小さい頃に見たアニメで、猫とネズミがおいかけっこしてるのがあった。
猫はいつだってネズミを追いかけて、ネズミはいつだって逃げて。
そうして、逃げたネズミは台所でチーズを探すの。
ネズミの探していたチーズは、穴が空いていてとても美味しそうで。
私は昔、あの穴あきのチーズがどうしても食べたくって、探してみたりもしたものだった。
私はあのころとは違って大人になったけれども、未だに穴あきのチーズは、見たことない。
だからじゃないけど、こうやって、探せば世の中は分からないことだらけなのかも知れないなんて、思うんだ。
知識には底なんてないんだなって、思い知らされるんだ。
「ねぇデスマスクさん。デスマスクさんは穴あきのチーズって、食べたことありますか?」
「穴の空いたチーズ?あぁ、エメンタールチーズのこと?あれ、そんなに珍しいチーズじゃないじゃないからな。あるぜ」
ふいと思いだしてしまった下らない想い出。
私の大好きなトムとジェリーにいつだって出てきた穴あきチーズ。
昔はとてもとても食べたくてたまらなかったけれど、どこにいってもなかった、謎のチーズ。
今、こんな大人になっても、私はあのチーズの正体を知らないなんて、おかしいとおもいつつ。
一度気になってしまうと、なんとなく気になりだしてしまって。
ぐだぐだしていた私は、同じく暇を持て余していたデスマスクさんに話しかけた。
穴あきチーズを食べたことある?って。
すると、読んでいた本からふいと顔を上げて、なんでもないことのように答えるデスマスクさん。
口調は、なんともあっさりと。
そういえばデスマスクさんは料理をするから、あのチーズの正体を知っていても当然かと、納得して。
ひっかかる。
あれは…珍しいチーズじゃない…
「あ、そうなんですか?あれ、珍しくないんだ。見たことないかったから、てっきり珍しいのかなって。どんなチーズなんですか?」
「んー…100Kg越すぐらいの重さがあるチーズで、チーズの王様って言われてるぐらいだぜ」
「へぇ…知らなかった。味は美味しいんですか?私、一度あれ、食べて見たいんですよね」
「味は…あれ、チーズフォンデュに使うんだよ、あんまりくせはないし。でもカルシウムは牛乳の15倍。美味いっていえば、美味いぜ」
「あ、なんかよさそう」
「はん。今度フォンデュでも夕飯に出してもらったらどうだ」
「良いなぁ。チーズとお野菜、パンも美味しいね」
本を膝の上に伏せて、機嫌良く笑う、デスマスクさんの笑顔。
その笑顔と台詞に、あぁそうか…とやけに納得する。
大人になっても私にとって分からないことの一つだったチーズの謎は、あっさりと解決してしまって。
こんなことは、それを既に知ってしまっている人にとっては、なんてこともないことなのだろう。
例え、知らなかった私が、初めて知ったことによって、ショックを受けていたとしても。
それは、知ってしまっている人にとっては、なんてこともないことにしか過ぎないのだ。
こんなにあっさりと解けてしまって…
少しだけ、つまらないと言う思いもあったりするのはどうしてだろう?
知識の有、無。
「ねぇデスマスクさん。他にはどんなチーズがあるの?」
「うん?グリュイエールなんかもフォンデュに使うぜ。あれは、用途広いけど。スプリンツは最も歴史の古いチーズだったか?」
「へぇ…歴史ねぇ…チーズにも本当色んなものがあるんだね。普通のチーズしか、殆ど知らないけど」
「まぁ、な。でもさ、それを言ったら、世の中きりがないさ。酒だって煙草だって、色々種類も歴史も、ありすぎだし」
「そうだね。でもさ、デスマスクさんは実は私より物知ってるよね。尊敬するなぁ…そういうとこ」
「物なんて知らねぇよ。たまたま、チーズは知ってただけで。本当にたまたま。のが物知ってるだろ?」
「そんなことないよ。でも…そうなのかな?たまたま…なのかな?」
「あぁ。だって、知ってることと知らないこと、あるだろ?たまたまの知らないことを俺が知ってただけだよ」
「そっか」
顔を見合わせて。
デスマスクさんの手の中の本と、私の読んでいた本を見比べて、こんなところでも、知識は違うと、納得する。
私の知らないことを知っていたデスマスクさん。
それは、たまたまだと考えて。
あぁ、それはきっと本当に偶然なんだろう。
デスマスクさんは、全体で言えばほんの少しのことしか、知らないのかも知れない。
例えば、穴あきチーズは知っていたけど、昔童話で見た真っ赤なチーズの正体は、知らないのかも知れない。
私に知っていることがあるように、デスマスクさんにも知っていることがあって、私に知らないことがたくさんあるように、デスマスクさんにも知らないことがたくさんあるのだろう。
世の中は、深い。
それに伴う知識も…深い。
両方ともそれに相まるようにして、深くて、悲しい。
何処へ行っても、世の中の終わりなんてものはないのかも、知れない。
知識の終わりなんてものも、ないのかも知れない。
「…そっか。そーだよねぇ。戦闘の戦術なんかは、もっぱら管轄外だし」
「はん。そんなのは、聖闘士だけが知ってりゃ十分だよ。サガだって、すげぇ物知ってるけど、抜けてるところあるぜ?」
「あ、そうだね、サガさんもあんがい抜けてるよね。この間メジロを指さしてホトトギスだって言ったときは、笑った」
「ほーほけきょ。でもあれって、大体殆どの奴が間違って認識してるだろ」
「そうなの…?それは強烈だなぁ…て言うか、ほーほけきょはホトトギスじゃなくてウグイスだよ、デスマスクさん」
「あん?そうだっけ…ま、所詮は人の認識力なんてそんなものだろ?知識なんてうろ覚えなもんだよ」
「ふぅん…世の中…本当に色んな知識があるんだねぇ…」
「ん、そうだな。だからこそ、好きなことを知る楽しみとかあるんだろうけど」
深い、深い知識は、ほんの少しの事でしかないのかも知れないけれど。
人の短い一生じゃ、それこそ一生かかっても、たどり着けないようなぐらいの知識が世の中には溢れているけれど。
その中から、好きな物をえらんで、自分だけ知っていることを確立してゆく喜び…
それは、なんて楽しいんだろう、面白いのだろう。
伏せていた本にちらりとまた目線を落として、デスマスクさんが笑う。
知識と、知性と、それを知る深み、喜び。
世の中と…それに伴う知識は、なんて、なんて深いのだろうか。
「デスマスクさんは料理とか?良いですよねー自分で美味しい物作れる人は」
「そうか?なんとかなるもんだぜ?料理なんて。つうか俺さぁ、包丁好きなのよ」
「…なんか危ない人に聞こえますよ、それは…」
「でも切れない包丁は大っ嫌いでな。だからいつでも研ぎ石で包丁手入れしてんの」
「…『悪い子はいねえかー』って声が聞こえてきたよ、今」
「おいおい、、それよか先に『見ーたーなー』って奴じゃないのか?」
「危ないって自覚、あるんじゃないですか」
総ての知識を知ることは、一生を費やしたとしても、無理なのだろう。
知識は、代々限りない。
けれども、自分の好きなことを好きなところまで知ることぐらいは、出来るのではないだろうか?
例えば、大人になっても分からないままだった穴あきのチーズ。
それと同じように、世の中なんでも知らないことや、知らない知識で満ちている。
掘り下げることを、止めないで。
探求することを、諦めないで。
いつだって、あなたの回りも知識で満ちているのだから。
「なんにせよ…何処を見たって知らないことばかり。だから世の中面白いんだろ」
小さい頃に見たアニメで、猫とネズミがおいかけっこしてるのがあった。
猫はいつだってネズミを追いかけて、ネズミはいつだって逃げて。
そうして、逃げたネズミは台所でチーズを探すの。
ネズミの探していたチーズは、穴が空いていてとても美味しそうで。
私は昔、あの穴あきのチーズがどうしても食べたくって、探してみたりもしたものだった。
私はあのころとは違って大人になったけれども、未だに穴あきのチーズは、見たことない。
だからじゃないけど、こうやって、探せば世の中は分からないことだらけなのかも知れないなんて、思うんだ。
知識には底なんてないんだ、限界なんてないんだなって、思い知らされるんだ。
だからほんの少しだけ、考えっぱなしにならないで。たまにはゆっくり歩いてみたら…
きっと、また違った意識で物事を捉えることが出来るから。
沈む思考を引き上げて、何も考えずに歩きはじめて。
(そうすれば、きっと知らないものが見えてくる)
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ヒロイン…!!(滂沱)こうやってヒロインは少しずつ大人になっていくのね!
思わずハンカチを握りしめながら、食い入るように読んでしまいました。
日本の昔話に異様に詳しいデっちゃん、時々怪談話とかしてヒロインを死ぬほど怖がらせてればいいと思います。
んでもって、アフロにデモンローズをぶち込まれてればいい。
当サイトのデスマスクはこんな扱いです、ほんとすいません。
でも、デスマスクの料理は確かに食べてみたいです!
天杜慧さん、どうもありがとうございました!元気注入!
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