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うちには黒い猫がいる。 や、いることは内緒だけど。 むしろ私がその家にいることが極秘事項みたいになってるけど。 生意気で気まぐれでこっちを敬う気配もなくて、おまけにもう1匹みたいに可愛くすり寄ってきたりしない。 ……気まぐれなところは似てるけどさ。 宅急便はまだ来ない そんな猫は今、私のベッドの上でごろごろしてます。 「……着替えたいんだけど」 「着替えればいいじゃん」 「出てけってんだよ!」 当然のように返してきた生意気な猫を蹴りだして、鼻息も荒く着替えを開始する。 全く、誰に似てあんな性格になったんだか……伯父さんか、間違いなく。 「ちょっと、!」 「年上にはさんづけぐらいしてみろ、馬鹿リョーマ!」 そう、黒猫の名前はリョーマと言います。 御年12歳、可愛らしい盛り(のはず)の中学1年生です。 リョーマ一家と入れ違いになるようにしてアメリカに行ってしまった両親に、何の因果かこの家に放り込まれました。 や、一応姪っ子だから問題はないんだけどさ。 問題というか予想外だったのは、リョーマがうちの学校で超がつくほどの人気者になっちゃったことだ。 おかげで私の身にも危険が迫りそうだよ……!(冗談じゃない!) リョーマと同居してるのはもちろん、従姉弟だっていうのも極秘。 手塚と同じクラスだから、女の嫉妬がいかに怖いかは経験済み。あんなのにさらされてたまるか! 「ってば!」 リョーマがドンドンとドアを叩いてるけど、着替えが終わるまでは放置プレイ。 お互い中学生なんだから、それくらい当然だと思う私は変だろうか。 いや、変ではないはずだ(反語) 着替えを終えてドアを開けてやると、ふてくされた顔のリョーマが座り込んでいた。 「あんたさあ、私の部屋ばっかり入り浸ってないで、自分の部屋に行きなさいよ。宿題とかあるでしょ?」 「あるのは英語ぐらい。あんなのすぐに終わるし」 これだから帰国子女は! 「……あっそ」 部活がある日はすぐ寝るくせに、ない日はこうしてだらだら私の部屋に入り浸り。 それでもって私をゲームに巻き込むんだから、全く始末に負えない。 「それよりさ、昼休みに部長と何話してたの?」 「ん?」 昼に手塚と話なんて……したな、そういえば。 「よく知ってるね。今度の生徒会で使う資料の承認、もらってたんだよ。一応手塚に目を通してもらってから先生に提出した方がいいし、打ち込むのは私だからね」 ノリで書記長なんて引き受けて、今すっごい後悔してます。 タイムマシンがあったら、絶対にあの時の私を必死に止めてる。 仕事ありすぎなんだよコンチクショウ……! 「ふぅん……」 つまらなさそうに呟くと、リョーマは勝手に私のベッドに上がり込んで勝手に私のお気に入りのクッションを抱きしめた。 ……あの、言ってもいいですか? くやしいけど、すっごく可愛いんだよあんた! 「あんた、そういう格好するのは家の中だけにしときなよ」 しみじみとそう忠告すると、リョーマにこの上ないほど訝しげな顔をされた。 せっかくの人の好意に、失礼な奴だ。 「こそ、そういう格好は家の中だけにしてよね」 おまけのようにそう言われ、はてと自分の格好を見下ろす。 キャミにジーンズのスカート、特に変なところはないはずだ。 どっかほつれてるのかな? 「変なとこ、ある?」 後ろの方に何かあるのかと思って訊いてみたら、何でかため息をつかれた。 眉間にしわのオプション付き。 そんなにしわ寄せたら、手塚みたいになっちゃうぞー。 思うんだけど、手塚のあのしわはもう癖になっちゃってるよ、きっと。 寝てる時も眉間にはしわがあるよ。 「……、今なんか余計なこと考えてるでしょ。まあいいけどさ」 呆れ顔でリョーマに突っ込まれて、ようやく「手塚のしわはもう消えない説」から脱出する。 危ない危ない、もう少しで髪の毛が薄くなった手塚に怒鳴られるところだった。 「、後ろ向いて」 あ、やっぱり何かあったんだ。 素直に後ろを向くと、何やらリョーマがごそごそやってる。 「ねえ、まだ?」 「もうちょっと」 ちょっと髪の毛を持ち上げられた。 そのままじっとしてと言われ、リョーマがはさみに手を伸ばすのが見える。 「手で押さえるよ」 リョーマの声が低いところから聞こえる。 いつもなら、座ってる時にはそんなに身長差ないんだけど……。 暖かい感覚が背中に触れ、いきなりちくりと何かで刺された。 「痛い!」 何しやがるんだこのやろう……! 「ごめん」 少し慌てた様子で、リョーマが離れる気配がする。 勢いよく振り返ると、しょんぼり としたリョーマが私を見上げていた。 「ほんとごめん。手元が狂っちゃった」 「……っ!」 だから、可愛すぎなんだってば!(上目遣いは反則でしょ!?) 「痛かった?」 心配そうな声で訊くから、思わず頭をなでてしまった。 「痛かったけど、許す。悪気があったわけじゃないでしょ?」 「……ありがと」 リョーマがうつむいてぽつりと呟いた。 口元が笑ってるように感じたけど、多分あれは照れてるんだろう、うん。 「今度からは気を つけてね」 「うん。もね?」 笑いながら注意すると、珍しくリョーマもにっこり笑ってうなずく。 「ねえ、。数学教えてよ。ちょっとわかんないとこがあるんだ」 いつもならゲームやろうって言い出すのに、今日に限っては勉強の話を持ち出してきた。 何か変だと思ったけど、小テストがあるんだってすねた顔で言われたら、何だかおかしくなってどうでもよくなってしまう。 なんだ、可愛いところもあるじゃん。 そう思ってたのに! 「あれ?、ここ虫に刺された?」 3日後、と出かけた時のこと。 不意に背中を見てそう言われて手を伸ばしてみたけど、もちろんどこかなんてわかるはずもない。 「え?どこ?」 「ここ。かゆくないの?」 指でつつかれたところは、ちょうどリョーマに刺されたあたりだった。 「ああ、そこ、従兄弟にはさみでつつかれたとこだよ。多分」 「はさみ?にしては、やけに範囲が広いけど……もしかして」 ちょっと、そこで言葉を切らないでよ!気になるじゃん! 「さん、さん、一体何なのさ」 「んー……もしかしてさ、その従兄弟さんって、あんたの背後に回らなかった?」 「は?そりゃ、後ろにいたけど……」 それが一体何なのか。 訳がわからなくて首を傾げたら、が深いため息をついて手招きをした。こっち来い来い。 「あのさ、私も実物見たことあるわけじゃないからよくわからないけど、これってもしかして……」 遠慮がちに言われた言葉を聞いて、頭の中が真っ白になった。 あんのくそガキ が ! 「リョーマ!」 家に帰るなりばたばたとリョーマの部屋に駆け込むと、テニス雑誌を読んでたリョーマがびっくりしたように顔を上げた。 「リョーマ、あんた!」 「どうしたんだよ、」 がっしり肩をつかんで、逃げられないようにする。 「この間、せ、背中に、キ、キキキ」 「ああ、キスマーク?やっと気づいたんだ」 リョーマは一瞬しまったって顔をしたけど、すぐにいつも通りの表情に戻った。 何にも悪いことしてませんって顔したって可愛くない! 「ちょ、あんた、なんでこんな……!」 「あんな格好でいるが悪いんだよ。これがあれば、キャミは着れないでしょ?」 にやりと笑って言うリョーマは、なんだかいつもと違って悪魔の羽が見えそうな勢いだ。 ……つまり、あれですか?キャミ着て肌を露出してた私が悪いと? なんだそりゃ!(理不尽!) 「もっとつけてほしいの?」 「馬鹿者!」 無駄に色気を漂わせて近寄ってきたから(ちょっとどきどきしたのは内緒だ。口が裂けても言えない)、容赦なくチョップをいれておいた。 いってぇとか何とか言ってるけど、とりあえず無視! キャミ着るのは(リョーマの前では)やめようと、堅く心に誓う。 これ以上セクハラされてたまるか! |