可愛い振りしてあの子、割とやるもんだね、と。

実際いるなんて思わねえよ!









バサラ!









立海には魔女がいる。
そんな噂が他校にまことしやかに流れたのは、ミンミンゼミが大合唱を始める頃だった。
どんな見た目だとか、どんな性格だとか。そんな情報が一切入ってこないのが、この上なく胡散臭かったのだが。



や、嘘じゃねえし!マジでいるし!



ちょっと、ナレーションに突っ込まないでくださいよ!こっちもこれで商売してるんだから!
えー…それはともかく、立海の魔女は名前ばかりが有名だった。













「ブン太ー」


言葉と共にずっしりと背中にのしかかられ、ブン太は思わずガムを飲み込みかけた。




誰だ、今のは…!




や、赤也のはずねえし(だって今のは女の声だ)、そもそも俺には彼女なんつーものもいねえ訳だし(寂しい奴とか言うな!)、となると必然的にあいつしかいなくなる。

飲み込みかけたガムが喉の奥を一瞬塞いだせいでちょっぴり三途の川を渡りかけながら、ブン太は0.5秒で答えを弾き出した。


…今、俺マジ死にそうだったんだけど!」


向こう岸で手を振る祖父と何とか別れをはたして生還し、恨めしさ全開の目で後ろを振り向く。
同時に背中にかかっていた圧迫感も消えて、のんきに笑う友人の姿が視界に入った。


「ごめんごめん、許せ!」


絶対にたいして悪いとも思っていないような表情で笑うのは、テニス部マネージャー…ではない。
曰く、「何でファンクラブに目をつけられてまで、好きでもないマネージャー業なんてやらなきゃいけないの!?(絶対嫌!)」らしい。
何度かマネージャーの依頼に赴き、その度にばっさり切り捨てられてヘコんでいる真田が目撃されていたりする。

帰宅部生活を満喫しつつ、何故かテニス部と仲がいい。
その上さらに何故か、ファンクラブにも目をつけられていなかったりする。


「ねえブン太、あれもうやった?」


ぐぐっと顔を近づけて、純粋そのものの笑顔でが尋ねる。元がそれなりにいいために、その表情はなんとも愛らしい。
が、ブン太はそんなものには騙されなかった。


「……、部室行こうぜ。な?」


ぽむ、との肩に両手を置いて、ブン太はしみじみそう言った。


このままここにいたのでは、後が怖い。


思った通り、はにっこり笑ってうなずいた。
抵抗もせずに押されるがままに部室に誘導され、中にいた部員たちにひらひらと手を振る。


「やっほー、赤也。おはよ、ヒロシ」

「ちっス!」
「もう放課後でしょう」

「うっさいヒロシ!今日初めて会ったらおはようなの!」


元気に返事をした赤也には笑顔を、呆れたような表情で突っ込んだ柳生にはがうと噛みつき、は当然のように椅子に座った。


「で、さ。この間のあれ、やった?」

実にうきうきとした様子で、教室にいた時とは全く異なる表情でブン太を見るに、赤也が食いつく。


「今度は何スか!?」
「うーふーふー、気になるー?」
「はい!」


元気いっぱい、犬のように返事をした赤也に、は実に満足そうに笑った。


「ほら、これ」


一体どこに持っていたのか、どこからともなく取り出したのは、キャラの壊れ具合が有名な戦国アクションゲーム。


「あ!先輩、それってBASARAじゃないっスか!」
「そう!やってみたんだけどさ、無双より全然簡単だよ。ブン太がやってなかったら貸したげようと思ってさ」


にんまりと笑う彼女には、もはや教室での影も形もない。
心得たように、赤也が隠し場所からPS2を持ってきた。


「真田副部長、今日は会議で来ないんスよ。今のうちにやっちゃいましょ!」
「よっしゃ赤也、よくやった!」


親指をぐっと立てて、は手早くディスクをセットして起動させる。


「で、結局ブン太はやってるわけ?」
「やった。今のところは武田だけだけど」


なんだかんだ言って、ブン太もテレビの前に座り込んだ。
後ろで柳生が額を押さえてため息をついているが、それは美しく無視をしておく。


「あー、武田ね。あそこって一番馬鹿ばっかじゃない?私は上杉も壊れててなかなかおもしろいと思うんだけど」
「や、明智光秀もやばいだろ。ムービーしか見てないけど、あの鎌はマジやべえって」


2人とも目は画面にくぎづけのままで会話を続けている。

誰がこんなコアな会話をしている彼女を想像できるだろうか。
見た目は全く普通どころかむしろ可愛らしい分、ギャップが激しすぎて逆に清々しい。



いよっしゃ、バサラー!



ゲージが溜まったらしく、突然が吼えた。柳生が深いため息をつく。
ばっさばっさと雑魚キャラをなぎ倒しながら、大将目指してまっしぐら。


「ああもう、敵の倒しやすさはこっちの方が上だけど、バサラ使いにくっ!」
「え、バサラって最強じゃね?俺連発してるけど」
「ははん、さては無双やったことないでしょ?あれはすごいよ、まさに無敵!」



首を傾げるブン太に、が指を横に振る。ちっちっち。



「お前、無双持ってる?」
「もち!あっちもなかなか美形ぞろいでおもしろいよ。特に衣装替えするとめちゃくちゃ笑える。やりたい?」
「おう!シクヨロ!!」


2人ががっちりと固い握手を交わす背後で、光り輝く日本地図が天下統一を果たしていた。
後光がこの上なくまぶしい。




「ほう、天下統一か……」



ぎくり。




聞こえるはずのない声が上のほうからかけられて、3人はぎしりと固まった。


「ブ……ブンちゃん、今のは幻聴よね?」
「そっ、そそそそうだよな!」
「そうっスよ!」

「何が幻聴だ、愚か者!」



現実逃避をしようとした3人の上に、最大級の雷がどかんと落ちた。


「赤也!今日は来ないんじゃなかったの!?」
「や、仁王先輩が来ないって……!」
「馬鹿お前、仁王が本当のこと教えるかよ!騙されたんだっつの!!」
「うわー、赤也の馬鹿ー!!」
「お前たち、そこになおれ!!」


反射的に逃げようとした3人の首ねっこをぐいとつかみ、真田が鬼の形相で怒鳴る。


「ごめん真田、家で重病のおばあちゃんが私を待ってるの……!」


目にも止まらぬ速さでディスクを取り出し、がらりと窓を引き開けて、は枠に足をかけた。


、足をおろさんか!はしたないぞ!!そして、お前の家には祖母なんぞはおらんだろうが!」


いつの間にか逃げ出したを捕まえようと伸ばした真田の手からひらりと逃れ、は見事な身のこなしで逃げ出す。
こういうときだけ10.0の着地を決めて、脱兎のごとく走り出した。
去り際に捨てゼリフのごとく、一言叫ぶのは忘れずに。


「ブン太、今度ブン太ん家で無双やろうね!」
   っ、馬鹿者おおおおおっ!!」
「おー、ソフト持って来いよー!!」
「丸井ーっ!!」


そんなこんなで、実はこれがいつもの光景だったりする。
自分の顔の利用価値を理解し、実にしたたかに猫をかぶって生活するには、今までもこれからも敵はない……だろう。多分。