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無愛想な君が愛しい。 ガブリエルの憂鬱 日吉は一般的に怖がられるタイプの人間だ。 目つき悪いし、口調も厳しい方だし、何より雰囲気が違う。 とことん近寄りがたいオーラを発している。 だからみんな、日吉を遠巻きにして見るばかり。 ファンクラブ、は……いるのかな? 少なくとも、表だってはいないと思う。 というより、いたらいたで日吉本人が叩きつぶしてそうだな。 そんな日吉が好きだというと、大抵は何言ってんだこいつみたいな目で見られて、さらに可哀想な子扱いされる。 ええい、ほっとけ! 「てなわけで、私はとっても不機嫌なわけですよ」 「だからって俺のところにくんなよ……!」 亮は数少ない不満のぶちまけ相手。幼なじみって素晴らしい。 「だって、亮ぐらいしかこんなこと言えないじゃん!跡部先輩とか忍足先輩とか、絶対面白がってしっちゃかめっちゃかかき回すに決まってる!」 あの先輩たちにばれたらアウトだろう。 日吉にとって私はただのクラスメート以外の何者でもないんだし、数ヶ月前までは私にとっても日吉はただのクラスメートだった。 そんな相手から好意を持たれてると知ったら、日吉はどうする? 私だったら気味が悪くて即刻叩きつぶしにかかる。完膚なきまでに。 「別に私は、日吉と恋人同士になりたいとか、そういう大それた夢は持ち合わせてないわけよ。夢見る乙女じゃあるまいし」 「……お前、本っ当に可愛げねぇのな」 「ほっとけ」 亮にも哀れなものを見る目で見られた……!(ムカつく!) 「お前な、やる前から人生全て諦めてどうするよ。たまには貪欲になれって」 「私は充分貪欲だよ、亮。日吉の近くにいたいと思ってる」 真面目にそう言うと、なぜか微妙な顔をされる。 「……そりゃ、彼女になりたいって意味じゃねえのか?」 ああ、そういうことか。 「全然違う。私は日吉を束縛したくないから、恋人になんてならなくていい。ただ、トレーナーとして、マネージャーとして、傍にいたい」 そう、私が望むのはある意味大それたこと。 スポーツの知識も亮から教えてもらったことくらいだし、だからといって努力してるわけでもない。 だから、ただのクラスメートのままでいいんだ。 「昔っから小難しいこと考えてるよな、お前って」 「ありがと。褒め言葉として受け取っておくよ」 がしがしと頭をかきむしりながらため息をつく亮も、昔から変わってないね。 他人のために一生懸命になれるその姿は、とても素晴らしいことだと思う。 亮にさんざん愚痴ってすっきりして(我ながら最低だ)教室に戻ると、何故か日吉と目があった。 ついさっきまで話題にしてたせいで、何も悪いことをしていないというのにどきりとする。 ……私、何も悪いことはしてない、よね……?(不安) けれどすぐに目は逸らされて、ほっとするのと同時に残念な気持ちになる。 「、ちょっと」 にちょいちょいと手招きをされて近づくと、声を潜めてささやかれた。 「あんた、また宍戸先輩と一緒にいたでしょ。ファンクラブに見つかったらやばいことになるよ?」 あ、その話か。 亮と幼なじみだってことは、誰にも言ってない。 勘のいい友達の中には気づいてる子もいるみたいだけど、そういう子にも口止めしてるし。 幼なじみだって理由で私がファンクラブにちょっかいを出されたら、亮は絶対に落ち込むから。 委員会で2年連続一緒になった、先輩と後輩。 そういう関係で通し続けてる。 「大丈夫だよ、宍戸先輩とはそういう関係じゃないし。時々相談に乗ってもらってるんだ」 正しくは愚痴につきあってもらってるんだけど。 とりあえずそう言っておくと、は妙に納得したようだった。 「ああ…。日吉のこと?あんたもたいがい物好きだよね」 「うるさい」 日吉が好きで何が悪い! 「ねえ、あんたあいつのどこがいいわけ?あんな無愛想で感じ悪い奴」 あまりの言いぐさに、思わず反論しそうになった。 だけど、ぐぐっとそれを押さえ込む。 「……内緒」 「えー?」 日吉の良さは、私だけが知ってればいい。 日吉は人からよく思われようなんて根性は欠片ほども持ち合わせていない人種だ。 普段の言動からもそれはひしひしと感じられたし、だから私もなんとなく遠巻きにしてた。 あの時までは。 「おい」 「は?」 何の接点もなかった日吉からいきなり声をかけられた時には、何の因縁を付けられるのかと思った。 一人きりの教室で、確か久しぶりに亮の家にお邪魔しようってことになって、部活が終わるのを待ってたんだ。 そうしたらいきなり日吉が入ってきて、あの鋭い目で私を見据えるもんだから、思わず後ずさりしそうになった。 ぐぐっとこらえて睨み返すと、日吉は目線で窓の外を示した。 思わずその先をたどると、ラケットを持って手を振ってる亮の姿。 「もうすぐ部活が終わる。、宍戸先輩と帰るんだろ?」 「え?あ、うん。でも、何で知って……?」 「屋上で話すときには、周りに注意しろ」 幼なじみだということが広まるのではないかと青くなって思わず詰め寄ってしまったけど、あれは今思えば立派な武勇伝だろう。 「ほ、他に誰かいた!?」 「……誰かいたら、俺がいない」 それはすごく遠回しな表現だったけど、とにかく日吉以外には誰もいなかったらしい。 ほっと安堵の息をついて、わざわざ注意してくれた日吉に笑いかける。 「そっか、よかった。ありがとね」 よし、これからは気をつけよう。 そう心に刻み込んでいたら、日吉は教室から出ようとしてた。 ドアに手をかけたところで、何を思ったか肩越しに振り返る。 「……お前たちがどんな関係だろうが俺には関係ねえ。だけど、お前に何かあったら、宍戸先輩が落ち込むだろ」 そういう日吉の右手にラケットが握られているのに、今更ながらに気づく。 そういえば、さっき日吉は「もうすぐ部活が終わる」と言っていた。 ……部活中なのに、わざわざ抜け出してここまで来たのだ、このキノコは。 誰もいなくなる、今このときだからこそ。 亮のために。 「日吉!」 いてもたってもいられずに、必要以上に大きな声で呼びかける。怪訝そうに振り向いた日吉に、最上級の笑顔を向けた。 「ありがと!」 あの日から、私は無愛想で不器用な日吉が好きだ。 |