蟹さんの「ちょっくらうちに来い」とのご命令で、今日は特別に蟹さんのところにお邪魔する事になった。
もちろん、アフロディーテさんの付き添いつきだ。
途中でシュラさんとも合流して、何となく3人で蟹さんのところに向かう。


「お邪魔しまーす」
「おう、そっちじゃなくて左から入ってこい。その方が近い」
「……デスマスク、キッチンか?」
「おうよ」


広々としたお化け屋敷の入口で挨拶をすると、どこからともなく蟹さんの声がした。
それにシュラさんが眉を顰めると、間延びした答えが返ってくる。
それならこちらだと、アフロディーテさんの先導で左の小さな入口をくぐった。

こちらはお化け屋敷ではなく、普通の人が住むような(アフロディーテさんのところと同じような)空間で、こっそりと安堵の息をつく。
けれど吐息だけで2人には伝わってしまったようで、小さく笑われてしまった。


「こちらは平気だよ、
「私生活の部分にまであれを出すほど、あいつも馬鹿じゃない」


アフロディーテさんの手が背中をゆっくりとさすって、シュラさんの手が頭をなでてくれる。
そんな2人に挟まれてキッチンまで行くと、器用にフライパンを振っている蟹さんがいた。


「よう、遅いじゃねえか」


振り向きながらも中身は全てフライパンに着地という器用さだ。


というよりも、蟹さんって料理できたのか……!
しかもすごくハイレベルだ……!


意外な事実に衝撃を受けつつ、アフロディーテさんのエスコートで椅子に座る。
ちらちらと様子を伺っていると、蟹さんが馬鹿にしたように鼻で笑った。


「そんなに意外か?」
「そりゃあもう」


蟹さんがお料理できることも、わざわざ私を呼んでくれたことも。

力一杯うなずいたら、蟹さんの頬がひくりと引きつった。
おもしろそうに鼻を鳴らして、「食わせてやんねえぞ」と思いっきり悪人顔で言われる。
とてもおいしそうな匂いが充満しているこの状態でそれを言うなんて、やっぱり蟹さんは鬼だ……!


「すいませんすいません、だから食べさせてください!」
「はん、最初っからそう言ってればいいんだよ」
「お前は食わせてやるとも言ってないだろうが」
はちっとも悪くないよ」


偉そうに笑った蟹さんをシュラさんが(多分)殴り(高速すぎて見えなかった)、アフロディーテさんに頭をなでられる。
フライパンからこぼれ落ちたエビがもったいないと思っていたら、「そんなに物欲しそうな目をするな」と蟹さんにからかわれた。


「エビの一匹や二匹、この際しょうがねえだろ。シュラが悪い、シュラが」
「俺のせいにする気か!?」
「お前が殴ったからじゃねえか。なあ、?」


にやにやと笑う蟹さん、マフィア顔負けの恐ろしい表情のシュラさん。
一体私にどうしろと……!?


半泣きになりながらアフロディーテさんに視線で助けを求めたら、アフロディーテさんも呆れたようにため息をついた。


「シュラ、デスマスク。を怖がらせてどうする」


ぎゅうと優しく抱きしめられて、薔薇の香りがほんのりとただよう。
言われた2人はぐっとつまったような表情をしたけれど、私はこの香りだけでもう機嫌が直ってしまった。
頬をゆるめてアフロディーテさんにすり寄れば、答えるように抱きしめてくれる。

そんなご機嫌な私の頭を、シュラさんがおそるおそるといったようになでた。


「……すまなかった」
「悪かったな」


蟹さんも気まずそうに舌打ちをしてだけれど、ちゃんと謝ってくれる。


シュラさんに赤ワインをついでもらって、蟹さんの作った料理をみんなで囲む。
蟹さん自らが私に取り分けてくれて、あまりにも予想外な展開に、明日は雷でも鳴るんじゃないかと思ったほどだ。
もちろんお味もとてもおいしくて、思わずおかわりをしようと手を伸ばしてしまった。
そんな私からさりげなくお皿を奪って、蟹さんが取り分け用のスプーンを手に取る。


「どれがいいんだ?」
「え?」
「料理。どれがいいんだって訊いてるんだよ」
「え   あ、その、白身魚の   
「これだな」


な、何なんだろう、蟹さんが異様に優しい……!
勝手に取り分けろとか真っ先に言いそうな蟹さんがものすごく優しい……!


ガクブルしている間にも、蟹さんが白身魚(なんてお魚なのかは知らない)の蒸し焼きをガッツリと取り分ける。
そんなに食べられない!と悲鳴をあげようとしたら、半分以上をシュラさんが奪ってくれた。


「馬鹿か、お前は。がそんなに食べられるはずがないことぐらいわかれ」
「……ちっ、これだから女子供は厄介なんだよ」
「デスマスク?今の発言、理由によっては私達の総攻撃を喰らってもいいと、そういうことだな?」


めんどくさそうに舌打ちをした蟹さんに、アフロディーテさんが氷の微笑を投げかける。
シュラさんも何故か右手を掲げているけれど……あれで全力チョップとかするつもりなんだろうか。
それを見た蟹さんが真っ青になったところを見ると、多分間違ってはいないんだろう。

何だか蟹さんがピンチだということはわかったので、慌ててシュラさんの右腕にしがみついた。


「だ、大丈夫ですから!私、ちっとも気にしてませんから!」
「だが   
、甘やかすのはいけないよ?」


不満そうなシュラさん、ものすごくいい笑顔のアフロディーテさん。
まずい、これは完全にお怒りモードだ。


私は気にしていないと散々主張して、お料理が冷めてしまうことの方が悲しいとなだめて、どうにかこうにか思いとどまってもらった。


後で一緒にお皿を洗いながら、蟹さんに涙ながらにお礼を言われたけれど、あれはアフロディーテさん達が大袈裟だっただけだ。
そう伝えると、蟹さんがスポンジを置いて手を洗って、珍しく(多分初めてだと思う)優しくハグをしてくれた。


……お前、マジいい奴だな!今度何か、うまい菓子でも作ってってやるよ」
「うわあ、本当ですか!?」
「ったりまえだろ!?あの命の危険に比べたら、んなことどってことねえよ」


後日本当に焼き菓子を持ってきてくれた蟹さんにお礼を言って、こっそりアフロディーテさんとのお茶のお茶受けにしたのは秘密だ。




「おいしいね、が作ったのかい?」
「いえー、女官さんにいただきました!」











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天馬さんのリクエスト、「年中組にこれでもか!と溺愛されるお話」でした。
うちのシュラとデスマスクでは、これが限度でした…!(土下座)


最後のヒロインの一言、内心突っ込まれはしないかと冷や汗流しまくりです。
ちなみにデスマスクは、「たまにはあいつにも構ってやるか」的なスタンスで呼びつけてます。
シュラは密かにヒロインが心配でついてきてます。
溺愛はできないけれど、彼らなりにヒロインを可愛がっているようです(笑)

お持ち帰りは天馬さんのみとさせていただきます。
リクエストありがとうございました!