うちの黒猫は、全くもって油断ならない。
むしろ、油断したら負けだ。
馴れたと思って油断してると、酷い目にあったりするんだよ……!








宅急便なんてこなければいいのに!









キャミソール事件から早3ヶ月、もう世間は秋真っ盛りだ。
結局あの時のキ……(自主規制!)は、2週間近く消えなかった。
曰く、私はそういうのが治りにくいタチなんじゃないかって。

確かに青タンも治りにくいけど、けど……!
こんなのまで治りにくくなくていい……!!




「ねぇ、
「年上にはそれなりの敬意を払わんかいこの帰国子女」


そう言った瞬間にだらりと背中にしなだれかかってきたリョーマに、思わずヒィ!と叫んでしまう。


「退け変態!」
「やだ。それより、変態はないでしょ」


振り落とそうとしても、さすがはテニス部レギュラー。
いくら年下でも筋力ではかなわない。


「菜々子さああぁぁああん!!」


助けて変態に襲われるー!(うわーん!)


大声で叫んだら、すわ何事かと菜々子さんが来てくれたけど、私たちの状態を見て微笑ましいものを見るような目をして去っていった……!


「あああぁぁぁああ……!」
「邪魔もいないし、別にいいじゃん」


滂沱の涙を流しながらドアを見つめる私に、リョーマが肩をすくめる。



「いいわけあるか!」



鳩尾に肘鉄を一発。
いくら鍛えてても、不意打ちにこれはきついでしょ!
よろけたリョーマから逃げ出して、そのまま菜々子さんの部屋に駆け込む。


「菜々子さん、私の貞操を守って……!」


こっちはかなり必死なのに、菜々子さんときたら微笑ましげだ。
さすが大学生は違う……って、そんなことを考えてる場合じゃなかった。



「菜々子さん、あの外国かぶれのガキンチョどうにかならないの?本気で貞操の危機を感じるんだけど」


必死にそう訴えると、菜々子さんはおっとりと首を傾げた。


「リョーマさんも、もう少し愛情表現を考えた方がいいのにねぇ……」


軽くため息をつく菜々子さんはすごく美人だけど、今はそんなことに構ってる暇はない。


「菜々子さん、リョーマがきたら足止めしておいて!」


言い捨てて縁側から飛び出し、突っかけで走る走る(自転車は鍵がないので使えない)
目指すはの家!
背後で「!」「あら、リョーマさん。今日のお夕飯なんだけど」なんて言葉が聞こえたけど、もちろん無視して、無事にの家に着けたときには脱力してしまった。


「どしたのさ、そんなにぐったりして」
「いや、従兄弟にセクハラされてね……」


セクハラなんて言葉で片付けていいのか非常に悩むところだけど、とりあえずそう言っておく。


「ああ、夏のキスマークの子?」
「ちょ、ちょちょちょちょちょちょっと!」



そんなこと、明日の天気でも話すみたいにぺろっと言わないで……!




「何よ、今更どう言っても変わりないでしょ。カマトトぶらないでよ」

「ヒィ!」


なんてことを!

ていうか、私達、まだ中3なんだけど、……。


何だか一気に疲れが増した体を(勝手に)のベッドに沈めていたら、窓の外からものすごい大声が飛び込んできた。





!!」





「…………は?」





今、ありえない声が聞こえた気がしたんだけど。


「気のせいだよね、そうだよね」
「ちょっと、誰かあんたを呼んでるけど」
「気のせいなんだよ、。私には何も聞こえないよ」
「何馬鹿言ってんの」


こっちは必死に現実逃避してるってのに、はため息をついてカーテンを開けてしまった。
下を見下ろして、そして。




「え!?ちょっと、越前リョーマ!?」




……グッバイ、私の平穏な生活……。












リョーマを発見したは、すぐさま駆け降りて奴を家に招き入れた。


「越前君、麦茶でよかった?」
「っス」


ぺこりと頭を下げるリョーマ。微笑む
私はというと、ベッドの上で警戒態勢をしきながら、そんな2人を睨みつけていたりした。


、何でそんな奴を入れるのさ!」
「何でって、あのまま無視するわけにもいかないでしょ。それに、あんた何で従兄弟が越前君だって言ってくれなかったの?」


一応本人の前だからなんだろう、きちんと君付けして呼ぶは、何だかとっても不気味だった(言ったら後が怖いから内緒にしとくけど)


「言いたくなかったんだよ……テニス部レギュラーがどれだけ恐ろしいか、手塚で嫌と言うほど身にしみてるからね」


へぷしー、と口から変な音と共に空気が出ていく。
ああ、このまま眠れたら幸せなのに……。


「てかさ、リョーマ。あんた何でここがわかったの?」


リョーマとは全然接点がないはずなのに、一体どうやってこの家を探し出したんだろう。
その疑問は、リョーマの答えで瞬時に吹っ飛んだ。



「乾先輩に訊いた」



い ぬ い !



これはもう、殴ってもいいってことだよね!?それすらもデータの範囲内なんだよね!!
よーし歯ぁ食いしばれー?


脳内の乾をぼっこぼこにしようと拳を固めたとき、耳元に生暖かい感触。





「ねぇ、何考えてんのさ」
「…………」




すぐ耳元で、リョーマの声。
くすぐったい振動。


   ぎゃああぁぁぁぁっ!!ー!」
「うーわー、さっすが帰国子女……」


呆れたように呟くの声が遠い(裏切り者!)


、うるさい」
「お前のせいだ馬鹿!」


耳なめられた!耳!!


固めてあった拳で反射的に殴ってリョーマを引き離し、今度こそ安全圏に逃げる。


「どうしてあんたはそう変態なの!!」
「好きだって態度に表して何が悪いんだよ!」
「やっていいことと悪いことがあるでしょ!」



拗ねた顔は可愛いけど、言動はちっとも可愛くない……!



ー、歯ぎしりうるさいよー」
「私の貴重な歯がすり減っちゃうよ……!」


そんな風にさせた元凶はといえば、実に不満げに口をとがらせていた。


「大体、どうしてそこまで私にこだわるのさ。あんたなら他にももっと可愛い子がいるじゃない」
「ヤだ。がいい」


さっきの二の舞にならないようにと、しっかりとの背後をキープしながら説得しても、リョーマはちっとも言うことを聞いてくれない。


そ れ ど こ ろ か 。





「それに、俺と結婚してくれるって言ったじゃん」





な ん で す と ?





「へーおめでとー結婚式には呼んでねー」
「いいいい言ってない!言ってないってそんなこと!」
「嘘つき。嬉しいって言ったくせに」


むっとした顔でさらなる爆弾発言をするリョーマ。
そんなこと、いつ言ったのよ、私。


「俺が4歳の時」
「あんたその頃アメリカでしょ」

「正月に日本に来た時だし」
「っていうか、そんな昔の約束なんて忘れてるに決まってるじゃん!」

「でも、ちゃんと約束した!親父だって母さんだって覚えてるんだからな!」




……マジですか。




どうやら私、知らない間に(記憶にないだけだけど)従兄弟とケッコンの約束なんかをしちゃってたみたいです(ガクリ)