結局アポロン様が(物理的に)ボコボコにながら窓を直してくださって、その場はなんとなくお流れになった。
去り際に沙織さんが「また今度、ゆっくりお話しましょうね」なんて微笑んでいたけれど、ちょっと怖かったから是非遠慮したい。

壊された窓の残骸(アポロン様は直してくださっても片づけてはくださらなかった)を片づけ終わって一息ついたところで、女官さんが沙織さんの伝言を持ってきてくれた。



「アルテミス様達のところに?」
「はい。衛兵が来ておりますよ。普段のままの服装がいいとも承っています」
「ええええ……」


ワンピース風のチュニックにホットパンツだけど、これでもいいの?
着替えたい、でもお待たせするのは申し訳ない。
自分の部屋と入り口の方を交互に見ていたら、女官さんに優しく押し出されてしまった。


様をよろしくお願いいたしますね」
「かしこまりました」


私の頭上でそんな言葉を交わしつつ、ぴしりと礼を取った衛兵さんとにっこり微笑む女官さん。


「あ、え、あの」
「ご案内します。お疲れの際はおっしゃっていただければ、僭越ながら運ばせていただきます!」
「え?え?あの、私」


着替えさせてください、是非!なんて心の声が聞こえるはずもなく、衛兵さんは私の手を取って歩き出してしまう。
後ろを振り返ってみても女官さんが「行ってらっしゃいませ」と優雅に礼をしているだけで、引き留めてくれる気配はない。

……せめてワンピースに着替えたかった……!
ホットパンツとか、お祖母様に怒られないかな……!

あわあわしながらも抵抗できるはずがなく、気が遠くなるような石段をひたすら上っていく。
いつも誰かに抱えてもらっていたから感じなかったけど、やっぱりこの石段おかしいよ!
下りるのは私にもできるけど、上るのに1時間以上かかるのっておかしいよ!


「よろしければ   
「ひ、一人で行けます!」


抱っこしていこうかと腕を広げる衛兵さんに、息を切らしながらも必至に主張する。
全然知らない人に抱き上げてもらうのは、さすがにちょっと遠慮したい。
いつも運んでもらっているのは皆さんを信頼しているからであって、楽だからと誰にでもお願いするほど恥は捨てていない。

困った顔の衛兵さんに申し訳ないと思いながら休み休み上っているうちに、軽やかな足取りのミロさんに追い越されてしまった。
ふわふわの金髪が気持ちよさそうだなあと見送っていたら、ふわふわがくるりと振り向いて戻ってくる。


「ミ、ロ、さん?」
「すっげー息切れてる。なに、教皇庁に行くの?」
「はい、アルテミス、さまに、呼ばれて」
「ふーん……んじゃ、行くか?」


ほれ、と手を差し伸べられて、思わず衛兵さんとその手を交互に見比べてしまった。
連れて行ってもらえるのはすごくありがたいし嬉しい。
でも、ここまで付き合ってくれた衛兵さんに申し分けなさすぎる。


「どうした?ほれ、来いよ」
「ええと……」


ひらひらと手を動かすミロさんに何と答えようか迷っていると、察した衛兵さんがにこりと笑ってくれた。


「それでは、私はここで失礼いたします。ミロ様がいらっしゃるなら、私ごときがいたら足手まといになってしまいます」
「おう、まかしとけー」


にかっと笑ったミロさんに綺麗な礼をして、衛兵さんは先に石段を上っていく。
私と一緒にいた時よりもずっと速いペースを見ると、やっぱり私に合わせてくれていたんだなあと申し訳なくなってしまった。

体力つけた方がいいのかな……。
教皇庁に一番近いところに住んでいるんだし、これくらいは自分で上れないとまずいかもしれない。
まずは腹筋からかなあと考えていたら、いきなりつむじに息を吹きかけられた。


「ひゃあっ!」
「おーい、筋トレしようとか考えんなよ?がむきむきになったらアテナが悲しむぞ」
「でも、いつまでもお荷物じゃいられませんし!沙織さんだって一人で上ってるでしょう?」


あの細い身体で涼やかに上ってるのを見たことがあるもの!
沙織さんができるなら、私にだってできるもの!

むきむきにならなくてもできるはずだと見上げた先で、ミロさんがしょうがないなあというように苦笑した。


あのな、アテナは別格なんだぞ。小宇宙をうまく使って身体能力を上げてるんだ。お前、小宇宙の使い方も勉強してないだろ?」
「れ……練習します!」
「やめとけやめとけ、下手すりゃ死んじゃうから。俺達が見つけたら全力で阻止すんぞー?」


からからと笑いながら流されて、絶対上ってみせる!と密かに決意したのは秘密。
ばれたら絶対怒られる……。

自分の部屋でできる運動を考えているうちに、いつの間にか上まで着いていたみたいだ。
女神様方がいらっしゃる部屋の扉の前で、すとんと下ろされた。


「終わったら誰かに声かけろよ、連れて帰るから」
「はい」


わしゃわしゃと頭をなでてくれたミロさんに頭を下げて、ぐちゃっとなってしまった髪の毛をさりげなく直す。
久しぶりにお祖母様にお会いするなあ、何かお持ちしたかったな。
アルテミス様にもちゃんと贈り物をしたことはなかったし、今度レースで何か作ってみようかな。


「失礼します、です」
「おお、よう来た。早ようこちらへ」


3回ノックをして声をかけると、お祖母様の嬉しそうな声が招いてくださった。
その一声でびくともしなかった重い扉がすうっと開くんだから、神様の力って本当にすごい。
チュニックの裾を引っ張って脚を隠そうと頑張ったけれど、やっぱりそんなに簡単には伸びてくれなくて。


「こんな格好ですみません……」
「よいよい、確かにちとはしたないが、によく似合うておるぞえ?」
「普段の格好でとお願いしたのはこちらですもの、気にしないで?一度ゆっくり話してみたかったの」


お祖母様は艶やかに笑い、アルテミス様もゆったりと微笑んでくださって、縮こまっていた気持ちがゆっくりとほぐれていく。


「お招きありがとうございます。私も、お会いできて嬉しいです!」












(女神様達と歓談する予定だったけど、ミロが出張って次回に持ち越し)