年の終わりに彼らの大切な姫君が来ると聖域から知らせが届き、冥界はわきにわいた。
彼らの姫君は物腰柔らかで慈愛深く、何よりも共にいるだけで癒される。

そんな娘を迎えるハーデスとペルセフォネーも、もちろん気合いが入りまくりだ。
本来の彼の役割に支障をきたすほどに。


「ハーデス様はどこにいらっしゃる!?今日中に決裁をいただかなければならない案件が山積みだというのに……!」
「私の方も着々とたまりつつありますよ、アイアコス……」
「何でも、ご自身の部屋に籠もりきりらしいぞ…………」
「ええい、それでは誰も手出しできないではないか!!ペルセフォネー様は!?」
「同じく、ハーデス様のお部屋に籠もりきりだ」
夫婦揃って何やってるんだ、あの方々は!?年末年始のこの人死にの多い時期に!!」




冥界がそんな大騒ぎになっているとも露知らず、当の本人は喜々として里帰りの支度をしていた。


「ええと、おせちも作ったし、皆さんたちへのお土産も持ったし、後は忘れ物は   
、忘れているよ」


アフロディーテさんがふわりとかけたのは、沙織さんが用意したショール。
アンゴラで作られたそれは、くるまるだけでぽかぽかとする一品だ。


「じゃあ、行ってきます!」
「いってらっしゃい、さん。よいお年を」
「はい、沙織さんも皆さんも!」


笑顔で沙織さんと黄金の皆さんに手を振り、ヒュプノスさんと共に冥界へ向かった。
いつもと同じように迎えられると思っていたのに、待ち構えていたのは想像以上にものすごい熱烈歓迎。
何故か目の下に濃いくまを作った三巨頭の皆さんからは、上等のお菓子とお年玉。
いい加減そろそろユーロの通貨基準もわかってきたので、その額に驚いて必死に断ろうとするけれど、皆さん一人として譲ろうとしない。


「日本では、このような風習があるのでしょう?」
「あります、ありますけど、私もうそんな年じゃないし……!」
「何をおっしゃいます。様は我々の大切な方、そのような相手に渡すものでしょう?」
「どこがどうなってそんな話に   沙織さああああん!!


冥界陣に妙な知識を刷り込んだ相手に思い当たって、今頃聖域でうふふと笑っているであろう相手に半泣きで叫ぶ。
まあもっとも、届くはずもなかったが。


「さあ姫君、どうぞエリュシオンへ」
「我らが主がお待ちのはずです。ええ、きっとお待ちになっているでしょう」


ミーノスさんの後半のセリフに黒いものを感じたが、そこは経験と慣れでスルーしておいた。
そのままヒュプノスさんに連れられてエリュシオンに飛んだ私を待っていたのは、お二人のこれまた熱烈な抱擁。


「ああ、!久しぶりね、元気だった?病気はしていない?」
「大丈夫です、お母様。明けましておめでとうございます!」
「明けましておめでとう、。今年もたくさん一緒に過ごしましょうね」
「はい!」


まずは花の香りに包まれたお母様に抱きしめられて、頬に何度も軽くキスをされた。
それが終わると、今度は深い森のような香りを纏ったお父様に抱きしめられる。


「よく来た」
「お久しぶりです、お父様。明けましておめでとうございます!」
「……おめでとう」


満面の笑顔で挨拶をすると、より強く抱きしめられて額と頭頂部にキスをされた。
窒息するかと思うまでそれは続き、ようやく離してもらった後はまっすぐにお父様のお部屋に案内される。
一体何かと思いながら扉を開けて   思わずぽかんと口を開けてしまった。

だって、だって、そこにあったのは   平安時代よろしく専用の掛け物(名前は知らない)に掛けられた、真っ赤で豪華な振り袖。
その傍らには黒と金の綺麗な帯が添えられていた。


「え、あの、これ   
「……お前に似合うと……」


その照れ具合から、は何かを悟った。

この表情、どこかで見たことある。
確かそう、浴衣を作って下さった時。
もしかして   もし、かして。




「お父様、の、手作りだったりして……」




自信はなかったけれどぽつりと呟くと、お父様がうっすらと赤くなった。
更に、お母様が微笑ましそうな表情でお父様を見た。


…………うん、ビンゴだったみたい。


いつの間にそんなスキルを身につけたんですか、お父様。
もしや帯もお手製とか、そんなオチですか。

そんな事を考えながら帯をじっと見ていると、お母様が嬉しそうに爆弾を投下した。


「そちらの刺繍は、私がしてみたの。気に入ってくれたかしら?」




お母様、 お 前 も か 。




気分はブルータスに刺された瞬間のカエサルだ。
信じていたのに、お母様はそんな事しないって信じてたのに……!

打ちひしがれながらその着物と帯を(ニンフ達に)着付けられ、さらに髪型も化粧もセットされ、鏡に映った姿は自分でも驚くほどの似合いっぷり。

……ここまできて、もう確信した。

これは沙織さんが裏でプロデュースしてる。


恐る恐るお父様達のところに行ってみると、恥ずかしいほどべた褒めされた。


「まあ!やっぱりよく似合うわ!!深い赤が色白の肌を引き立てているわね。それに、ここの刺繍がうまく着物と合っていてよかったわ」


くるくると周りを回りながら満面の笑顔で満足そうなお母様。
対するお父様は、無言だけれどやっぱりものすごく満足そうだ。


「……可愛いな」
「あ……ありがとうございましゅっ!?」


噛んだ。
恥ずかしすぎてろれつが回らなくて噛んだ。
更に恥ずかしすぎる。

そんな私を更に微笑ましそうに見るお父様とお母様。


「それで、どうしてこれを?」
   初詣にね、行きたいらしいのよ」
「……はい?」


聞き間違いかとお父様を見ても、ただ深くこっくりとうなずかれるだけ。
……まさか、本当にそれだけのためにこれを用意したのだろうか。
予想外すぎる展開についていけない私に、お母様が嬉しそうに説明してくれる。


、あなたの国では、1月1日には初詣というものをするのでしょう?アテナから聞いて、私達も一緒にしてみたいと思ったのよ」


いや、初詣は八百万の神様とか仏様とか、あなた方とは全く正反対な方向の神様にお参りすることなんですけど。
神様が神様にお参りってどうよ。
来られた方もきっと困っちゃうよ。
それに多分、日本在住の神様は、古代ギリシャ語とか解読不能だよ。


突っ込みどころが多すぎてリアクションをとれないうちに、お二人に連れられて部屋の外へと誘導されてしまった。
と、同時に。




「ハーデス様……」
「ようやく捕まえましたよ、ハーデス様…………」





おどろおどろしいオーラを背後にしょったタナトスさん達に、お父様が両側からガッツリ捕獲される。
タナトスさんの頬がこけて目の下に濃いくまができているのはもちろんのこと、よく見るとヒュプノスさんの目にもうっすらとくまができていた。

   そうか。
今回に限ってお迎えがヒュプノスさんだったのは、タナトスさんが忙しすぎて来れなかったのか……。


   私は、と初詣に……」
「そんな暇どこにあるんですか!!   あっ、様、そのお召し物もよくお似合いで……そのお召し物を縫うためにお籠もりになっていたんですね!?」
「さあさあ、私まで駆り出される事態になっているんですからね。しっかりガッツリ働いていただきますよ」
「いや、その   
「じゃあ、私だけ   
「ペルセフォネー様にもしていただかなければならない書類が山になっております。どうぞこちらへ」
「え、え、あの、私はどうしたら   


たちまち当初の目的が達成できなくなってしまった私は、ただただおろおろするばかりだ。
そんな私に、タナトスさんが(最後の力を振り絞るようにして)手をかざした。 もう慣れた浮遊感、そして目を開けたら   


「姫、君……?何故ここに   
「あの、初詣に行こうとしたんですけど、お父様達がお仕事ためちゃってたみたいで……」


驚いた表情のミーノスさんにしどろもどろ説明すると、それならと笑顔で返された。


「私でよろしければ、ご一緒させて下さい」
「……はい!」


ミーノスさんなら神様じゃないし、一緒に行っても大丈夫だよね!
テレポートを使えば、ちょこっと行って帰ってくることもできるし!

そこまで考えたところで、私は差し出されたミーノスさんの手を取った。











-----------------------------------

遅くなりました、お正月記念夢です!!
……とか言いつつ、密かに40万打&3周年のリクエストも兼ねていたりします。
最近こんなんばっかで、本当にすみません…。


ペルセフォネーも、王妃である以上、やるべき執務はあるとおもうんですよねー。
ただ、それがハーデスよりも極端に少ないだけで。
それが今回(1年で最も忙しい時期に)天の岩戸状態が長らく続いたために、双子神にとっつかまった、と。

反物はもちろん、沙織が用意してハーデスに渡しています。
ヒロインは知らないけど、合計でン百万はしてると思う。
……知らないって、幸せですね!!


お正月記念夢ですが、お持ち帰りは茜さんのみとさせて頂きます。
ご了承下さい。