美しさは一つとは限らない。
同様に、想う形も一つとは限らない。








ガブリエルの休息








ある日いきなり、亮が後輩の子(私から見れば同級生だけど)を紹介してくれた。

銀髪長身、好青年。
テニス部レギュラーで有名な、鳳君だ。


「初めまして、さん!」

「初めまして。いつも亮がお世話になってます」
「おい」


爽やかな笑顔で挨拶してくれた鳳君に深々と頭を下げると、後頭部を亮にはたかれた。

「……痛い」
「知るか」

恨みがましくじとりと見上げても、亮は負けじと睨み返してくる。
あ、青筋発見。

「幼なじみの可愛い冗談ぐらい流せなくてどうすんの」
「は?おまえの物言いのどこが……ってお前、そのこと言っていいのかよ」



ああ、一応覚えててくれたんだ。
そうだよね、亮はいつだって約束を守ってくれた。



「大丈夫でしょ。だって鳳君、亮のパートナーでしょ?そんなに亮が信頼してる相手なら、言わない方がかえって失礼じゃん」

それに何となく、鳳君はこういうことを絶対に言いふらさないと思う。


   日吉と一緒で。


肩をすくめてみせると、2人は一瞬目を見開いた後に吹き出した。
何だい、失礼な。

「宍戸さんが言ってたとおりの人ですね」
「だろ?こいつ、最高だぞ」

亮の言い方が何となく気に障ったから、とりあえず足を伸ばして臑を蹴ってみる。
痛えとか亮が叫んだけど、自業自得だ。私は何も悪くない。


「鳳君、亮から何を吹き込まれたか知らないけど、とりあえずそれは無視しちゃっていいから」
「……はあ……」


微妙な返事だけど、まあ気にしないでおこう。だって、鳳君はいい人だ。



「で」



鳳君がいい人なのは置いておくとして。

くるりと振り向くと、 亮は私が何を言いたいのかわかっているかのように(そしてそれは大抵合っている)頷いた。

「俺よりもこいつの方が日吉には詳しい。同じ学年だから、まあ相談もしやすいだろ」



……ああ、そういうことか。



どこまでも亮はお人好しだ。そこが亮の美点でもあるのだけど、そんなに気を使って疲れないんだろうか。

それでもその気遣いは下心なしに嬉しかったから、素直に頷く。


「ありがと。……鳳君も、どうぞよろしく」


ぺこりと頭を下げると、鳳君は柔らかく笑ってくれた。
やっばり、亮が信頼するだけのことはある。

どうやら私も、彼のことが好きになれそうだ。

その事実が嬉しくて、へらりと笑った。









鳳君は第一印象の通りにいい人で、亮よりもこっそり会うのが簡単だっていうこともあって、それからちょくちょく愚痴につきあってもらうようになった。
鳳君にしてみれば迷惑極まりないことだろうに、嫌な顔一つせずに相手をしてくれる。



本当にいい人だ…!



おまけに人がこないポイントもいくつか教えてもらえたから、亮と会うときにもよく利用するようになった(だって屋上は意外に人が来やすい)。


一度だけ訊いたことがあった。



「どうして鳳君は、何の関係もない私の愚痴につきあってくれるの?」

首を傾げてそう訊くと、鳳君は照れくさそうに微笑んで、内緒話をするように答えてくれた。

「嬉しいんだ。日吉はあんな奴だから、怖い奴だって誤解されやすい…って言うより、誤解されてるだろ?だから、さんみたいな人が日吉のことをちゃんとわかってくれてて、すごく嬉しい」


どこまでもまっすぐな鳳君の言葉は、時々すごくくすぐったい。
それは私にはないものだから。

だけどそれは、同時にとても心地いい。



あの時から、私は彼に全幅の信頼を置くようになった。
時々亮と3人でこっそりお昼を食べたりして、日吉の様子を教えてもらったりもする。

日吉は部活中はどんな感じだとか、そんなささやかなことが嬉しいと感じるあたり、私も結構乙女思考が入ってきてるのかもしれない。
別に私はテニスをやってる日吉を好きになったわけではないけれど、そういうことを知るのはやっぱり嬉しい。


そんなある日の昼下がり。
いつものようにメールで連絡をとりあって、中庭の人目に付かないところで、鳳君とお昼を食べた。

さんも部活見においでよ。騒ぐファンは正直少し迷惑だけど、さんならそういうことはしないだろ?」


鳳君に誘われて、だけど私はかぶりを振る。

「ううん。亮がテニス部に入ることになった時に、絶対にテニスコートには行かないって決めたの」
「え!?」


私の言ったことがひどく衝撃的だったらしく、鳳君は本気でびっくりしてた。

「どうして?」
「んー……何となく。私が行くと亮は絶対に部活に集中できなくなるし、私もそんなにテニスに興味があるわけじゃなかったし」


昔から亮は心配性だから、私のことが気になって部活どころじゃなくなるだろう。
亮と一緒に帰る時だって、教室からでもいつ終わったかぐらいはわかるし。


そう説明したら、鳳君も納得したように苦笑した。

「確かに、宍戸さんは面倒見いいからな……」
「でしょ?」

顔を見合わせてくすくすと笑いあう。亮とでは絶対にありえない光景だ。

その時、鞄の中で携帯が鳴って、同時に中に入れてきたものの存在を思い出した。
とりあえず携帯を出して亮からのメールに返信すると、その脇にあった包みを取り出す。

「鳳君、これあげる」
「カップケーキ……?」


調理実習の時間に、余った材料で作ったカップケーキ。
元々作る気はなかったから包装も簡素なものだけど、鳳君にならまあ問題はないだろう。

「さっきの時間に作ったんだけど、亮は甘いの嫌いだから。よかったらもらってやって」
「え、でも」

「もうすぐ亮が来ちゃうから。ね?」

いらないなら返せと手をひらひらさせたら、鳳君も慌てて鞄の中に包みをしまいこんだ。


やはりスポーツ少年、食い意地が張っている。


溢れんばかりの親愛と、ほんのちょっぴりの悪戯心をこめて、普通の基準からはかなり甘めに作ったなんてことはもちろん秘密だ。

……食べるとしても部活が終わった後だろうから、まあ甘いくらいがちょうどいいだろう、うん。

合流した亮と楽しげに話している鳳君を見ながら、こっそりと笑った。