巡り巡って、数奇な流れ。
こんな結末も、あってもいいかもしれない。








ガブリエルの決着









結局あの後夜遅くに跡部先輩から呼び出しをくらって(何で私の携帯番号を知ってるんだよ)(亮か鳳君が教えたに違いない)(あの二人後で絶対絞める)、超一流の美容師さんにタダで髪を切ってもらった。
今回の件については先輩も一枚咬んでたから、それなりに責任を感じてたらしい。

さすが先輩御用達、とってもセンスの良い仕上がりになりました。



学校に行ったらクラスのみんなに驚かれたけど、ただ一人日吉だけは後ろめたそうに視線をそらしただけだった。



「どうしたの、急にこんなんなっちゃって!」
「ああ、まあ、ちょっとイメチェンをね」



適当に流して逃げて、心配してやってきたらしい鳳君にひらひらと手を振る。
あんぐりと口を開けてる鳳君にマフィンを突っ込んで(非常食に持ってきてた)、さらににっこりと笑う。

「おはよー、鳳君」

挨拶をした瞬間に教室がざわめいたけど、女の子達には昨日の一件がすでに伝わっているらしく、特に何も言われなかった。


「あふぁふぉ」
「何言ってるかわからないよ」


喉にマフィンを詰まらせながら苦しそうに返事をした鳳君に突っ込むと、ようやく飲み込んだらしい彼に怒られた。



「いきなり何するんだよ!」
「だって、ちょうど突っ込んでくださいって感じに開いてたんだもん」
「だからって……じゃなくて、あれからどこがどうなったらこんなに短くなるの!?」

「先輩に呼び出しくらって、御用達の美容師さんにカットしてもらった」

「……それはまた……すごいね」
「うん。でもまあ、カット代も浮いたし、得したかなあと」


「…………そっか」



疲れたようにうなずいて、鳳君は自分の教室に帰って行った。
そりゃ、またあそこまで伸ばすのは時間もかかるし根性も必要だけど、何となく伸ばしてただけだから特に思い入れもないし。

冬になるまでには、うなじが隠れるぐらい伸びるといいな。

「ちょっと、


にちょちょいと手招きされて、近寄った途端軽くはたかれた。


「宍戸先輩と幼なじみなんだって!?なんでそんなおいしいことを今まで黙ってるのよ!!」
「や、普通怒るポイントが違う気が」
「何でもいいでしょ!とにかく、今度宍戸先輩の写真ちょうだいね」
「4歳ぐらいのから各種取り揃えておりますが」


「よくやった!!」


「残念ながら、幼なじみを売るような外道にはなった覚えがないんだなあ、これが」

あっさり言ってやると、が目に見えてがっかりしてた。


いつも思うんだけど、亮ってそんなに夢中になるほどいい男かな?
いい奴だけど、そっちの区分には当てはまらないような気がする。

首をひねりながら授業を受けていたら、横の席の子にそっとつつかれた。







「ん?」
「これ」


渡されたのは小さな紙切れ。


「誰から?」
「さあ?」


まあ、差出人がわからない手紙なんてよくあることだから(だって中を見れば誰からかなんて一目瞭然だし)、あまり気にせずに受け取る。
誰だろう?もう呼び出しはないと思うんだけど……。

首を傾げながら紙を開くと、そこにはたった一言。



『放課後、第5生物研究室で』




誰 だ よ 。




やけに几帳面な字だ。
女の子にしては微妙な字だけど、まあこんな子もいるかな?
基本的には綺麗だしね。



(……に、しても)



また呼び出しかと、ついため息をついてしまったのは仕方のないことだろう。









今度はどんなことを言われるんだろうと思いつつ、とりあえず保険としてまた跡部先輩に声をかけておく。


「先輩、多分平気だとは思いますが、もしもの時はまたよろしくお願いします」
「ああ、わかった。ところで、お前この貸しはどうやって返してくれんだ?」


にやりと笑った跡部先輩に、やっぱりきたかとため息をつく。



「この怪我と髪の毛、それに先輩の将来の彼女さんの身の安全。これで十分じゃないですか?」

「……そうか」



おいおい、その残念そうな顔は何を考えてたんだ!?

とりあえず礼をして逃げて、呼び出された研究室に入る。
そういえば、この教室は一回も入ったことがないよなあ。

第5生物なんて、そもそもが物置みたいな扱いだし。

まだ誰も来ていない教室でふかふかの椅子に腰掛け、ぐるりと辺りを見回す。
その拍子に背中が痛んで、思わず眉をしかめた。



「いった……」



ついでだから、傷の具合でも見てみようか。

ドアに鍵をかけてカーテンをきっちり閉めた上でシャツを脱ぐと、まじまじと自分の身体を見下ろしてみた。





……うん。



改めて客観的に見ると、何て言うか、こう。





「グロ……」





痣だらけ傷だらけ、とてもじゃないけど人様には見せられない身体だ。
古い傷は兄貴にウッカリつけられたやつだけど(その後兄貴がお母さんに全力で殴られてた)


「宮崎先生のとこに行くかなあ……」


小さい頃からお世話になってる先生を思いだして、その荒っぽい治療にちょっぴり青ざめていたら、ドアの方で小さく音がした。
呼び出した相手が来たのなら、そろそろ鍵を開けなければと振り返って。





「…………は…………?」





何 で 中 に 入 っ て こ れ て る ん だ よ !



しかも何で日吉がいるわけ!?




   っ、悪い!」




珍しく(というよりも初めて)真っ赤になった日吉を見たとか、そんなことを考える余裕もなかった。

入ってきたときと正反対に大きな音を立てて日吉が出ていって初めて、思考が正常に動き出す。



「……きゃあああぁぁぁぁぁあぁああぁっ!!」



思わず女の子らしい悲鳴が上げられた自分にびっくりしつつ、混乱する頭で状況を整理しようとしてみる。


何で日吉が!?
っていうか、何で鍵がかかってるのに入ってこれるわけ!?


「何で入ってこれたのよ馬鹿ー!!」
「かっ……鍵開けとく方が悪いんだろうが!!」
「ちゃんと閉めたわボケ   ?」




待てよ?




確か鍵って、1回しかかけた覚えがないぞ?
この部屋にドアは2カ所あったっ け ?



「……私のミスかー!!」



己のうかつさを呪いつつ、慌ててシャツを着てドアを開ける。


「ごめん!申し訳ない!!お待たせしました!!」


こっちの顔も赤いけど、日吉の顔も負けず劣らず真っ赤だ。




「いや……こっちこそ、悪かった。   その、色々と」




いまだに赤い顔で、それでも気まずそうに目をそらして小さく言われて、一瞬何のことかわからなかった。


   ああ、うん。もういいよ、あのボディブローでチャラだって」
「だが   

「くどい」


「俺があんなことを言わせなきゃ、お前がこんな目に遭うことはなかったんだろ!?」


血を吐くような叫び。

日吉の深い悔恨がこめられたそれだけで、私はもう十分だ。


「平気だって。兄貴との喧嘩で、普通の子よりは打たれ強いし。反撃しようと思えばいくらでもできたんだから、あれは私の意思でもあったんだよ」



自分のエゴと、そして少しのプライド。
全て私が選んだ道だから。



「気にしないで。それでも気にするって言うんなら、レギュラーになってみせてよ」


あのテニス部でレギュラーをもぎ取るほどに、血を吐く努力をしてみろと。
言外にそう告げると、ややして日吉が小さく苦笑した。



   わかった」



強めに肩を叩くと、「痛ぇよ」とぼやかれる。

ひとまずは、こんな関係が一番いいかな?