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跡部家に使える数多くのメイドや執事、その中でもずば抜けて優秀で重宝されている人物がいた。 秘書検定1級を高校2年の時に取得したという彼女は、女性ながら跡部家の跡継ぎである景吾の秘書兼執事として、常に傍近く仕えてスケジュールの管理も怠らない。 「景吾様、あと10分ほどで来客の予定です」 「わかった」 「お召し物は?」 「お前に任せる」 おざなりに手を振った跡部を気にも止めず、彼女はぴたりと彼の好みの服装を取り揃えてくる。 そんな彼女に淡い気持ちを抱き始めたのは、一体いつのことになるのやら。 「おい、」 「はい」 「今夜の夕食はスペアリブだ、シェフに伝えておけ」 「かしこまりました」 もう夕方に近いこの時刻、今更メニューの変更などシェフは悲鳴をあげるだろう。 けれど、それが何でもないことであるかのように微笑んで頭を下げるに、景吾は少し苛立ちを覚える。 「……お前、これから作れると思ってんのか?」 「それが景吾様のお望みなら、叶えるのがお仕えする我々の仕事でしょう」 とんでもないわがままでない限り、彼女が跡部を諌めることはない。 むしろ、5歳以上も年の離れた彼が、どこか弟のわがままのように思えて微笑ましくてたまらないのだ。 そして、いつものように頭を垂れる。 「かしこまりました、景吾様」 「 「何やねん、いきなり」 「うるせえ」 どかりと不機嫌にソファーに腰を落とした跡部は、苛立たしげに前髪をかきあげる。 急な予定変更にも嫌な顔一つしない、素直で従順な執事。 馬に乗りたいと言えばすぐさま会員制の乗馬クラブの予約を押さえてくるし、マンタが見たいと言えば自家用ジェット機を飛ばして沖縄までの日帰りツアーを完璧にスケジューリング。 一体こいつは何者だと、何回思ったことやら。 優雅に頭を垂れて、いつも言う決まった言葉。 「かしこまりました、景吾様」 名前を呼ばれるだけで嬉しいと感じるのは、もう末期だろうか。 そういえば一度、シェフが出払った時にラム肉のフォアグラ添えを食べたいと言ったら、「少々お待ちください」と言い置いて、数十分で作り上げてきたこともある。 本人曰く、「家庭科の成績は7」だったらしいが、そこは恋のスパイスとやらが効いたらしい。 非常によくできた味だった。 そんなことを思い出して、跡部は一人頭を抱えてうめく。 「……末期じゃねえか……!!」 「やから、何が末期なん?」 「お前には関係ねえっつってんだろ」 コンマ5秒で返しつつも、頭の中を占めるのは彼女のことばかり。 あのピンク色の唇が「景吾様」と動くのを想像しただけで、全身に血がのぼる。 全身にということは、もちろん健全な男子たるもの 「うわっ、ちょ、跡部お前、何考えとんねん!」 「……うっせえ……!!」 けして上品とは言えない部分まで妄想が膨らみ、その結果忍足にドン引きされた。 あの忍足にドン引きされた。 その事実にへこむとどうにか元に戻ったものの、彼女は一体どんなわがままなら困った顔を見せてくれるのだろうか。 いっそのこと、跡部の跡継ぎを産めとでも言ってみればいいのだろうか。 そこまで考えて、いや、とかぶりを振る。 「……めんどくせえ……」 「……なあ、跡部。何か悩みがあるなら言ってみろって」 とうとう宍戸にまでそう促され、からかわれはしないだろうかと思いながら渋々事情を説明し。 「それは……」 「……なあ……」 「何とも……」 何の役にもたたなかった。 何とも言えない表情で黙りこむ仲間達にため息を一つ落とし、跡部はソファーから立ち上がる。 「跡部?」 「帰る」 「あ 引き止めることを許さない断言に、向日が気おされながら手を振る。 それを見もせずに校門に向かうと、 「お迎えに上がりました、景吾様」 「……ああ」 先程まで(言葉を選ばないならば)オカズにしていた相手に微笑まれ、どうしたらいいのかわからない跡部の口調は、自然ぶっきらぼうになる。 それに眉を顰めたは、心配そうな表情で一歩進み出た。 「景吾様?どこかお加減でも 「どこも悪くねえ。帰るぞ」 「……はい」 まだ心配そうな目を向けてくるに大丈夫だとうなずいてみせると、ようやく安心したように目を細める。 その些細な仕草も魅力的に映ってしまうのだから、恋とは本当に盲目だ。 低くあげた呻き声は、幸いにも彼女には届かなかったようだった。 車のシートに深く埋もれながら、さてどうするかと跡部は考える。 ----------------------------------- 「樺地君的ポジションのヒロインで、我侭を聞いてくれるのは確かに嬉しいけどあんまり素直で優しすぎるのも困りものだよねっていう話」でした。 予想外に跡部が下品すぎて、書いててびっくりしました。 お前、 下ネタもいけたんだな…(お前のせいだ) 何でもできちゃう自信満々な跡部でも、恋に関しては年相応のお年頃な少年だといいと思います。 思ってたら下品になりすぎましたが!(笑) 忍足にドン引きされるとか、どんだけー。 これから跡部がどうやってヒロインを落としていくのかは、ご想像にお任せします(笑) お持ち帰りはリクエストをして下さった方のみとなります。 リクエストどうもありがとうございました! |