だって、これくらいの予防線は正当防衛でしょう?








ガブリエルの微笑









「あっ……あとべくん……!?」


首謀者(仮)の一人が、酷く狼狽した声をあげた。
そりゃそうだろう、あのテニス部のNO.1とNO.2が並んでこっちを見下ろしてるんだから。


「おい、お前ら」


跡部先輩が冷たい目で女の子達を見下す。
視線を向けられた彼女達は、雷に打たれたように反応した。

「ここ1週間のこと、全て記録させてもらったぜ?」


広がる動揺。
こみあげる笑い。


「そういうことです。跡部先輩にご協力いただいて、集団リンチの場面を余すことなく記録させていただきました。関わった人も全て特定済みですね」

口元に浮かんだ笑みがにやりとしたものになったのは、仕方ないことだろう。


「ひっ……卑怯者!!」


金切り声をあげた首謀者に、うっそりとした視線を向ける。



「正当な手段と言ってくださいよ。こっちはもうこんな目に遭わないように、跡部先輩にご協力いただいたんですから」



ねえ?と仰ぎ見た跡部先輩も、にやりと笑いながらうなずく。

「大体、皆さんも悪いんですよ?亮との関係を聞きもせずにこういうことを始めるんですから」

見る間に顔色をなくしていく人達に失笑しながら、とどめの一撃を跡部先輩に託した。



「テニス部部長として、俺には部員と部員に関わる者を守る義務がある。   宍戸の幼なじみであるも、だ」



最後の一言で、女の子達は一斉に真っ青になった。


「嘘……?」
「だって、彼女だって   

「誰が言った?」

「それは   


青を通り越して白くなって黙り込む彼女達に、先輩の冷徹な声が突き刺さる。



「今回の件に荷担した者全て、学校側に証拠の品諸々と併せて報告する」
「まあ、いくら軽くても停学にはなるやろなぁ。俺もテープ見せてもろたけど、相当やんか」
「当然、首謀者及びその取り巻きは退学だ。自分のしでかした事の重大さ、思い知るんだな」



停学、退学の言葉に、見る間に絶望的な表情になる彼女達。




「最後に   どうして私が反抗しなかったのか、それを教えて差し上げますよ」




うっすらと笑って告げ、日吉にまっすぐ目を向ける。


「日吉。ちょっと」
「…………んだよ」


非常に気まずそうな日吉。
ようやく勘違いを思い知ったか、この馬鹿め!!

人差し指で手招いた日吉が正面にきたところで、にっこり笑って拳を作り。

「日吉。何か私に言うことは?」
「………………悪かった」

うなだれた日吉にますます笑みを深くして、甘い声で低く言う。



「一発、殴らせろ?」



頭上で忍足先輩が息を呑んだ気もするけど、まあそれは華麗に無視をしておいて。
無言で考えていた日吉は、ややして小さい声で「それでお前の気が済むんなら」と呟いた。

「ありがと。それじゃ、ボディーにいくからねー」

宣言をした上で、ゆっくりと構えを作る。
全身が痛むのを無視して、狙いを定めて。




   ぐっ!?」




日吉、悶 絶 。


「あー……の拳はほんまにきついからなぁ……」


そこっ、「経験者は語る」みたいなことしなくていいから!


「……と、まあ、こんなわけで。普通よりもちょっと力が強いので、加減がよくわからないんですよ」



女の子達、さらに真っ青。



「それじゃあ、失礼しますね?さようなら」

膝をついて苦しんでる日吉も放心してる女の子達もみんな放置して、振り返らずに立ち去った。



目下の課題はあれだ、跡部先輩にどうやって借りを返すかという事。

あの先輩やらしい方法とってくるからなあ、いかにしてかわすかが問題になってくる。
特に今回は忍足先輩も一枚咬んでるから   



!?おまっ……何だよその髪!!」



……たった今、再重要ミッションが更新されました。

いかにして、この幼なじみを攻略するか。


「あー……そのー……」


さて、どうごまかしたものか。


「どうでもいいじゃん、髪ぐらい。それより、部活はどうしたのさ?」
「ん?あ、ああ、監督がいないから自主練だ。長太郎とランニングを   

さん!?何です、その髪!しかも怪我までしてるじゃないですか!!」

「あー……」




逃 げ ら れ ま せ ん 。




亮だけなら結構単純だし、何より長いつきあいだからどうにかごまかせたんだけどなあ…。



、吐け。」
「……はい」



余計な犬のせいで、結局洗いざらい吐くことになった。









2人の部活が終わるのを待って、亮の家に行って。

「お邪魔します」
「こんばんはー」

おばさんに挨拶したら、髪型にびっくりされた後にものすごい歓迎されて、何故か夕食にまで招待された。
でも、もう家にお夕飯あるしなあ……。

残念ながら丁重にお断りして、飲み物の準備もそこそこに亮の部屋に入る。

「で?それはどうしたよ」
「あー……どうしても、言わなきゃ駄目?」



「駄目。」
「すいません」



鳳君のまぶしすぎる笑顔が怖かった……!(ヒィ!)



小さいテーブルの前で膝をつきあわせて(というより正面と左を囲まれて)、理由を話すと言うよりも尋問タイムが始まる。

「で?それ、どうしたんだよ」
「ええと……それは、だね」
「はい」

ものすごく怖い笑顔の鳳君が、それはそれはにこやかに相づちを打った。
だから怖いって!!

「日吉のせいで、いろいろトラブルに巻き込まれてました」



よし。長太郎」
「わかりました、日吉ですね」

「待て待て待て」




一体何をするつもりだ、あんたら!



「嘘だよ!確かに日吉にも責任の一端はあるけど、私がうかつだったんだってば!!」

結局亮の視線と鳳君の笑顔に怯えながら、事の次第を洗いざらいしゃべらされた。


「……それで、わざわざおとなしく殴られたりしてたんだ?」
「うん」


おとなしくうなずくと、深いため息をついた亮に無言で殴られた。

「痛い!」
「当たり前だ馬鹿野郎!何でわざわざ、お前がそんな汚れ役やんなきゃなんねえんだよ!!」
「だって、私ぐらいしかいないじゃない!この先普通の女の子をあんた達が好きになって、その時になってからじゃ遅いでしょ!?」



今回のこれは一種の見せしめ。
テニス部に関係する者全てに、手を出すことは許さないと。

だから今回は、情け容赦ない処分になるだろう。


そのためにも、反撃は絶対にしてはいけなかった。


私は兄貴で痛みに対する耐性ができてるけど、他の子はそういうわけにもいかない。
跡部先輩や忍足先輩なら権力で黙らせることだってできるけど、それだって自分の彼女の時にやったら、単にやっかみの視線を増やすだけだ。


亮はそんな権力すらない。
自分の腕でしか、彼女を守れない。


仮にも大事な幼なじみだ、それぐらい協力したいと思うのはいけないのだろうか。

「これで、亮達レギュラーに彼女ができても、それがたとえ跡部先輩自身でも、守ることができるでしょ?」



そう、これは私のエゴ。

こんなまでしてあげる私が偉いとか、そういう自己陶酔じゃなくて、今までこんなに面倒をみてくれた亮に何かをしたいという、エゴ。


亮に好きな人がいることぐらい、私ちゃんと知ってるんだからね?



「バっ……!」



怒鳴ろうとした亮が、泣きそうな顔でうつむいた。
告白が成功しても、付き合ったら自分のせいで怖い思いや痛い目に遭うんじゃないかって、ずっと迷ってたもんね。


「だからさ、亮、ちゃんと好きだって当たって砕けてきなよ」
「砕けてたまるか阿呆!!」



おお、もう復活。



「あっはっはっはっ、その意気その意気。頑張って来いよー」

ばっしばっしと背中を叩いてたら、不意にその手をがっしとつかまれた。


「……何さ」


嫌な予感をひしひしと感じながら目をすがめると、亮が鋭い目で見返してくる。



「脱げ」



   はぁ!?」
「しっ……宍戸さん!?」

「やだー!!亮ったら、もしや私に対して欲情しちゃったわけ!?この状況で!?」
「なっ、なななななんてこと言うんですか宍戸さん!!」

違うわ阿呆!!傷見せろっつってんだよ!!」


真っ赤になった鳳君の頭を拳で殴って、負けないぐらい真っ赤な亮が力一杯怒鳴る。
ごまかされてくれると思ったのに……!(ちっ!)


「あ!」


同じく気づいたらしい鳳君に瞬時に捕獲されて、亮に問答無用でひっぺがされて。



「……お前なあ」
「……ワタシニホンゴワカリマセーン」

「何でこんなの放っとくんだ!病院行け病院!!」



さんざんっぱら怒られて、病院に行く約束まで取り付けられた(こっそり放置してたら、後日ばれてマジ切れされた)

まあ、こんな幼なじみと友達に出会えて、幸せですよ?