中庭に行くと、珍しく亮も鳳君もいなかった。
前後するようにやってきた日吉もそれを見て眉を顰め、おもむろに携帯を取り出す。


「……鳳は委員会の打ち合わせらしい。宍戸さんからは何か来てるか?」
「え?ええと……あ、向日先輩につかまったって」
「……昼休みはつぶれたな」


哀れむような口調だけで、今現在亮がどんな状態なのかがなんとなくわかった。

頑張れ亮、どうしても嫌なら向日先輩をしばき倒してここに来い。
気分は俺の屍を越えていけ、だ。


「しょうがないか、先に食べてよう」
「そうだな」


2人で食べる食事は久しぶりだ。
4人で食べるのも楽しいけれど、やっぱり日吉と2人というのは、いまだに緊張する。
何となく話題を見つけられずに黙ったままお弁当をつついていると、ふと日吉が口を開いた。



「ん?」
「久しぶりだな、こういうのも」
「……そうだね」


まずい、顔が熱い。
日吉に言われたら、改めて実感してしまった。


ふいと横を向いて返事をすると、視界の端で日吉が軽く眉根を寄せるのが見える。
機嫌を損ねたかもしれないけれど、この恥ずかしさに気づかれるよりも百倍ましだ。
そう思いながら瞬くと、不意に近くで声がした。




「……顔、赤いぞ」
   っ!」




がばりと顔を元に戻すと、本当に至近距離で日吉が口元をつりあげている。

その表情に余計に悔しくなって、無言で拳を突き出した。
それすらも難なく受け止めた日吉は、くつくつと喉で笑う。


「お前、本当にこういうの駄目だな」
「……うるさい……」
「いい加減慣れろよ」
「無理!」


苦笑した日吉に即答して、ほてる頬を必死に押さえた。


何度一緒に出かけていようが、いまだに手をつなぐのも恥ずかしい。
むしろ、2人きりの状況が恥ずかしい。


「ちょっと、日吉……」


やめてくれと視線で訴えても、日吉は不敵な笑みを崩さないままだ。
勘弁してくれと思いながらも実力行使に出られないのは、惚れた弱みだろうか。


……認めたくない。


、どうした?」
   別に?日吉こそ、そんなに近づいてどうしたの?」


一度強く目を瞑って気持ちをリセットさせると、ようやく真正面から日吉を見ることができた。
一瞬つまらなさそうな表情になった日吉は、小さく肩をすくめてすいと離れていく。
それにこっそりと息をつきながら、さりげなく距離を確保した。


「そういえば、今度の土曜日   
「ああ、試合なんでしょ?しょうがないよ、気にしないで」


久しぶりに部活がないからどこかに行こうかと話していたけれど、その後鳳君から練習試合が入ったと聞いた。

日吉が部活に打ち込むのは喜ばしいし(私が好きになったのは、部活に一生懸命な日吉でもあるから)、部活と私のどちらが云々などと言う陳腐なことも訊くつもりはない。
家でのんびりしているよと手を振ると、何とも微妙な顔をされてしまった。


「お前なあ……」
「え?」
   いや、何でもない」


何かを言いかけた日吉は、けれど眉をしかめてかぶりを振る。
言いたいことがあるならはっきりしてくれと言いかけて、ふと気づいた。


   これは、もしかして。


「応援くらい来いよって思った?」
   っ、誰が!!」


試しに訊いてみたら、おもしろいほどの反応が返ってきた。
図星かとにんまり笑うと、元からいいとは言えない日吉の目つきがさらに悪くなる。


これはおもしろい、照れているな。
先程のお返しだとばかりに近づいて、下から見上げるように覗きこむ。

隠し切れていない顔の赤さがはっきりとわかって、思わず小さく笑ってしまった。


   っ、!」
「はいはい、さっきのお返しですよ」


恨むならさっきの自分を恨め。
ひらりと手を振って、今度こそ日吉の無言の訴えに答えるために口を開く。


「行かないよ、日吉。私がさほどテニスに興味がないのは知ってるでしょ?そんな状態で見に行っても、試合をしてる人に失礼じゃない」


知らなくても応援はできるというかもしれない。
けれどそれは「人」にしか興味がないのであって、それが「テニス」であろうがなかろうが関係ないのだ。
それは、テニスを選んで必死に練習している人に、とても失礼なことではないだろうか。

私の考えをわかってくれているから、そう言えば日吉もそれ以上は食い下がってこなかった。


「……わかってる」
「代わりに亮をよこすからさ、帰りにどっかよってくればいいじゃない」


そして私は、亮から試合の様子をごく簡単に教えてもらう。
なんて効率的。


満足して微笑んで、仏頂面の日吉にもたれかかる。
背中合わせに感じる熱は、いつものように私よりも少し低めだ。


「また時間を作って、どこか行こうよ。近場でもいいから」
「……そうだな」


視線を交わして笑い合い合ったところで、向こうから亮と鳳君の声が聞こえてきた。
慌てて離れようとしても一瞬遅く、ばっちりと鳳君と目が合う。












   なんて展開を期待してたのになあ」


「なんだその妄想は」
「相変わらず乙女だねえ、鳳君。まず前提条件からして間違ってるけどね」


「え、付き合ってないの?」


「「違う」」


「あれ?」
「どこをどう見たら、一体そんな勘違いにたどり着くんだ」
「もう、亮も何とか言ってやってよ」
「……おう?」


(そういうところが付き合ってるみたいなんですよね、宍戸さん!)
(なんでこいつら、ここまで息がぴったりで付き合ってねえんだよ……)











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「日吉と二人きりの状況」というリクエストで。
結局はちょたの妄想というオチ(笑)


ちょたの脳内では、彼らはすでに早い段階で付き合っていたようです。
ビバ・純情!ビバ・天然!
時々ウザいけど、とってもいい日吉のお友達です。


お持ち帰りはリクエストをして下さった方のみとなります。
リクエストありがとうございました!