あのストレート、実は結構好きだったのになあ……。
ま、今更ぐだぐだ言っても仕方ないけどさ。









碁石並べ









「馬ー鹿馬ー鹿馬ー鹿!!」
「んだとゴラァ!」


全力疾走しながらも、それでも後ろを振り向いて口を動かす。
廊下は静かに歩きましょう?知るか、そんなの。




廊下ってのは500m走のタイムを計るためにあるもんでしょう!(なんか違う)




「みなさーん、宍戸ったら、こないだの」
てめぇそれ以上いったらぶっ殺す!


テレポートダッシュだか何だか知らないけど、とにかくものすごいスピードで追いついた宍戸に口をふさがれる。


「もがががもがももが!」
「何て言ってるかわかんねえよ」


「鼻をふさぐな馬鹿者!」


死ぬかと思った……!


宍戸の手を必死こいて振りほどき、思う存分息を吸う。
ああ、空気っておいしい!


「大体、あんなもんいつまでも後生大事に持ってるのがおかしいって」

びしりと指を突きつけて断言すると、宍戸は苦々しげに顔を歪めた。

「うっせーな、これから捨てに行くつもりだったんだよ」


「てかさ、そのテストがあったのって、2週間前じゃない?」

何で今まで捨てなかったのか。

……気まずそーうに目をそらす宍戸を見て、理由がわかった気がした。


「……忘れてたんだね、宍戸……」


だからあんなにぐしゃぐしゃになってたんだね。
てっきり、あまりの成績の悪さに自分でやったのかと思ってたよ。

まさか机の中に放置してたから教科書であんなになったなんて、思いもしなかったよ……。


生暖かい視線をむけてやると、宍戸のこめかみに青筋が立った。


「死にてえか、お前」
「若い身空で犯罪者になりたいの?宍戸」


わざと真剣な顔で訊いてやれば、青筋を立てたままで殴られた。
痛い……!


「冗談だったのに……!」
「お前のは妙にリアリティがあるから笑えねえんだよ!」


ああ酷い、これが親愛なるクラスメートに対する態度かね。
涙が出ちゃう!とばかりに宍戸を見たら、心底嫌そうにキモいと言われた。失敬な!


「大体、お前はどうだったんだよ」
「私?」


あれ、私に数学の点数を訊くっていうの?


「もちろん、91点☆ごめんねー、仲間じゃなくって」


国語はありえないほど苦手だけど、理数系なら任しとけ。
社会も世界史なら何とか平均はいける。

今のところは。


「宍戸はまんま文系タイプの頭してるからねえ……。てか、髪切ってから勉強してる?」


死にものぐるいに練習してレギュラーに復帰してから、宍戸の成績ががた落ちしてるように思えてならない。

え?何でそんなこと知ってるかって?
岳人から教えてもらってるに決まってるじゃん!


「あんたさー、そのままじゃ数学補講になるよ?確かレギュラーって、補講厳禁じゃなかったっけ」
「は?んだよ、それ」


宍戸が怪訝そうに眉を顰める。
あれ?違ったのかな。
この間、跡部が半ギレになりながら言ってた気がしたけど。


「違うならいいんだけどさ。この間の中間であんまりレギュラーの補講組が多かったからって、跡部が地獄の底みたいな声で言ってたよ」
「げ」


ぴしりと固まった宍戸の様子を見ると、どうやらそんな記憶もあるらしい。


「……どうすんの、それ」
「……何とかできたらやってんだろ」


うん、宍戸の言う通り。
やれるならやる奴だよね、あんたは。


「……教えよっか?再試8割で通れば補講なしでしょ」
「マジか!?頼む!」


ぼそりと言った瞬間に、予想以上の食いつきをみせられて、思わずのけぞってしまう。
や、ほんと、この剣幕でいきなりずずいと顔をよせられたら、誰だってびびるって……!


「そ……それじゃ、日曜の午後に駅前のドトールで」


図書館は私語厳禁だし、お互いの家にあがるほど親しくもない。
残念ながら。


「おう!サンキュ」


ああ、あんたは本当に嬉しそうに笑うね。
うらやましいよ、ほんと。


でもさ。


「ところで宍戸君」
「ん?」


「部活はいいのかね?もうそろそろ跡部が切れて円舞曲が開始される頃だと思うけど」


どうでもいいけどさ、跡部のあの技ってこっ恥ずかしい名前だよねー。


そう同意を求めた時には、すでに宍戸の姿はなかった。
さすが、テレポートダッシュ……!












「だからさ、列をi、行をjとして、個数をnとするじゃん?」
「おう」


しっかし……先生もエグいよね。
中3に高1の範囲やらせるのはまあ私立だから仕方ないとしても、これって数学オリンピックの問題じゃない?


前にネットで見たことのある問題でよかった。
心底よかった。


「……で、2n^2−2×1999n+1999^2。=2(n×1999/2)^2+(1999^2/)2。だから、n=999の時に最小値の1998001になるの。オッケ?」
「…………何とか」


てかよ。


「^とか/とか、この変な記号は何だよ」


あれ?授業じゃやってないっけ?


「プログラミングのところで出てくるよ。^はべき記号って言って、つまりはかけ算。って言っても、正確には自乗になるけど…。/は割り算。普通に書くより時間短縮になって、殴り書く時には便利だよ」


そう説明したら、何とも奇妙な物を見る目をされた。
何だよ、せっかく教えてやったのに……!


「もう教えてやんねえぞ帽子野郎」
「すまん俺が悪かっただから最後まで教えてくれ」


むかついたからぼそりと言ってみれば、宍戸は途端にころりと態度を変えてヘコーとなった。
やっぱ補講=レギュラー落ちは嫌だもんね、うん。


「わかったらさっさと次の問題出せ、次の問題。これと同じの出るんでしょ?」


先生の方もさすがに鬼のようなレベルの問題を出すだけあって、少しは執行猶予をくれるようだ。


1問1問は死ぬほど難しいけど(どうして数学の再試通過者が異様に少ないのか、今日初めてわかった)(鬼だこの教師)問題はたったの5問。
配点の誤差があるから何ともいえないけど、とりあえず4問以上解き方をマスターすればいい訳でしょ!


スパルタで参りますとばかりに腕をまくると、宍戸が情けない悲鳴を上げた。
ええい、軟弱者!












結局、宍戸は無事に(っていっても83点だったから本当にぎりぎりだけど)追試を通過したらしい。


涙ながらに感謝され(「これで跡部に殺されなくて済む……!」とか言ってた)(よっぽど跡部が怖かったらしい)、何かほしい物はないかって訊かれたから、とりあえずモロゾフの詰め合わせセットを頼んでみた。


もろぞふ?って、明らかにひらがな表記で聞き返されたから、うん、モロゾフ。って笑顔でうなずいておいたけど……さぁて、宍戸は誰に訊くのかな?(超笑顔)