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執務が一区切りした後の、二人きりのお茶の時間。 まったりと過ごすこの時間は、私もお父様も大好きなものだ。 「」 差し出されたクッキーをあーん、と食べて、アーモンドの風味に頬をほころばせる。 昨日は薄くしすぎてちょっぴり焦げてしまったけれど、今日のはいい出来だ。 秋だろうと冬だろうと、エリュシオンは変わらずに穏やかな気候を保っている。 綺麗なお花を咲かせている外を見ながら、それでも紅葉が恋しいとこっそり息を吐いた。 「……?」 こっそりとしたはずなのにどうかしたのかと首を傾げられてしまって、やっぱりお父様はごまかせないかと苦笑する。 お父様は人の気配にとても敏感で、人の感情にとてもよく気がつく。 自分はなかなか表に出してはくれないけれど、とても愛情深くて繊細な人だ。 「お父様、もうすぐ秋ですね」 唐突な話題転換にも驚かずにうなずくお父様に、花咲き乱れるエリュシオンの庭を見ながら小さく微笑む。 「日本では、秋になるとお月見するんですよ。あと、紅葉狩りとか」 エリュシオンに紅葉はあるのだろうかと首を傾げると、小さくかぶりを振られた。 予想はしていたけれど、ちょっとだけ寂しい。 まあでも、そういうことをする日本の方が珍しいんだろうと納得した。 「日本は……どんなところだ?」 さくさくとクッキーを食べながらギリシアの夏についてお話(という名の報告を)していたら、不意にお父様が呟く。 もしかして、日本と違った暑さだったと言ったのが気になったんだろうか。 理由はどうあれ、日本に興味を持ってくれるのは嬉しい。 「日本の夏は、ものすごくじめじめしてるんです。特に最近は平均気温が5度くらい高いんじゃないかってくらい毎日 夏の過ごしにくさを言っても仕方がない。 もっとこう、情緒的な話を……! 情緒的、情緒的、と必死に考えた挙句、出てきたのは夏の風物詩だった。 小さい頃に親と見て、とても感動した思い出がよみがえる。 「綺麗な小川に行くと、蛍が見れるんです」 蛍?という表情で小首を傾げたお父様に、光る虫ですと返事をした。 それだけでは何やらとんでもない誤解を招きそうなので、さらに言い足す。 「お尻のところに光る部分があって、暗くなるとぽうって光ったり消えたりするんです。たくさん集まると、すごく綺麗なんですよ!」 ぼんやりとした明滅は、小さな私には魔法のように見えた。 今では雄が雌を誘う求愛行動だと知っているけれど、それでもやっぱり綺麗で好きだ。 「……蛍……」 何かを考えるように呟いたお父様が、おもむろに小さくうなずく。 どうしたんだろうと首を傾げると、くしゃりと頭をなでられた。 (一見超絶無表情だけど)柔らかく微笑むお父様に、思わず見とれてしまう。 そ、そんな顔するなんて、反則だ! 耳が熱い、耳が! 元に戻そうと必死に両手で顔を押さえると、ますます微笑ましそうな目をされた。 まずい、なんとかごまかさなければ……! 「そ、それでですね!浴衣を着て花火を見に行くんです!あ、花火っていうのは、火薬に色をつけて空に打ち上げるやつです」 どーんって、すごく迫力があるんですと笑うと、お父様も興味を持ったようだった。 爆発させるための火薬に色をつけて楽しむというのがいまいちよく理解できなかったようだけれど、そこはそれ。 神話の時代を地で行く神様だ、わからないのが当然だろう。 原理とか理由とかはともかく、ただ綺麗で迫力があるものなのだとわかってもらえれば、それでいい。 「最近はピンク色も作れるようになったんですよ。化学反応の関係で、難しかったんですって」 「そうか」 「毎年友達と、地元の大きな花火大会を見に行ってたんです。立ち見は嫌だから朝から席取りして、一旦家に帰って夕方に浴衣で集合して」 有名な隅田川の花火大会も行ってみたかったけれど、あそこは席取りの激しさが半端ないらしい。 徹夜組もいるとか、下手するとビルの隙間からしか見れないとか、信じられないような話を先輩から教えてもらった。 それを聞いた友達と、私の地元にしようと固く握手をしたのは、そこまで根性のない私達には当然の結果だっただろう。 私の地元でも、かなり大規模で他県から来るほどのものだったし。 どんな髪型にするか、毎年お母さんときゃあきゃあ楽しく騒いだものだ。 「浴衣だとやっぱり洋服よりも暑くて動きにくいんですけど、どうしても毎年着たくなっちゃって。イベントの時って、特別な格好をしたくなっちゃうんですよね」 昔はお風呂上がりに誰でも着ていたものだけれど、今では特別というのもおかしなものだ。 けれど、民族衣装なんてみんなそんなものじゃないだろうか。 男性がスカートの民族衣装もあったはずだ。 どこだか忘れたけど。 日常的に男の人がスカートをはいていたら、間違いなく泣く。 あっ、アフロディーテさんならうっとり見とれるかもしれないけれど! ロングスカートをはきこなしたアフロディーテさんを想像してしまって、思わず変な風に顔がにやけてしまった。 そんな私をどう思ったのか、お父様がまた1枚クッキーを差し出してくる。 気がつけば紅茶も温かいものに変わっていた。 慌てて手ずからクッキーを食べながら(餌付けされてるって?)(違うもん!)、わざわざいれ直してくれたのかと申し訳ない気持ちになる。 お返しにクッキーを差し出しながら、今度は冷ましてしまわないように飲もうとこっそり思った。 だって、お父様が用意してくださったダージリンですよ!(もったいない!) おいしい紅茶に(時々失敗する)クッキー、これがあればいつだってお茶ができる。 そんなに近くにいられることが、泣きたくなるほど幸せだった。 ----------------------------------- りぃさんのリクエストで、「ヒロインと親子団欒中」のお話でした。 ナチュラルに恥ずかしい親子だ…! このお話を書いていてまた小ネタを思いついたので、拍手小話で何かやるかもしれません。 あ、番外編で書くのもいいかも!(更に何か思いついたらしい) ヒロインはハーデス様に「あーん」をしてもらっています。ナチュラルに。 最早疑問にも思っていないあたり、かなり毒されているみたいです。 お持ち帰りはりぃさんのみとさせていただきます。 リクエストありがとうございました! |