう一組持ってくると、星矢君は瞬君の後ろに隠れて震えていた。
いつも強気で元気いっぱいの星矢君のそんな姿はとても可愛かったけれど、それを言ったら盛大にへこまれそうなのでやめておく。


「お待たせしました!アップルミントだから飲みやすいし、すっきりするよ」


後半は少年組に向かって笑いかけると、瞬君が頬をゆるませてくれた。

ああもう、やっぱり可愛い!
男の子だなんて信じたくない!!

女官さんにムウさんの分のお茶菓子を持ってきてもらって、改めて4人でテーブルに座る。


「ええと、ムウさんはアフロディーテさんに何かご用ですか?今ちょっと出かけちゃってるので、もしよかったら伝言しますけど」
「いえ、今日は特に用はないんですよ。あえて言うなら……情報収集でしょうか?」


それから、余計なことを言う子供へのおしおきですかね。

にっこり微笑んだムウさんが付け加えた言葉に、星矢君がびくりと跳ねた。
ついでにカップからも少しお茶がこぼれてしまったので、布巾でささっと拭っておく。
万一染みになっちゃったら大変だしね!


「情報収集?」
「ええ。たとえば……が付き合っていた相手は、どんな人だったんですか?」
「え?」
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どうしたんだろう、急に。
ムウさんってこういう話題が好きなイメージはなかったんだけど……。


「……沙織さんですか?」


この聖域で恋愛関連に飛びつきそうなのは、沙織さんぐらいしか思いつかない。
沙織さんのお願いならムウさんだって断れないし、多分そうだろうとあたりをつけて訊いてみたら、案の定意味深な微笑みでかわされた。
沙織さんなら仕方ない、恥ずかしいけれど少しだけ話してみよう。


「ええと……元気な人でしたよ。外に出るのが好きで、よく引っ張り出されました。スポーツ少年だったなあ」


おかげで筋肉痛になったことも多々あったのを思い出して、思わず苦笑が漏れてしまう。
フラットパンプスとお友達になった、懐かしい思い出。


「なるほど。他には?」
「え?」
「色々と知りたいんですよ。ええ、色々と」
「え……ええと……た、たとえば?」
「名前とか、写真とか、そういうものはありませんか?」
「え!?」


そこ!?
性格とか思い出とか、そういうのじゃないの!?


「ないですよ!!大体私、自分の荷物もろくにないんですよ?」


この身一つで落ちてきてしまった私に、そんなものがあるはずがない。
ああ、携帯ぐらい持ってきたかったなあ……。
思い出さなくなっていたことを思い出してしまって泣きたくなっていると、大きな手にそっと頭をなでられた。


「……そうでしたね、すみません。私が不注意でした」
「そんな、ムウさんは悪くありません!」
「いや、悪いのは全てその男だぞ、!」


朗々と響く美声と共に、にぎやかに登場したのはアポロン様。
……壊れた窓は、多分またご本人が直してくださるんだろう。

派手すぎる登場のおかげですっかり吹き飛んだ微妙な空気には感謝したいけど、いい加減入り口から何も壊さないで入ってきてほしいなあ……。












(予想外の難産。本編ではシリアスになろうとしてもなりきれない皆様)