|
真っ赤に燃える情熱の色を纏って、私は遠くから眺めていたい。 グッナイベイベー 「あ、サエだ」 放課後屋上からグラウンドを眺めていたら、ド派手なユニフォームを着たテニス部が必死にボールを追っていた。 その中でもひときわ色素の薄いサエは、特別なことを何もしていなくても目立つ。 「このクソ暑いのに、よくもまああんなに動けるよね」 ご苦労なことで、とうそぶいていたら、不意にサエが上を見上げた。 瞬間、ぞくりと背筋に走る悪寒。 「……確実に見つかった……」 しまった、奴の地獄耳と千里眼を忘れてた。 (ここからでは見えないけれど)多分にっこりと笑ってるんだろうサエが、腕を上げる。 おいでおいで。 「……はいはい、今行きますよ」 どっこいしょとフェンスから離れて、重い足取りで校庭へと歩きだした。 「お望み通りに来たけど、何の用?」 「遅いよ」 不機嫌全開で睨みつけても、サエは悪びれもせずに文句を言う。 「悪いけど、ドリンクの用意をしておいてくれない?チビどもがオジイとどっかいっちゃってさ」 「小学生がマネ代わりってのもすごいと思うけどね」 「使えるものは何でも使っとかなきゃだろ」 爽やかな笑顔でそんなことをいえるサエは、いっそのこと尊敬に値すると思う。 そんな黒さを、女子には全く悟らせてないところもね!(やけくそ) 「剣太郎ー、ボトルどこ?」 「あっ、先輩!見に来てくれたんですかー!?」 「残念ながら単なる雑用だよ。で、どこ?」 尻尾が見えそうな剣太郎を軽くあしらいながら、さりげなーくサエから離れる。 はずだったのに、何で後ろからついてくるんだこいつは。 「サエ、練習しなよ」 「あれ?サエさん、次は亮と試合だよね?」 不思議そうに首を傾げた剣太郎に、サエがにっこりと(真っ黒な)笑顔を向けた。 どこだかわからないけど、とりあえず地雷を踏んだらしい。 「次は剣太郎と亮だろ?」 「そそそそそそうでした!」 ヒィ!と小さく悲鳴を上げて、剣太郎は一目散に走っていく。 「え、ちょっと、剣太郎!」 「って訳で、ボトルはこっちだよ」 「ちょっと待てコラ!」 問答無用でずるずるずる。 こっちはローファーなんだちょっとは土埃とか気にしろよコノヤロウ! もうもうとあがる土埃に、ぴかぴかだったローファーが薄汚れていく。 ああ、帰ったら磨かなきゃなあ……。 「、もうすこし薄く」 「私はこのくらいが好み」 「俺は薄いのが好きなの」 こ の わ が ま ま め! ギリギリするのを抑えながら、サエのだけものすごく薄くしてやった。こっそり。 ばれると怖いから、あくまでこっそり。 「はーいはいはい、ドリンクですよー」 昔懐かしいパ○ワ君の真似をしながら(シ○タローさん!)コートに戻ったら、なんだかすごいことになっていた。 「ぎゃー、あんたら一体何やってんのさー!?」 「あ、やべ」 「先輩、ヘルプ!」 ダビデがバネにプロレス技をかけられて、今にも死にそうになっている。 「馬鹿だよね」 「んなこと言ってる暇があったら止めろ馬鹿!」 にっこり笑ってエグいことを言うサエに力の限りに突っ込み、とりあえずバネをひっぱたく。 「遊んでる暇があったら練習しろ!」 「こいつのギャグが寒すぎるんだよ!」 「……ちなみに、何を?」 「『オジィがいないと、怖じ気づく』」 「…………殺ってよし。」 「ちょっ、待……ギャー!!」 ごきめすばきどか。 変な音がしたけど、んなこと知るか。 「もはやダジャレですらないんだよ!」 「さ……最高の出来だと思ったのに……」 ぱたり。 さらばダビデ、お前のことは忘れない。 ……ちょっと待て。 くだらない漫才をやった後に気づくのも何だけど、これってサエの策略にずんどこはまってる気がする。 「マネはやらないからね」 「残念、せっかくなじんでくれてるのに」 爽やかににっこりと。 その笑顔が怪しいんだって! 普通の女の子だったら、今の笑顔でキャアキャア喜ぶんだろうなあ……(遠い目) 何も知らなかった2年前に戻りたいと一瞬思ったけど、あの性格を知らずにだまされ続けるのも何だか癪だからやめておいた。 「、今何か考えた?」 「何も考えてないよ、ほっとけ!」 千里眼と地獄耳の他に、読心術まで会得したわけ……!?(ギャア!) おっそろしい事態にガクブルしながらサエに怒鳴り、さっさとそこから離れる。 「樹っちゃーん」 「、どうしたのね?」 ああ、やっぱり樹っちゃんの側は癒される……。 「いやね、サエの近くにいるのはちょっといやかなりつらいなあと」 「俺の側が何だって?」 「ウギャア!あんたいつの間にここまで来てんだよ!第一足音全然しなかったよ!?」 人間として間違ってるだろ!! にょっきりと生えてきたサエに、思わず力一杯後ずさる。 「ちょっとコツをつかめば、こんなの簡単だって」 「んなコツつかみたくない」 すぱんと切り捨てたところでダビバネがまた漫才をしてることに気づき、ムカついたから一発拳で殴ってやろうと一歩踏み出した。 そんな私の肩をつかんで止めて、代わりにサエが一歩出る。 「が困ってるし、やめような?」 『はいいぃっ!!』 ダビバネ、脊髄反射で最敬礼。 わかっちゃいるけど、何だか哀れだ。 「も」 「はっ!?」 その笑顔のままでこっち向かないでよ……! 「あんなのに構わなくていいから、ね?」 「わかったわかったわかったからその笑顔やめて!」 (あまりの恐怖で)心臓に悪い……! 必死にこくこくうなずくと、サエは満足気に笑って腕を伸ばす。 ぐい。 どん、と鈍い衝撃があって、耳元に低い声。 「俺のことだけ考えてればいいんだよ」 ………うかつ。 黒魔王の言葉にときめくなんて! 赤くなった顔を、さてどうやって隠そう。 「あ、隠そうとしても無駄だからね」 ……やっぱり黒かった……。 |