沙織さん(というか教皇)から、今日1日だけ冥界に行ってもいいと許可をもらって、うきうきと出かけてきたのに。
お父様は(今までのつけがたまって)お仕事がぎっちぎちで、お相手してもらえないらしい。

仕方がないのでラダマンティスさん達のところへ行こうとしても、あちらはお父様以上に忙しいんだとか。
なんでも、どこかで起きた大地震で、大勢死者が出てしまったらしい。
たくさんの人のご冥福をお祈りするのと同時に、ラダマンティスさん達の健康もお祈りしておく。


というわけで、せっかくの1日が丸々空いてしまった。


自分の部屋でお父様が作ってくれたぬいぐるみを抱き抱えて、ぼすんとベッドにダイビングしてみる。




「……つまんないの」




子供のようにむくれてもいいだろう、誰も見やしない。
思う存分むくれていたら、不意に扉が静かにノックされた。


「はーい?」
様、失礼します」
「姫君、入ってもよろしいでしょうか?」
   タナトスさん!ヒュプノスさん!」


思わぬ来客に、思わず笑顔がこぼれる。
駆け寄って扉を開けると、両手いっぱいの花を持ったヒュプノスさんと、お菓子やら果物やらを両手いっぱいに抱えたタナトスさんが立っていた。


「姫君、本日は誠に申し訳ありません」
「せっかくいらしてくださったというのに……我らでよろしければ、お相手願えますか?」
「え……でも、お二人ともお仕事……」
「我らの分は、すでに終わっております。ご心配なく、様」


お父様と三巨頭の忙しさからいって、この2人が暇だというのはあまり考えられない。
けれど、一人でいるのはもう嫌だった。
だから、にっこり笑って優しい嘘を受け入れる。


「ありがとうございます!」


ヒュプノスさんが持ってきてくれたお花は、奥さんが選びに選んだエリュシオンでも一等綺麗なものばかり。
タナトスさんの持ってきてくれたものは、全部私が好きなものばかり。

まずはお花をあちこちに生けると、何とも言えないいい香りが部屋中に立ちこめた。
やっぱり、お花の香りって好きだ。
奥さんはちゃんと部屋の内装とのバランスも考えてくれたらしく、雰囲気が壊れることもない。


様、紅茶はこちらでよろしいですか?」


アッサムの缶を片手にタナトスさんに訊かれて、慌てて立ち上がった。


「そんな、私がやります!」
「お気になさらず。様に尽くすのが、我らの喜び」
「そこにおかけになってお待ちください」


そうしてヒュプノスさんが取り出したのは、オルフェさんが持っているような小型のハープ。
この数本の弦で、どうやって音楽を奏でるんだろう。


「紅茶の準備が整うまで、僣越ながら私が姫君の耳をお慰めいたします」


にっこりと笑ったヒュプノスさんは、ぽろんぽろんと数度音程を確かめてから、何とも素敵な曲を演奏し始めた。
素敵すぎて、もうどうやっているのかとか考えられない。

素敵なものは素敵なんだから、それでいいんだよ!
昔の人も、それをわかっていたんだよ!

うっとりと聞きほれている間に、タナトスさんが紅茶とお茶受けを持ってきてくれた。
アッサム独特のいい香りと、ケーキのまた素晴らしいこと。
甘さ控え目のブランマジェを一口食べれば、オレンジとチョコレートの味がふわりと口の中に立ちこめる。


「おいしい!」
「それはよかった。紅茶もどうぞ、様」


タナトスさんに笑顔で勧められてアッサムを飲むと、ブランマジェの甘さとアッサムの風味がとてもよく合っていた。


「素敵な組み合わせですね」
様のお気に召していただけたようで、何よりです」


とろけそうな笑顔でそう言うタナトスさんは、自分とヒュプノスさんの分の紅茶も用意をすると、「失礼します」と空いた椅子に腰かけた。


ヒュプノスさんの奏でる音楽の中、ゆったりとした時間が流れていく。

時々手を止めては紅茶を飲むヒュプノスさんは、視線が合う度に微笑んでくれる。
隣で次の紅茶を準備してくれているタナトスさんも、やっぱり視線が合う度に微笑んでくれる。

一人じゃないって、やっぱりとても嬉しい。


ブランマジェの次は、ミルフィーユ。
紅茶もアッサムからダージリンへと。


ダージリンがお砂糖を入れるとあまりおいしくないの、こちらに来てから知りました。
それまでは、紅茶は必ずお砂糖を入れる派だったんだけれど……確かに甘くはなるけれど、その分渋みも強くなると感じるようになった。
それも、皆さんの淹れる紅茶がおいしすぎるから……!


そんな幸せな時間を過ごしていたら、帰る時間になったのはあっという間だった。
ケーキをいくつも食べちゃって、太っていないだろうか……。

帰ったら体重計に乗ってみよう。
絶対乗ってみよう。

そんなくだらない決心をしていると、タナトスさんがためらうように口を開く。


「その   様」
「はい?」


首を傾げて答えると、さらに少しためらった後に、思いがけないことを言われた。


「御髪に   触れても、よろしいでしょうか」
「髪に?」


そんなこと、どうしていちいち訊いたりするんだろう。


内心で首を傾げながら快諾すると、傷一つない綺麗な手がそっと頭に触れた。
壊れ物を扱うように数度なでて、タナトスさんが綺麗に笑う。
何だかわからないけれど喜んでもらえたようなので、笑い返しておいた。
すると、反対側の髪をヒュプノスさんもなで始める。

大事に大事に、そっと。

大切にされているというのが強くわかって、泣きたいほど嬉しくなった。


「本日はたいしたおもてなしもできず、申し訳ございません」
「次回いらっしゃる際には、是非ご満足いただけるものを」


口々にそう言うと、二人そろって私の髪を一房ずつ取って優雅に口づける。
一瞬何をされたのかわからずに瞬き、気づいた時にはもう聖域に戻っていた。


、お帰り   顔が赤いけれど、どうかしたのかい?」
「どどどどどうもしません、ただ今戻りましたアフロディーテさん!」











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マサコさんのリクエストで、「双子神にこれでもか!って位可愛がられる話」でした。
可愛がられる描写は少ないのですが、思いっきりの甘さをつぎ込んだつもりです…!


ヒュプノスも、普通にしてれば絶対に常識人だと思います。
普段タナトスに虐げられすぎてて、あまり底の部分は出てませんが(笑)
マサコさんがヒュプノスの方がお好きだったかなーとか思ったので、心なしかヒュプの出番を多めにしてみました!


お持ち帰りはマサコさんのみとなります。
リクエストありがとうございました!