女の子達を見ると、日吉の眉間に皺が寄るのはどうしてだろう。








フェレローズ









以前からそこはかとなく気になってはいたけれど、話のついでに訊いてみたら妙な顔をされた。


「何を言ってるんだ?」
「だから、どうして   もしかしてあんた、気づいてないの?」
「だから、何を言ってるんだ」


心底訝しげに言うあたり、気づいていないらしい。
これは駄目だと思って、鈍く痛むこめかみをおさえた。

私に対しては(一時期を除いて)そんなことはないのだから、日吉なりの基準があるはずだ。


「まあとにかく、日吉は女の子が近くにいたりすれ違ったりすると、よく眉間に皺が寄るのよ。何か心当たりはないの?」
「別に」


にべもなく言い切ったな、こいつ。


話を振ろうにも、亮も鳳君も仲良く飲み物の買い出しに行ってしまった。
買い出しくらい1人で行けと思うのは、けしておかしいことではないだろう。

たかかペットボトル4本も持てないような運動部員なんて、運動部員としての才能なんて皆無だ。


使えないと頭の中で亮に舌打ちをして、この無自覚ぶりにため息をつきたくなった。


「わかった。じゃあ、1つずつ確認していこう」


何かの授業のように向かい合って、最後のおひたしを食べる。
その正面で日吉も箸を動かしていて、何だか奇妙な感じだ。


「女嫌い……ってわけないよね、それなら私とこうしてお昼食べてるはずがないし」
「そうだな」
「それじゃ、常日頃女の子を見ていて思うことは?」
「うるさい」


ぴしゃりと言われて、確かにそうかと納得した。


テニスコートは声援の嵐だ。
いや、声援と言うのもおこがましいか。
ファンクラブなら、もっと本人の迷惑にならないようにすればいいのに。


騒音にしか思えない惨状を思い出して、思わず私まで眉が寄った。


「それは……まあ、ね」


ドアが静かに開くのを、視界の端でとらえながらうなずく。
ちょうど入ってきた鳳君にひらりと手を振って、後ろの亮に催促の手を差し出した。


「おかえり、鳳君。ファンタちょうだい」
「投げるぞお前」
「やめてよ、しばらく置かなきゃいけなくなるでしょ」


たまには飲もうと頼んだ、ファンタのグレープ味。
それを見た日吉が、ものすごく微妙な顔をした。


「……ファンタか……」
「何よ、飲みたいの?」


自分の分があるだろうと呆れると、そうじゃないと否定される。
それならどうなんだと目をすがめた私に、苦笑した鳳君がこっそりと教えてくれた。


「中学の時、日吉、控えで試合に出たんだけど……負けた試合相手がファンタ大好きなんだって」
「……そんな理由か……」


ずいぶんと子供っぽいこと。
2年以上前のことを根に持っているんだから、執念深いとも言えるか。

肩をすくめて缶を傾ければ、炭酸が喉ではじける。
あまり心地よくはないけれど、たまに飲みたくなるのか不思議だ。


「何の話してたんだ?」


隣の椅子に座った亮にそう訊かれ、別にと肩をすくめる。


「ただ、日吉はどうして女の子に眉を顰めるのかって話だよ」
「はあ?」
「日吉、女の子が近くにいると、よく眉を顰めてるんだよね。それがどうしてかって」
「顰めてねえじゃねえか」
「今はね」


「よく」顰めると言っているだけで、「いつも」顰めるとは言っていない。
亮もそれに気づいたようで、すぐに苦笑した。


「そういえば、廊下ですれ違っても顔しかめてる時、あるよね」
「でしょう?」
「……そうなのか?」


鳳君ともうなずきあっていたら、ようやく日吉も納得したらしい。
しばらく黙って考えて、おもむろに顔を上げて首を傾げた。




「そういえば、甘ったるい匂いが……」




目を細めつつ呟いた言葉に、鳳君が瞬く。


「匂い?」
「時々、妙に甘ったるい匂いがすることはある……な」


女子特有の、甘い匂い。
それは確かに覚えのあるものだったけれど、まさかそれほど匂いもしないだろうと、頭の中で却下する。


「あれを嗅ぐと、頭が痛くなる」
「……それってもしかして、香水?」


顔をしかめた日吉に、匂い匂いと呟いていた鳳君が訊いた。

私もそれを考えたけれど、うちの学年でそれほど酷く匂う人はいないはずだ。
まさかと笑おうとした時、日吉があっさりとうなずいた。


「ああ、多分それだな」
「日吉、鼻いいもんなあ」


やはりあっさりとうなずき返す鳳君。
亮も普通に納得しているのを見て、さっきとは別の意味で頭が痛くなった。


どうしてこんなに超人離れしているんだろう、この連中。
合宿で見たテニスもいろいろありえなかったし、本当に普通じゃない。


「あのさ、日吉」


口を挟めば、3対の目が一斉にこちらを向く。
その中で一番目つきが悪いそれを正面から見て、思わずため息をもらした。


「あれくらいが普通だから、香水。すれ違う時にほんのり香るくらいだから」
「……ほんのり?」


嘘をつけと言わんばかりの日吉にむかって、無造作に手を振る。


「あんたの鼻がよすぎるの」


普通は眉を顰めたりしない。
日吉はまだ納得いかなさそうにしていたけれど、ふと何かに気づいたように視線をこちらに向けた。


「そういえば、からはあの匂いがしないな」
「ああ、つけてないからね」


つける必要性も感じられない。


「休みの日に出かける時は、たまにつけたりするけど。学校でつけるメリットがないでしょう」


空気の流れがほとんどない空間だと、匂いはダイレクトに自分自身にくる。
ずっと匂いをかいでいると気持ち悪くなるし、そもそも自分でかぐためにつけるものじゃないだろう。
空気の流れのあるところで使うのが一番だ。


「そういやこの間、何かいい匂いしたな」
「それそれ、ローズ系のつけてるの」


ローズが強すぎず、でもベリー系のように甘ったるくなく、果実系のように刺激的でもなく。
今のところ、一番気に入っている香りだ。


亮もちゃんと気づいていたのかと笑ったら、何故か鳳君が慌てたように割りこんできた。


「ちょ、ちょっと、この間って   2人で出かけたの?」


言いながらちらりと視線を向けたのは、微かに顔を顰めている日吉。


……男女不純交際とか、考えてないでしょうね。
妙なところで古い考え方をする日吉のことだ、ありえそうで恐ろしい。


「見たい映画、ペアチケットが手に入ってね。兄貴と行くのが嫌だったから、ちょうど観たがってた亮と行ったの」
「なんだ、そういうことか……」


あからさまにほっとした表情になる鳳君に苦笑して、ほんの少し悪戯心が芽生えた。


「今度、デートでもする?」
「やめとく」


笑いながら答えた鳳君の目がマジだったのは、とりあえず見なかったことにしてあげよう。
鳳君から意外そうな顔をしている日吉に視線を動かして、こちらにも軽い冗談を。


「私だって香水くらい持ってるって。お望みなら、今度つけてくるけど?」
「やめてくれ」


予想通りの表情と口調で即答されて、思わず大きな笑い声が出た。


今度こっそりつけてきてやろう。
どんな反応をしてくれるのか、心底楽しみだ。











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フェレローズは、実際にあるトワレの名前から。
こちらのページに商品詳細。
以前サンプルで試してみて、一目ぼれしたんです…。でも、高くて…!
今使っているのも3種類あるので、それを1個使い切ってから買おうと目論んでます(笑)

何となくヒロインのイメージに合うなあ、と思って、前からやってみたかったイマドキの子ネタ。
あんまりいませんけどねー、学校に香水つけてくる子。
クラスメートがベビードールのボトルを机の上に置いていて、キラキラしたボトルがすごく綺麗に見えました。うらやましかった!
日吉が眉を顰めるのは、多分そんな感じの子(笑)
匂いに敏感な男・日吉若。

銀狐 楓さんからのリクエストでした。ありがとうございました!
リクエスト品ということで、今回はフリーではありません。
お持ち帰りはご遠慮くださいー。