「……ミロ。これは何だ?」
「見りゃわかるだろ、猫だよ猫!なあ、ここで預かってくれないか?」


何やらリビングの方が騒がしいので来てみると、笑顔でも目が笑っていないアフロディーテさんと必死に頼みこむポーズのミロさんがいた。
そんなミロさん(金ぴか仕様)の腕の中には、おざなりにタオルにくるまれた虎猫。
の、子猫。

ぶるぶると震えながら抱かれている子猫と、一瞬目が合った。
真ん丸なアーモンド型の瞳に、目一杯涙が浮かんでいる。
その視線に射抜かれた瞬間、びりりと衝撃が走った。


か、可愛い……!
無条件で守りたくなる可愛さ!!



思わず近寄って見てみると、なんとびしょ濡れの状態だ。
これでは、震えは恐怖ではなく寒さからだろう。


「ミ、ミロさん!アフロディーテさん!まずはその子、お風呂で暖めて乾かしてあげなきゃ死んじゃいます!!」


ミロさんの腕から子猫を引ったくって、女官さんにお湯の準備をお願いする。
嫌がる子猫をなだめながらお湯の中でマッサージをして、ついでに(人間用のだけれど)シャンプーとリンスもして。
ドライヤーで乾かしていたら、背後でアフロディーテさんのため息が聞こえた。


「……。ここでは、」
「だ、駄目なんですか……?」


こんな土砂降りの雨の中に放り出すなんて、私にはとてもできない。

それでも、この家の主人はアフロディーテさんだ。
アフロディーテさんがいいと言ってくれなければ、この子はここにはいられない。

まだ少し震えている子猫を抱きしめながら見上げると、綺麗な古銀の瞳がたじろいだように揺れた。
しばらくそのまま見つめ合って。




「…………お前が責任を持って、引き取り手を探せよ」
   っ、もちろん!」




負けたと言うようにため息をついたアフロディーテさんに、ミロさんが飛び跳ねんばかりに返事をした。

ギリシャでは日本でいう地域猫は珍しくない。
特別保護区を我が物顔で根城にしていたり、街のあちこちで自由に寝そべったりしている   らしい。

以前にカノンさんからそんな話を聞いていたから、この子には何か理由があるのだろう。
そう思いながらミルクをあげていると、ミロさんが大きな手で柔らかな毛並みをなでた。


「こいつ、母親が死んでてさ。こいつの小宇宙も今にも消えそうで、思わずここまで連れてきちゃった」


悪戯小僧のようなばつの悪い笑顔を浮かべながら、ミロさんは頼むぜとささやく。


なら、他の奴よりもずっと丁寧に扱ってくれるだろ?なるべく早めに引き取り手を探すからさ」
   はい」


必死にミルクを飲む子猫は、生きたいと全身で叫んでいた。












それから半月ほど、子猫はずっと私と一緒。
ミロさんは任務やら執務が立てこんでいるらしく、あれから一度も見たことはない。


「アフロディーテさんも上に行っちゃったし……暇だねー?ナル」


喉元をくすぐりながらナルもといナルキッソスに呼びかけると、ふみゃあと可愛く答えてくれた。
ちなみに、名前はミロさん命名だ。

センスがないとか言わないであげてください。
もうアフロディーテさんとシュラさんに言われて、半べそかきながら反論してたから。

そろそろお庭でお散歩でもさせようかと思っていたら、ひょっこりとミロさんが顔を出した。
後ろには何故か、カミュさんの姿もある。


「ただいま、!ナルの様子はどうだ?」
「元気ですよー。ほら、今だって猫じゃらしで遊んでますし」


どこかでSPまがいのことでもしていたんだろう、そろってスーツ姿のお二人を見るのは何だか新鮮だ。
ネクタイをゆるめながらミロさんがナルの頭をなでて、「覚えてるかー?」なんて呼びかけている。
それを見ながら、同じくネクタイをゆるめているカミュさんを見上げた。


「どうしたんですか?ここに来るの、結構珍しいですよね」
「教皇庁に行くついでに、な。ミロがどうしても寄ると言い張った」


呆れたような声の中にも、笑うような気配が含まれている。
こういう声を聞く度に、ああ、お二人は仲がいいんだなあと実感していた。


「引き取り手の候補者が、何人か見つかったらしい。今交渉をしている最中だ」
「そうですか」


そうなれば、ナルとの生活もあと少し。
ほんのちょっぴり寂しいけれど、始めからそいいう約束だったのだから、仕方がないこと。


、見てみ!」


しんみりモードの私の耳に、ミロさんの楽しそうな声が入る。
何の気なしに振り向いて、思わず吹き出してしまった。




「びろーん」




ミロさんの膝の上で、ナルが文字通りえびぞりになっている。
手と足を持って伸ばされているから、いつもよりも余計に伸びていた。


「ね……猫って、どうしてこんなに伸びるんでしょうね……っ!」
「さあなー。背骨と背骨の間が伸びてたりして」
「うわっ、半軟体生物!!」


そんなくだらない話をしながら爆笑していたら、ナルがじたばたと身をよじり始めた。
どうやら、あの格好に飽きたらしい。


「うわっと、悪い悪い」


慌ててミロさんが手を放すと、ナルはすたすたとカミュさんのところに行ってしまった。


「……嫌われた?」
「や、飽きれられたんじゃないか?」
「子猫に飽きれられた……!!」


ショックを受ける私達を笑うように、カミュさんの腕の中でナルがごろごろと喉を鳴らしていた。











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「雨の日にミロが拾ってきた子猫をヒロインが預かり、その様子をアフロの留守中に見に来るミロカミュ」のお話でした。
ギリシャでは本当に地域猫らしきものが多いらしいので、この子はどんな猫なんだろうなーと想像しながら書いていました。
きっと、いい人に引き取られて幸せに暮らしてくれるはず。


ミロは子供っぽい遊びが好きだと信じています。
原作では熱すぎてウザいと思うことが多々あったのですが(酷)、だからこそプライベートではいじりたくなるキャラだと思います。
あんなにまっすぐな20歳、ちょっとうらやましい。
あんなにクールな20歳も嫌ですけど(笑)

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