さて、問題です。
魔王と勇者、どっちが強いと思います?








三日月ベイベー








ええ、普通は勇者が強いって答えると思いますよ?
だって、漫画でもゲームでも最終的には勇者が勝つし。

てか、勝たないと終われないし。


でも、世の中そんなにうまくできてないと思うんだよね。うん。


別に勇者が世界に必ず一人いるとは限らないし、勇者が必ず世界を救ってくれるほど強くなれるとも限らない。


つまるところ、何が言いたいかと言うと   




私、魔王の方が絶対に強いと思います。




そもそも、そんなことを考え出したのは、目の前にいるこの男のせいだ。


「やあ、
「おはよう、不二」


一見何の変哲もないこの挨拶にも、100文字以上の攻防がこめられていたりする。


『やあ、今日も無駄に元気そうだね?』
『そういうあんたは無意味に黒いオーラを垂れ流してるね』
『人をそんな風な目でしか見れないなんて、も可哀相だね』
『不二に哀れまれるようじゃ、私もそろそろ終わりなのかもしれないな』



以下省略。


目を合わせて、にっこり微笑みあって。

表面上はとっても仲のいいクラスメートですよ?
何てったって、部活のレギュラーとマネージャーだし。

女子からのいじめがなかったって言えば嘘になるけど、そんなの50倍にして返してやったから、痛くもかゆくもない。


やっぱ人間、大切なのは情報と権力を兼ね備えたコネよね!(最低)


「ねえ不二、今度の練習試合のことだけど」
「どうかした?」
「私、パスね。氷帝とは会いたくないの」


部活のスケジュールがびっしり書き込まれた手帳(年頃の女の子の手帳として、これはちょっとどうかと思う)を開きながらそう言うと、不二の半径1mだけがブリザードに見舞われた。


寒い寒い寒い!


「……何かあったの?」
『何をわがままぶっこいてるの?』


ああ、裏の声までバッチリわかってしまう物悲しさよ……。


心配そうな表情をしやがって真っ黒なセリフを吐く不二に、こちらも憂いを帯びた表情で対抗する。


「ちょっと、色々あってね……。今跡部と会うのは避けたいんだよ」


そう、あのいけ好かないナルシー野郎。
今あいつに会うわけにはいかない……!


哀愁をたっぷり漂わせて言ってみたにもかかわらず、不二はあっさりと言い放った。


「そう……でも、僕達もマネージャーがいないと困るからね……。表に出なくてもいいから、裏方だけやってくれないかな?」


つまり、もっともらしい嘘をついてサボろうとするなと。




「……どうなっても責任はとれないよ」




代わりにあんたが責任とれやゴルァ。


裏の会話もおどろおどろしく、そんなやりとりを交わしたところで授業が始まった。
……本当にどうなっても知らないから!












そして当日、悪夢の瞬間。


「よう、
「ホスト校の選手はビジターの選手をもてなさんかい」
「あぁん?んなこと、他の奴らがやるだろ」
「どこまでも俺様め……!」


ギリギリギリと歯ぎしりの音が聞こえてきそうな勢いで呻くに、通りがかった不二が呆れたように声をかけた。


「……何してるの、

「不二か。邪魔すんなよ」


が、何故か答えたのは跡部だった。


「あんたのせいだからね、不二」


恨めしげにそういったは、それ以上の説明をする気はないようだ。


「で。そろそろ俺の家に挨拶に来いよ」
嫌だ。絶対嫌だ。死んでも行くもんか」


傲岸不遜な態度の跡部に全身全霊で拒否をし、がじりじりと後ずさった。
睨みつける視線を外そうとしないあたり、野良猫のような印象がひしひしと感じられる。


「……跡部。とどんな関係?」
「あんたには関係ないでしょ」


眉を顰めた不二の問いも、にぴしゃりとはねのけられた。




「……。黙っててくれるよね?」




不二、絶対零度の微笑み発動。
、戦闘不能。


「で。一体どんな関係なの?」


「婚約者だ」
「ふざけんな!」



堂々とした跡部の答えにコンマ5秒で突っ込み、はぜえはあと肩で息をする。


「幼なじみだろうが!幼なじみ!!」


力一杯否定しながら、は改めて己が不運に涙を流したくなった。
何だって、こんなやっかいな奴とご近所さんにならなければならなかったのか。

100歩譲ってご近所さんなのはまあいいとしても、どうして一般階級である我が家が財閥のぼっさまと交流を持たなければならなかったのか。

我が身の不運をとことん嘆きながら、それでも跡部の首を締め付けるのは忘れない。


、それ防がれてるから」
「わかってるわいコンチクショウ!」


「……何があったんだい」

ようやく(本当に)訝しげになった不二に、は海よりも深いため息をついた。


……できれば教えたくはなかったんだけど……。


「まあ、私はマネージャーな訳じゃないですか」
「何を当然のことを」
いいから黙って聞けよ。で、大変遺憾ながら、テニス部は女子に人気があるわけですよ」


そこまで言ったところで、不二もの言わんとするところを察したようだ。


「それって   
「で、マネージャーの私は、笑えるぐらいセオリー通りに嫌がらせとか受けてたわけです」


女のいじめは陰湿で執拗だね。やられてて何だけど、いらいらしちゃったよ。

軽く肩をすくめたは、そのまま目線で跡部を指す。


「で、仕方がないから幼なじみに頼んで、相手の弱みとか実家の状況とか、そういうことを流してもらったわけ」


いやあ、跡部財閥にかかれば、そんじょそこらの企業なんて子供みたいなもんだった……。


しみじみとうなずいたを、何とも言えない表情で不二が見る。


「言ってもらえば……」
「レギュラーと近い位置にいるからいじめられるのに、そこにレギュラーが入ってきたらさらにこじれるでしょ」


あっさりと言い返し、は頭痛を訴え始めたこめかみを揉みほぐした。


「だから跡部には会いたくなかったんだよ……」


生まれつきのぼっさまである跡部は、どうやら珍しい庶民の子供がお気に召したらしく、度々家に招こうとする。
今までは問答無用で断っていたのだが、今回ばかりは借りがあるからそうにもいかないのだ。




「……
「何さ」





やさぐれモードで返事をしたに、不二は真面目な表情で向かい合った。


「今度から、もしそういうことがあったら、僕に言うこと。いいね?」


その神妙な面もちに、いい奴じゃないかと不二を見直す
が、現実はそんなに甘くはなかった。




「ちょうど、新しい実験体を探してたんだよね。その子たちなら遠慮なくやれるし」




黒い黒い黒い。




「……跡部、今って夏だよね?」
「……そのはずだな」


「何でこんなに寒気がするのかな?」
「俺に訊くな……」




やっぱり最強、いやさ最凶、魔王不二。
見た目仏の真っ黒男は、氷帝の女帝をも黙らせる力を持っていたとさ(の日記より)