この間のお菓子のお礼にと、アフロディーテさんには内緒でブルーベリーパイを焼きあげた。
パイ生地から作ったのは久しぶりで少し心配だったけれど、どうやらうまくいったようだ。


今日もアフロディーテさんはお仕事で遅くなるだろうから、今のうちに蟹さんのところに行ってしまおう。
そう決めて、いそいそと蟹さんの宮に出かけることにした。


お化粧してないけど、蟹さんなら大丈夫だよね!
服もものすごく普段着だけど、大丈夫だよね!


とか思いながら、入口付近で(どうしてもあの超絶お化け屋敷のところまでは行けない)声をかける。


「こんにちはー、パイ焼いてきましたー」
「ちょっ、馬鹿、来んじゃねえ!!」
「え   ひゃあっ!?」


のんびりと一歩踏み出したはずが、蟹さんの妙に焦った声に怒鳴られて   




「え……あの、ここどこですか……?」




何だかものすごく不気味なところに飛ばされてしまっていた。

黒い黒い大地に、赤い赤い空。
向こうに見えるのは火山の噴火口のような穴と、それに向かって一列に進む、真っ黒な人達。

思わず隣にいる金ぴか仕様の蟹さんにしがみつくと、舌打ちをしながらも頭をなでてくれた。


「黄泉比良坂だ」
「……はい?」


なんか今、日本の神話の舞台が聞こえた気がするけど……どうして蟹さんがそんな場所を知っているのだろうか。
案外メジャーだな、黄泉比良坂。


「気ぃ抜くなよ、奴らに引きずりこまれるからな」
「……あんなに遠いのに?」
「死者にある意味距離なんて関係ねえだろ。一瞬だぜ、一瞬」


棒のようにしか見えないほど遠くにいるのに、引きずりこまれるのは一瞬らしい。
想像してぶるりと小さく震えると、頭に乗ったままの蟹さんの手がぐしゃぐしゃと髪を乱した。


「あんな奴ら、俺様が蹴散らしてやるっての」
「……よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げて、さりげなく髪型を直す。
蟹さんに頭をなでられると、いつもぐしゃぐしゃになってしまうのが難点だ。

悪い人じゃないんだけどなあと思いながら三白眼を見上げていると、すぐ近くで空間が歪む音がした。
反射的に身構えた蟹さんの背後に隠れようとしたその時、何だか聞き覚えのある声が響く。




「おい、蟹座!!貴様また黄泉比良坂に余計な者を   姫君!?」




何故ここにと言われても、私の方がどうしてあなたがここにいるんですかと訊きたくなった。

だって、ここは黄泉比良坂なのだ。
ギリシャ神話とは、これっぽっちも関係ないのだ。

半分隠れかけたままの状態でじっとヒュプノスさんを見ていると、取り繕うように微笑まれた。


「あの穴は、冥界へと続く道。我らの管轄です」
「でも、日本神話ですよ?」
「古来より、姫君の国と我らの神話は、形を変えてつながる部分が多いのですよ」


何だかうやむやにごまかされた気もするけれど、ギリシャ神話と日本神話の云々についてはそれ以上突っ込まないことにする。
本当だったら、それこそヒュプノスさんに失礼だし。


「それよりも   蟹座。我らの姫君を、このような危険な場にお連れするとは……!!」
「事故だ事故!!俺は悪くねえっつの!!」
「問答無用!」


ヒュプノスさんがものすごい形相で手を掲げたので、慌てて蟹さんの前に飛び出す。
怒ったヒュプノスさんの顔は怖いけれど、蟹さんが無実の罪でフルボッコになるのはもっといただけない!


「あ、あの、本当に蟹さんは悪くないんです!たまたま運が悪かっただけで……」
「姫君、お退きください。そこの馬鹿者には、一度永久の眠りを見舞ってやらねばならぬようです」
それって死んじゃうじゃないですか!!そんなことしたら、ヒュプノスさんのこと嫌いになりますよ!」


我ながら子供っぽい脅しだとは思ったけれど、意外にもヒュプノスさんは即座に構えを解いてくれた。
基準がよくわからないと内心首をひねりつつも、蟹さんの首がつながったのでよしとする。
それでもまだ不服そうなヒュプノスさんに、さてどうするかと頭をひねって。




   あ」




手に持ったままのブルーベリーパイを思い出した。


「ヒュプノスさん、これ!蟹さんに食べてもらおうと思って作ったんですけど、これを皆さんで召し上がりませんか?」


冥界の皆さんは私がお菓子を作ると喜んでくれるから、これで少しは気をそらせるはずだ。
その考えはあまり間違っていなかったようで、ヒュプノスさんは途端に態度をころりと変えた。


是非。さあ姫君、冥界へ参りましょう」
「え、あ、蟹さんも一緒に!!」


さらりとナチュラルに置いていかれそうになった蟹さんも慌てて巻きこんでもらって、ラダマンティスさん達のいるところへと連れていってもらう。
ヒュプノスさんはエリュシオンの方が良さそうだったけれど、どうせなら大勢で食べる方が楽しいにきまっているのだ。
お父様には別途とっておいて   





「ってうわぁっ、お父様!?」




こちらには滅多に来ないはずのお父様に恨みがましく名前を呼ばれ、思わず数センチ飛び上がってしまった。


人間、本当に驚くと飛び上がるものなんだね……。
今まで嘘だと思っていました、すいません。


「何故   
「エ、エリュシオンだと、お父様とタナトスさん達としか食べられないじゃないですか!こっちの方が大勢ですし、お父様の分はちゃんととっておくつもりでした!」


どうしてこちらに来なかったのだと問われ、慌てて弁解する。

お父様とは冥界にいるほとんどの時間を過ごしているけれど、ラダマンティスさん達には時々遊びに来させてもらう程度だ。
こういう時ぐらい、ちょっぴり優先させてもらってもいいと思うのだけれど……どうやらお父様にはそうではなかったらしい。


すっかり拗ねてしまったお父様をなだめながら(蟹さんがこの世の終わりのような顔をしていた)(そしてアイアコスさんになぐさめられていた)何とか穏やかに臨時お茶会を終わらせて、蟹さんに連れられて聖域に戻った。
蟹さん曰く、冥界に来るのは大変だけれど、戻るのはかなり楽なんだとか。


それはいいんだけれど……目の前でものすごく恐い笑顔をしている沙織さんをどうにかしてください。
いつも頼りになるアフロディーテさんとムウさんも、何だか恐くて近寄れませんって。


「デスマスク。さんに何をしたんです?」
「いや、あれは事故だっ   
「どうしてが巻き込まれるような場所で技の練習を?」
「来るなんて普通思わねえだ」
「さあ、デスマスク。覚悟はいいですね?」


……3人とも、見事なコンビネーションで。


、てめっ、どこいきやが   
「サガさーん、ちょっと質問があるんですけどー!!」


その後どうなったかなんて、私は知らない!












(40万打でプレゼントをして下さった3人へのお礼返し!!ヒュプノスが出張っているのは仕様です。いただいた内容から好きキャラを推測して全員詰め込もうとしましたが、やっぱり無理がありましたすいません。感謝の気持ちだけは思いっきり詰め込んでます!お持ち帰りはプレゼントして下さった3名の方のみとなります)