今日も今日とて、私達の関係は良好だ。
今日も元気に口喧嘩。


……うん?良好?








ウリエルに捧げる報酬










やばい。


問題集を解いてみて、心の底からそう思った。




……国語、全っ然わからない。




正確には古典だけど。

何だこれ、こんなの日本語じゃないでしょ。
尊敬語丁寧語謙譲語?そんなのどうだっていいじゃない!
そもそもこの文、どこで切れるわけ!?


「というわけで宍戸、古典教えて」
「はぁ!?」
「あんた文系だから古典も得意でしょ?このままじゃギリシア語よりも酷い成績になる!」


ギリシア語もそれほど酷いわけじゃないけれど、やっぱり複雑な言語なだけあって難しい。
平均すれすれをただよっている程度だ。


ああもう、やっぱりドイ語にしておけばよかった!
そうすれば、跡部を拝み倒して教えてもらえたのに!


「何であんた、ギリシア語取ってないのさー!!」
「知るかよ!俺のせいかよ!!」


つーか、今の脈絡ねえし!!


派手に突っ込まれて首を傾げる。


今の、文脈おかしかったかな?
きっちりつながっていたと思うあたり、私はやっぱり国語の才能が壊滅的なのかもしれない。


「お前、ほんっと国語苦手な」
「悪いか阿呆!!数学のあの魅力を知らないから、そんなこと言えるんだよ!」


素数因数フィボナッチ、ああめくるめく数学の世界!
全ての理論が数字で証明できる、あの爽快感!


「やっぱり、文系と理系は相容れないのかねえ……」
「いや、それ絶対違うだろ」
「何か宍戸って、突っ込みキャラになってきたよね」
「誰のせいだ誰の!!」


いつもながらキレのある突っ込みだ。


そういえば、いつからこういうキャラになっていたんだろう。
会ったばかりの頃は、もっと常識人だった気がするけれど。


記憶をひねり出そうとしたけれど、そんなことをしても無駄なのが何となくわかったからやめておく。
数学以外は結構どうでもいいと思うこの思考回路、我ながらまずいだろう。
でもいいの、どっかの数学が大好きな女の子が出てくる本よりはずっとマシだから!


ミルカさんと自分を比較したら、絶対私の方が普通だと思うのだ。
ちょっと読んで面白かったから宍戸にも貸したら、顔を思いっきりしかめて「なんだこいつ、人間じゃねえだろ」とか言ってたし。


……うん、確かに、初対面の人間にいきなり数列の問題を出すのはどうかと思うよね……。
それに喜々として答えるあの主人公も、ちょっとどうかと思うけれど。


思考が数学の本に完全に飛んでいきそうになった瞬間、宍戸のでこピンで現実に引き戻される。


「どこに思考飛ばしてんだよ、お前」
「ん?めくるめく数学の世界へ」
「キモっ!!」
「酷っ!!」


さすがに私も傷ついた。

軽い口調で笑いながら、後で跡部や滝に言いつけてやろうと目論む。
あの2人なら、一番効果的にじわじわと責めてくれるだろう。
というか、レギュラーの知り合いがあの2人と向日しかいないんだけど。


目立つから誰がレギュラーかは知っているけれど、自分から進んで仲良くなりたいとは思わない。
だってほら、確かにあの顔はおいしいと思うけれど、周りの子たちが恐ろしいから。


そうだ、周りの子といえば。


「そういえば、あんたの知り合いの子が一悶着に巻き込まれたんだって?ずいぶん大騒ぎになってたけど、大丈夫だったの?」


どこかのクラスの子が退学になったって聞いたから、多分それに関係あるんだろう。
それだけ大きな騒ぎになったんだから、その子も大変な目に遭ったのかもしれない。


怪我でもしてないのかと心配になって訊くと、宍戸が途端に苦々しい顔になった。


「あいつもなあ……無茶ばっかりしやがって」


こっちの気にもなってみろと髪の毛をかきむしるその様子は、心底心配しているようだ。
宍戸らしいと、口元がゆるむのを感じる。


「やっぱり、怪我したんだ」
「怪我なんてもんじゃねえぞ、あれ。もっと早く気づいてれば……!」


悔しそうに舌打ちをした宍戸の肩を叩いて、あんたのせいじゃないとかぶりを振った。


「多分その子、後悔してないんじゃない?詳しいことはよく知らないけど、跡部が根性ある奴だって褒めてたし」
「あいつも気にするなっつってた。けどよ、そんなの無理だろ!?」


あちゃあ、宍戸にこの話題は地雷だったか。
こんなことだったら、滝に無理矢理にでも聞いておくんだった。


曖昧な笑顔でごまかした友人を思い出して、内心でほぞを噛む。




   っ、ああもう!




「何であんたがそんなに怒るのよ!!」
「怒るにきまってんだろ!俺のせいで、あいつがあんな目に遭ったんだ!!」
「阿呆!!」


こんなに必死になるってことは、宍戸にとってよほど大切なんだろう。
ひょっとして、告白するまもなく失恋かとも思ったけれど、それはとりあえず置いておくことにする。


「宍戸さあ、色々しょいこみすぎ。跡部は理不尽なことはしないでしょ?まして、女の子に怪我させるようなことなら」


跡部は自信過剰気味だけど、そこら辺はきっちりしている。
だとしたら、それはその子から言い出したことのはずだ。
だから本当は、宍戸が口を出すことじゃないと思う。


「責任感強すぎるんだよ。それ、宍戸の悪いところ」


どうせ失恋なら、最後にずっと言いたかったことを言ってやりたかった。


きっぱりと言い切って、気分もすっきり。
晴れ晴れと宍戸を見ると、何故か惚けたような表情をしていた。


「……大丈夫?」


思わず顔の前で手を振ると、宍戸はその表情のままぽつりと呟く。


「……俺、責任感強すぎか?」
「うん。いい兄貴すぎてちょっとウザい感じ」
「…………そうか……」


……何故かものすごく落ちこまれた。


「もうちょっと、気ぃ抜いてみるか」


納得したように呟いた宍戸にそうしろとうなずく。
何か吹っ切れたように笑った宍戸に、同じく笑顔で手を差し伸べた。




「それじゃ、ハーゲンのドルチェ」




はぁ!?何でだよ!!」
「何だか解決に一役買ったみたいだし、こないだのモロゾフは結局間違いだったでしょ!」
「あんなのわかるかよ!」
「んじゃ、よろしく!」


言ったもん勝ち!!


鞄をひっつかんで教室を逃げ出すと、後から宍戸の怒声が追いかけてくる。


「てめっ、こら、!!」


こんな日常が楽しくてたまらない。


さあて、ちゃんと裏の望み通り、モンブランを買ってきてくれるかな?
ティラミスだったらがっかりだよ、宍戸!!