「なあ、ハーデスってどんな感じなんだ?」


いつものティータイムに乱入したミロが、不意にそんなことを尋ねた。
意味がわからずきょとりとするに、もう一度繰り返す。


「だからー、ハーデスって普段どんな感じなんだ?俺らは敵としてのハーデスしか知らないから、から話を聞いてもいまいちぴんとこないんだよな」
「ああ……そういうことですか。だから、一緒にお料理したりお菓子作ったり、編み物したりぬいぐるみとかあみぐるみとか作ってくれたりしてますよ」
「そのハーデスが想像できないんだよなあ。なあ?アフロディーテ」
「確かにな……」


冷血無敵で、アテナを滅さんとしたハーデス。


それ以外のかの神を想像できず、アフロディーテも小さく苦笑した。
ミロに食い尽くされそうなパイから、の分をそっと取り分けながら。


、今日のレモンパイもよくできているね。とてもおいしいよ」
「ありがとうございます!」
「こらそこ、2人の世界を作るな!なあなあ、もっと詳しく教えてくれよ」


ほのぼのとした空気を作りかけたとアフロディーテの間をばっさりとぶった切り、ミロがぐいと身を乗り出した。

普段のお父様……と考え始めただが、どうにも表現に困ることばかりだ。
どうしたものかと考えたあげく、彼女はとんでもない行動に出た。


   ちょっとお呼びしてみます!」


!?」
「何をする気だ!?」


慌てる2人をよそに、は中庭に走り出る。
そして、跪いて。




「お父様ー!!」




ばんばんと二度地面を叩いた。


「……ー!!」
「……前にもあったな、こういう光景……」


あまりの突飛さにミロが絶叫し、アフロディーテが苦笑する。
そして、いつかの時と同じようににょろりとハーデスが現れた。


   どうした?」
「ミロさんが、普段のお父様を見たいって。しばらくこちらにいらしていただけませんか?」


きゅうと服の裾を握って、上目遣いに見上げてくる娘は、文句なしに愛らしい。
できることなら、すぐにでもうなずきたい。

だがしかし、ここはかつての敵、アテナの聖域。
うっかり出てきてしまったが、彼女の許可なしにうなずいていいものか。


超絶無表情の裏側で、ハーデスがぐるぐると考える。
そんな彼への助け船かどうかは別として、(おそらく8割方純粋にへの好意で)沙織が声を飛ばしてきた。


「どうぞ、しばらくおくつろぎください、ハーデス。貴方の望む場所で」
「私の   ?」


彼女の声に呟いたハーデスは、決まっているといわんばかりにを抱き寄せた。
そのまま頭頂部にキスを落として、当然のように答える。




の、傍で」




そこでまずびしりとミロが固まったが、そんなことは序の口だった。


こそりこそりと黄金が集まる中、着々とハーデスを受け入れるための準備が双魚宮で進められていく。

やはり「ハーデス」に過剰反応を示すであろう女官達には、応急処置としてしばしの休暇を。
の部屋の隣に、ハーデスのためのそれを。

そんなアフロディーテの気遣いに、は恐縮しつつも笑顔でお礼を繰り返した。
その横で、ハーデスが黙々とあみぐるみを作っているのが、何ともシュールだったが。

偶然居合わせたサガが、それを見て「悪い夢を見ているようだ……」と呻いて去っていった。


次いで被害にあったのは、シュラとデスマスク。
どんなものかと様子を見にきたら、ちょうど2人で中庭に出ているところだった。


「花を……育てているのか」
「私じゃなくて、女官さん達がいっぱい植えてくださったんです。綺麗ですよね!」


自分ではここまで美しく保てないと興奮気味に話すの頭をなで、ハーデスが(の目から見ると)微かに微笑む。
傍目からは超絶無表情だ。


「だが、薔薇園の世話をしているんだろう?」
「はい、でも   
「……お前も、ペルセフォネーと同じく、花がよく似合う」


そう言うと、ハーデスはおもむろに膝を折って花を摘み始めた。
きょとんと見つめるの目の前で、器用に花輪を作っていく。
彩りも花の種類も大きさも完璧に美しいそれを瞬く間に作り上げると、そっとの頭に乗せた。


「お父様?」
「よく   似合う」
「……っ、お父様、ありがとうございます!」


はにかむように呟いたハーデスに、が満面の笑顔で抱きつく。
それを抱き返し、あまつさえ彼女の頬に軽くキスを落とすところまで見たあたりで、2人ともギブアップした。


「俺……死んだのかな……」
「信じられん……ありえない……」


よろよろと帰っていった2人を見送りつつ、ここ数日で何とか耐性がついたアフロディーテも小さくため息をついた。


   まったく、本当にこれがあの、「冥王ハーデス」なのだろうか。
あんなに恐れて警戒していた恐怖の対象とは、到底思えない。

頭が痛いとこめかみをほぐしながら、、と楽しそうに笑う彼女を呼ぶ。


「そろそろお茶にしたらどうだい?時間もちょうどいい頃だろう」
「あ、はい!そうですね。お父様、行きましょう?」


こてりと首を傾げて促したに無言でうなずき、ハーデスはその拍子に少しずれた花輪をそっと直した。
親子水入らずでとのアフロディーテの気遣い(という名の逃げ道)に感謝しつつ、一緒に作ったフルーツタルトをお茶受けにしてダージリンを楽しむ。
そんなのどかな空間を破ったのは、やっぱり不運な黄金メンバーだった。


「アフロディーテ、この間のこの書類だが   


書類から顔を上げもせずにダイニングへと入ってきたカミュは、そこまで言ったところでようやく小宇宙が全く違うものであることに気づく。
思わず顔を上げて、目の前に広がる光景にびしりとフリーズした。


これでもかと言わんばかりの芸術的な盛り付けのフルーツタルト。
テーブルに丁寧に飾られた、淡い色彩の花々。
頭に花輪を乗せて微笑む

そして、その中にいる冥王ハーデス。


ミスマッチすぎて、冷静さが保てなかったようだ。
そんな同僚の小宇宙を感じたアフロディーテが、内心同情しながら「すまないね、無粋な邪魔が入って」と丁重にカミュをその場から救出した。


さて、この騒動はいつまで続くことやらと考えながら。











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5番以内にリクエストして下さったnimiさんが、アイデスなら何でもいいとおっしゃってくださったので、橘瑞樹さんの「ハーデスとヒロインのラブ親子関係を直接目で見てドン引く(あるいは脱力・呆ける)黄金+青銅5人」というリクエストをサルベージ(笑)
青銅5人まではいけませんでしたが、圧倒的な破壊力を生み出したようです、ハーデス様。


黄金達はヒロインと普段普通に接しながら、時々「でも、あのハーデスの娘なんだよなあ…」とか思い出していればいい。
そして、そのハーデス像が、この話でメッタメタのギッタギタに粉砕されればいい。
童虎は五老峰にいたので、運良く爆撃を免れました(笑)

お持ち帰りはnimiさんと橘瑞樹さんのみとさせていただきます。
リクエストありがとうございました!