は無事に、冥界からの客人として迎えられることになった。
だが問題は、その処遇だ。

無下に扱うわけにもいかない、しかしまだ不審者ともとれる彼女をアテナの傍近くに置くのも危険。
一体どうしたものかと(ようやく立ち直った)サガが眉間の皺を深くしたところで、アフロディーテがすいと一歩前に出た。


「私が彼女を預かろう」
「しかし、お前の宮は教皇庁の   
「いざとなれば、薔薇の道にすればいいだけの話。冥界側にも、我らが総力をあげて守っていると言い訳ができるだろう」


それに、とアフロディーテは内心で一人ごちる。


あんな目茶苦茶な方法でハーデスを呼び出した上に、自分達の価値観まで木っ端微塵に打ち砕いてくれた少女。
   非常に興味深いじゃあないか。


実はミロと一緒に(物陰から)(ロイヤルデモンローズを構えて)あの場面を見ていたアフロディーテから言わせると、仲間達の警戒は全く馬鹿馬鹿しかった。

あんなに脆弱な小宇宙、帰りたいと泣き叫んでいた姿。
どれを見ても、任務先で見かける普通の少女となんら変わりはなかった。

危険などないだろうと思いつつも建前をつらつらと述べると、サガも眉間の皺を深くしながら渋々了承する。


「……確かに、お前の言うことには一理ある」
「じゃあ、決まりだな。   おいで、?」


それ以上何も言わせる隙を与えず、隅の方で小さくなっている少女に手を差し伸べた。
その動作にびくりと一瞬震えたは、しかしアフロディーテの優しい笑顔にそろりと近づく。
優しく手を握れば、安心したように見上げてくる。


ほら、やっぱり不審要素なんて何もないじゃないか。


内心で仲間達を笑いながら、アフロディーテはの両肩に手を置いて方向転換させる。


「こっちだよ。   ああ、には少し遠いから、抱き上げても?」


小動物のような反応を返していた彼女は、最後の一言で真っ赤になった。
え、あ、う、と声にならない声を出し、きょときょとと落ち着きなく周囲を見回している。
これは完全にパニックだと判断したアフロディーテは、答えを聞かずにさっさと抱き上げた。


「ぅひゃあっ!?」


いきなり回転した視界に驚き、は反射的にアフロディーテの首元にしがみつく。
そんな彼女に小さく笑いをもらし、アフロディーテは足取りも軽く自宮へと向かった。
女官を全員集め、目を白黒させているを押し出す。


「今日からここで暮らす、だ。ハーデスの娘になったばかりだが、当人はただの日本人の少女にすぎない。皆、それを忘れないように」


ハーデスという単語でざわりと動いた雰囲気は、けれど続けられた言葉で瞬時に霧散する。
ここの女官がいかに優秀か、それだけでうかがえた。

ただの無害な少女。
けれど、礼を尽くさなければならない相手。

それが伝わったのを見てとって、アフロディーテはを促す。


、挨拶を」


目の前の女官達を呆けたように見ていたは、その一言で我に返ったようだ。
慌てて深く頭を下げて、大きな声で挨拶をした。


「あ、あの、   じゃなかった、ええと、あの、ヤ サス(こんにちは)!!」
「……、ここの者は皆日本語が通じるよ。慌てなくても大丈夫だ」


あまりにも必死な様子に苦笑して、アフロディーテはそっと頭をなでる。
あからさまにほっとした様子を見せたに、女官達も微笑ましさを覚えたようだ。
筆頭女官が進み出て、深く膝を折る。


様、私はアリッサ。アリッサですわ。どうぞよろしく」


親しみやすい笑顔を浮かべて彼女がそう言えば、の表情がぱっと明るくなる。
日本語!と言いたげな彼女に苦笑しつつ、きっと彼女は先程までの会話も日本語だったと気づいていないのだろうと思った。
端から見ても、そりゃあもういっぱいいっぱいだったから。


の部屋を」
「かしこまりました、アフロディーテ様」


さっとはけていく女官達の中、居場所なさげに佇むに、アリッサが歩み寄った。


様、用意が整うまでリビングでお茶を。アフロディーテ様のお作りになる茶葉は、それは美味しいんですのよ」
「アフロディーテ……さん?」
「そうだよ、。私はアフロディーテだ」


ぼんやりと繰り返したにアフロディーテが微笑むと、その表情がぱっと明るくなる。
ぱたぱたとアフロディーテに駆け寄って、満面の笑顔で彼を見上げ、




「よかった!あの金髪さんは何だか怖いし、アイオロス様は超人すぎるし、ここって女性がいないんじゃないかってものすごく心配だったんです!しかもこんな美人さ   アフロディーテさん?」




とんでもない勘違いをぶちまけた。




思わず盛大に吹き出したアフロディーテにが首を傾げるが、アリッサも同じように笑いをこらえるような表情だ。
ついにこらえきれなくなったアフロディーテが、盛大に笑いながら彼女の頭をなでる。


「私も男だよ、!」
「え……ええええええ!!」


両目を大きく見開いて、しかも何故か涙目になって。
よく耳をすませば、「こんな美人さんなのに」やら「男……男……!!もったいない……!!」やら、おもしろい言葉が聞こえてくる。


ぶつぶつと呟くの髪をもう一度なでて落ち着かせ、アフロディーテはアリッサに目配せをした。


お茶の準備を。
それも、とびっきり最高級の。


この面白くて可愛らしいことこの上ない、愛すべき少女は、これから先きっと身に覚えのない悪意にさらされることもあるだろう。
だからせめて、自分だけでもとびっきり甘やかそう。

そうして、アフロディーテの溺愛生活が始まる。












(メッセージで、「ヒロインはどうしてアフロの宮に住むことになったの?」と質問をいただいて、ネタが降ってきました!(笑)アフロは好奇心からヒロインを引き取って、少しの同情心と多大なる愛着で溺愛していくようになります)