あら」


いつものようにお母様に髪の毛を編んでいただいていたら、不意に背後で声があがった。


「どうなさったんですか?」


編み込みの仕方でも間違えたのか。
いや、お母様に限って、そんなへまはあるまい。

そんなことを思いつつ頭を動かさないようにしながら訊くと、とんでもない答えが返ってきた。


「……うふふ、。お祖母さまが貴女に会いたがっているようよ」
「…………はぁ?」


思わず出してしまった変な声に上品な微笑みを返し(心臓が止まるかと思った)、お母様はそりゃあもう楽しそうに編み込みを続ける。

え、あの、そんなに悠長に構えるべき事態じゃないと思うんですけど。
少なくとも、沙織さんには即刻お知らせした方がいいと思うんですけど。
いきなりデメテル様とか来ちゃったら、そりゃもう大騒ぎになっちゃうと思うんですけど。

振り向こうとしたら、たおやかな手でやんわりと止められる。


「駄目よ、せっかく編んだのに崩れてしまうでしょう?」
「そういう問題じゃ   
「大丈夫、アテナにはもう知らせてあるから」


   そうでしたよね、小宇宙とかいう便利なものがあったんですよね。
ここがとんでもないびっくり人間ショーの世界だということ、すっかり忘れていました。

そのまま髪をいじられ続けること約5分、お母様が満足げにうなずく。


「とても可愛らしいわ、
「ありがとうございます」


最後にちょちょいと花を飾られて、それで終了。


「お母様、今日にもいらっしゃるみたいね。ふふ、みんな大騒ぎしているわ」
「それは……涼やかに笑って言うことじゃ……」
「いいのよ、お母様はいつも突然だから」


そういえば、お母様がハーデス様にさらわれた時も、ずっとハンストしていたんだっけか。

我が子への愛と言えば美しいけれど、デメテルは豊穣の神。
そんな神様にストライキされて、当時の人達はさぞ大変だっただろう。

遠い昔の人達の苦労を思ってしみじみしていると、慌ただしい足音が近づいてきた。


「ペルセフオネー、さん!デメテルが今すぐ来るとは   !!」
「ええ、アテナ。大丈夫よ、こちらにお通しすれば問題ないわ」


慌てた沙織さんにものんびりと返し、お母様は優雅にクローゼットを開ける。


にはどの服がいいかしら。この水色なんて似合うんじゃない?」
「あら、さんは濃い色もよく似合いますよ」
「沙織さん、どうしてそんなに簡単に順応できちゃうんですか!」


あれだけ慌てていたというのに、お母様の返事を聞いた途端に、沙織さんもいつもの様子に戻ってしまった。
今の会話のどこに、平静になれるポイントがあったんだろうか。

思いっきり突っ込んでも女神様2人にかなうわけもなく、あれよあれよという間にピンクのドレスに着替えさせられてしまった。
ううう、私、ピンク似合わないのに……。


似合う似合うと女神様達がはしゃぐ中、突然部屋中に眩い光が現れる。




   やれ、そなたがかえ?」




何やら古風な呼びかけに反射的にうなずくと、そこには絶世の美女が立っていた。

え、あの、お母様を生んだ方ですよね?
お母様とほとんど外見年齢が変わらないのは   神様だからですよね!!

何かもう、色々ぶっとびすぎててどうでもよくなってきた。


「ふむ……髪があの気に食わん男譲りというのが何とも言えんが、可愛らしい顔立ちじゃな」
「でしょう?ほら、この困った顔もとっても可愛いんですの」
「まこと、さすが妾の孫じゃ」


血は一滴たりともつながっていませんと言いたくても、最早言えない状態だ。
デメテル様、ぶっとびすぎです。

くいと顎をつままれて、絶世の美貌が至近距離で微笑む。
どこか尊大なその表情は、けれどデメテル様には何故かしっくりときた。


「妾が来たというのに、あの男はおらんのか?」
「お、お父様は、冥界で一生懸命お仕事なさってます」


きっと。
お仕事してない確率の方が高いけど。


してるといいなあと三巨頭の憔悴っぷりを思い出していると、デメテル様にぽんと軽ーいニュアンスで言われた。


。あの男も喚んでおくれ」
   えええええ」


わ、私には無理ですって!


必死に訴えても、デメテル様もお母様も微笑ましいものを見る目をするだけで、助けてくれる様子はない。
沙織さんを見ると、「根性です!」と言わんばかりにガッツポーズされた。


   ああ、もう!




「……っ、お父様あああああああっ!!」




助けてください!!と願いをありったけこめて叫ぶと、ややして耳になじんだ声が応えてくれた。




   どうし……」




た、と言いかけて固まったお父様の視線の先には、もちろんデメテル様。

……気配を察知していなかったんですね、そうなんですね。
それよりも、あんな呼び方で出て来てくれた方がびっくりです。


「人の子が神になりたての頃は、皆ああじゃったのう。愛らしゅうてたまらんわ」
「本当に。は何にでも一生懸命ですから」


逃げ出したいというオーラ全開のお父様に、デメテル様が輝かんばかりの笑顔で無言の圧力をかける。


「さて、茶でも飲もうかの」


そんなわけで急遽セッティングされた、不可思議なお茶会。
アフロディーテさんの薔薇茶をお出しすると、皆さんとても喜んでくださった。


「ほんには、茶を入れるのがうまいのう」
「あ、ありがとうございます」
「この子、お菓子も上手に作るんですのよ。ねえ、あなた?」
   ああ」


何だこの居心地の悪さ。
デメテル様に微笑まれ、お母様に頭をなでられ、お父様にキスをされ。


、ここの暮らしで不便なことはないかえ?あれば妾が何なりと揃えるぞ」
「いいいいえ、滅相もない!!充分すぎるくらい良くしていただいています!」
「そうか……」


思いっきり否定したら、デメテル様が少しだけ寂しそうな表情で小首を傾げた。
神様から何かもらうなんてとんでもない、沙織さんがいい例だ(あの高価すぎるプレゼントの数々!)


「しかし   孫というのも、なかなかいいものじゃのう」
「でしょう!?」
「あの男の子供などと思うておうたが……愛らしい。どれ、妾を祖母と呼んでみせよ」


尊大に、でも嬉しそうにデメテル様にそう言われ、神様は本当にこういうことが好きだなあとうなだれてしまった。
ポセイド……伯父様も確か、わざわざそれをいいに来たんだよな。


「お祖母様……」
「何じゃ?
「いえ、あの、呼んでみただけ……」


そんなこんなで、何だか着実に家族が増えつつあります、私。
お祖母様が帰った後に(ずっとちくちく苛められていた)お父様をなぐさめるのが大変だったけれど、家族が増えるのはやっぱり嬉しいものです。











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松永雅さんのリクエストで、「父母祖母とのほのぼのお茶会」というお話。
……だったん、ですが……。
うちのハーデス様はデメテル様のことをものっそい怖がってるので、ほのぼのにはなりませんでした(笑)


デメテル様もいまだに、愛娘をかっ攫ったハーデス様を忌々しく思っているし、つんけんした態度しかとりません。
でも孫が意外と可愛くて、これから溺愛しちゃいそうな予感!

お持ち帰りは松永雅さんのみとさせていただきます。
リクエストありがとうございました!