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今日くらいは許してやろうと、珍しく思った。 別に特別な日だからというわけじゃないけど、最近冷たくしてきた自覚はあるから。 降誕祭 「自覚あるんなら、もっと優しくしてやれよ」 「いや、それとこれとは話が別だから」 呆れ顔で亮が頬杖をつくけれど、こっちが呆れたいくらいだ。 「鳳君ならわかってくれるよね、何で私がこんなに怒ってるか」 「まあ……わかるけどね」 日吉も悪気があったわけじゃないんだよ。 鳳君も苦笑してお菓子をつまむ。 「っていうか、よかったの?これ、さんの手作りだよね」 「いいのいいの、どうせ作りすぎて余っちゃったやつだし」 こんな華やかな会場には似合わないけどね。 周りを見回せば控え目でも豪勢な料理。 ホールの真ん中には大きな本物のもみの木が飾られていて、金持ちの考えることはよくわからないとため息が出た。 「むしろ私は、どうしてこんな場所にいるのかがよくわからないんだけど」 せっかくのクリスマスイブ、日吉と2人きり……なんて気持ちの悪い想像をするはずはなく、珍しく夕飯に揃う家族でホールケーキを慎ましく楽しく食べてるはずだったのに! 「今年のケーキは私が選んだのに……!」 「あー、いつも和隆さんに決定権奪われてるしな」 「そうだよ!やっと兄貴を押しのけられたのに」 どうしてこんな分不相応なパーティーに拉致られてこないといけないの? 悔しすぎたから、家族で食べるはずだったジャーマンクッキーを全部持ってきた。 兄貴の悲鳴を聞いてちょっとすっきりしたけど、やっぱりこんなところで、しかも日吉の顔を見るといらつきは倍増だ。 「で?お前が誰かと喧嘩するなんて珍しいじゃねえか」 しかも、相手が日吉なんて。 日吉も私も無闇やたらと喧嘩をしないと知っているからこそ、亮はこんなに心配しているんだろう。 隣に視線を移すと、鳳君も困ったように眉を下げている。 「……日吉が、文句をつけたのよ」 「は?」 「だから、日吉が余計なことに口を挟んだあげく、文句までつけてきたの!」 間抜けな声をあげた亮に一息で言い切って、ホールの向こうにいる日吉をぎりと睨んだ。 合宿以来(主に鳳君が喜ぶから)何かと作って、テニス部の一部に渡すようになっていたのは認めよう。 だからって、わざわざ呼び出して言うほどのことじゃないだろう! 一体何事かと思って北階段の上について行った私に、日吉は実に苦々しい顔で口を開く。 「、お前 「何?」 何か日吉が不機嫌になるようなことをしただろうかと考えていたら、思いもよらないことを言われた。 「無闇やたらに物を作ってくるの、やめろよ」 「 何で日吉にそんなことを言われなきゃいけないんだ? 「部活の邪魔にはなってないでしょ。顔を出してもないんだし」 「そういう問題じゃないだろうが」 「じゃあどういう問題なのよ」 無表情での睨み合い。 理不尽な物言いに屈するものか!と切れ長の目をまっすぐ睨みつけていると、日吉がふいと目をそらした。 「……もういい」 「ちょっと、日吉?」 理由ぐらい説明しろと声をかけたけれど、日吉はそれきり無言で踵を返したのだ。 「私は何も悪くないよね!?何なのあれ!!」 「あー……」 これでもかというほどにジャーマンクッキーにかぶりつきながら訴えた私に、亮が遠い目をした。 「まあ、確かにお前は悪くない、か……?」 「何その曖昧な態度」 「ま、日吉も悪気があったわけじゃねえんだし、許してやれよ。な?」 ほら、と亮に促されて、鳳君に腕をとられて日吉の方に連れて行かれる。 「日吉、メリークリスマス!」 「……何でわざわざ集まって騒ぐ必要があるんだ」 「いいじゃない、イブなんだし。楽しんだ者勝ちだよ」 ノンアルコールカクテルを片手に眉を顰める日吉に、鳳君が実に楽しそうに話しかけた。 めんどくさそうに相手をしていた日吉と目が合った瞬間、反射的に目を鋭くしてしまった私は悪くないだろう。 「ほら、さんも楽しもうよ!」 「いや、私にとってイブは、家族でこたつに入ってまったりしながらケーキを食べる日なんだけど」 わざわざ集まって騒ぐ意味がわからないという日吉には同感だ。 「え、ツリーとかライティングとか見に行きたいって思わないの?」 「そりゃあ、イルミネーションは綺麗だし、見てみたいと思うけど。相手もいないし気力もないし」 日吉とデートしたいという乙女らしい願望も一切ない。 亮にはとことん呆れられたけど、あの人ごみの中をかきわけて歩く気力がないんだ、仕方ない。 びっくりした様子の鳳君に方をすくめてみせると、何故かほっとしたような呆れたような微妙な目で見られた。 ほっとけ! 「でも、イルミネーションは見てみたいんだよね?」 「まあね。銀座のミキモトのとか、六本木ヒルズとか、まああちこちでやってるじゃない?」 雑誌で見るとうらやましくなるんだよね、ああいうのって。 「じゃあほら、庭を見ておいでよ!跡部先輩に聞いたら、中庭のツリーにイルミネーションやってるんだって。日吉も一緒に行ってきたら?」 「は?何で俺が 「にぎやかなの、あんまり好きじゃないだろ?さん1人じゃ暗くて危ないし」 それなら鳳君がついてきてくれてもいいのにと思ったところで、ようやく彼の思惑に気付いた。 ……仲直りしろってことね。 相変わらず友達思いのいい人だ、鳳君は。 ほら、と笑顔で背中を押されて、たまにはその気持ちに乗ってみせてもいいかなと思う。 いつまでも亮や鳳君に心配をかけるのも何だし、正直日吉に怒っていること自体に疲れてきた。 「それじゃあせっかくだし、私ちょっと見てくるね」 日吉がどうするかなんて聞かずに、後ろ手で鳳君に手を振りながらバルコニーを降りる。 さすがにホワイトクリスマスとはいかなかったけど、12月も終わりに近づいたこの時期、パーティー用のこの格好ではさすがに寒い。 「失敗したか……」 お手伝いさんに頼んで、コートを持ってきてもらうべきだった。 小さく震えた身体に舌打ちをした瞬間、ばさりと何かがかけられた。 「……風邪引くぞ」 「いや、これじゃ日吉が引くでしょ」 「鍛え方が違う」 普通に話す分には10cmの差なんてそんなに感じないけれど、こうして上着を羽織ると男女の体格差とかをまざまざと見せつけられる。 どうあがいても敵わないその差が、酷く腹立たしくて悔しかった。 かけられた上着を返そうとしても、それを無視してさっさと歩いて行ってしまう。 仕方がないからそのままついて行ったら、小さく日吉が震えるのが見えた。 ……寒いんじゃないか。 「日吉、これ」 手持ちぶたさだったショールを半ば無理やり羽織らせると、ものすごく驚いたように見られた。 「 「ないよりましでしょ?私はこれで十分だし、ただ持ってるだけなのも邪魔だし」 外そうとする日吉を押しとどめてそう言うと、渋々ながら引き下がる。 カシミヤ100だから、薄さの割には結構温かいはずだ。 ……スーツの上着よりは絶対寒いけれど。 お互いちぐはぐな格好のままでしばらく行くと、個人の家の中とは思えないほど豪華なイルミネーションが現れた。 「……本当に無駄なところにお金を費やす人だな」 「そうだね……」 こんな人気のないところにイルミネーションを作って、一体どうするつもりなんだろう。 「確かに綺麗……」 人ごみにもまれながら、携帯のカメラのフラッシュにかき消されながら、必死に見上げるのとは全然違う。 もしかしたらこういう感覚を味わってみたいと思ったから、跡部先輩もわざわざここに作ったんだろうか。 思わず頬をほころばせながら呟いたら、隣で日吉が小さく反応した。 ……何だろう? 首を傾げて、ついでに本来の目的を思い出して。 「そうだ、日吉。何で私がみんなにお菓子を渡しちゃいけないの?別に部活の邪魔はしてないでしょ」 「それは 口ごもった日吉が、あからさまに目をそらす。 それに少しいらつきを感じながらもじっと待っていると、視線を左右にさまよわせていた日吉が、小さく呟いた。 「 「は?何か言った?」 「言ってない!」 言ったじゃないか。 よく聞こえなかったけど。 反射的に文句を言いそうになって、それをぐっとこらえる。 「……まあ、いいか。クリスマスだしね」 苦笑して、難しい顔をしている日吉を覗きこんだ。 耳が少し赤くなっていて、予想以上に寒かったんだと驚く。 「戻ろ、日吉」 「もういいのか?」 寒いだろうに、驚いた顔で私を見る日吉。 そんな気遣いを見せてもらっただけで、何だか怒る気も失せてしまったあたり、いい加減私も単純なのかもしれない。 「おい、!」 「もう充分だって。日吉が風邪引く前に帰ろう」 慌てる日吉の姿がおかしくて、手を引きながら軽く笑いがもれた。 白い息を吐きながらホールに戻ると、忍足先輩がにやつきながら近づいてきた。 「、日吉もええところにおるやん」 「は?」 「大丈夫ですか、忍足さん」 こっちは真面目に心配しているというのに、忍足先輩は近づくのをやめない。 「あの、忍足先輩?」 何かおかしい。 さすがにそう思い始めた時、先輩がおもむろに手を伸ばしてきた。 頬を固定されて、そのまま顔が近付いてきて 「忍足さん!!」 思考がショートした私の肩をつかんで、日吉が勢いよく離してくれた。 つかまれた肩が少し痛いけど、あの状況の方が危なかったから文句は言えない。 「何をしているんですか!」 「何って……キス?ほら、ヤドリギやし」 示された先には、確かにヤドリギの小枝 ……。 「忍足先輩、それは私に殴られても文句は言えないこと前提でやったんですよね?」 「え、ちょい、ヤドリギの下では誰にキスされても文句言えへん 「言い訳は見苦しいですよ、忍足さん」 隣で日吉も臨戦態勢だ。 「ちょい待ち、ただの冗談やんか!な?な |