食事の後、何となく恒例になったまったりとした時間。
どうしてここに日吉がいるのかが極めて疑問だけれど、それはまあおいておくことにしよう。
どうせ、鳳君にでも引っ張ってこられてるんだろうし。


「そういえば、宍戸さんはさんの作ったお菓子、食べたことあるんですよね」
「ん?まあな」
「いつからなんですか?こういう風に、さんが作るようになったの」


好奇心でいっぱいの鳳君が首を傾げる。
そういえばいつからだろう、作るようになったの。


「あー……」


亮も同じだったみたいで、がりがりと頭をかきながら記憶をたどっている。


「……そんなに昔なのか?」
「ちょっと待って、もう少しで思い出せそう」


眉を顰めた日吉をぴしっと手を立てて制し、いつのことだと記憶をたぐりよせる。
ええと、あれは確か、兄貴が中学には上がってなかったから   


「小3……くらい?」
「や、小2じゃねえか?」


俺もテニス始めてたし。

亮の言葉に記憶をひねり出して、そう言えばそうだったとうなずく。
初めてお菓子を作ったのは、亮がテニスを始めたのがきっかけだった。












「亮君、毎日遅くまで頑張るわねえ」


テニスラケットを肩にかけて帰ってくる亮を見かけて、お母さんが感心したように声をあげた。
もうあたりはとっぷりと暮れていて、小さい子供が1人で出歩くような時間ではないことは確かだ。


「テニスってそんなにおもしろいのかな?」


ボールを追いかけるだけの行動がどうしてそんなに夢中になれるのか、よくわからなくて首を傾げると、お母さんに笑われた。


「和隆だって、飽きもしないでどったんばったんやってるでしょ?それと同じよ、きっと」
「きっと?」
「多分ね」


ずいぶんと適当な答えもあったものだ。
我が母ながら呆れつつ、でもまあそんなものなのかと妙に納得する。

テニスを始めてから亮のつり目が生き生きしてることぐらい、誰に言われなくても私が一番よく知っていた。
固くなりつつある手のひらも、しっかりとついてきた筋肉も、全部亮が頑張っている証だ。
たとえそれで、私と遊ぶ時間が少なくなったのだとしても。




「つまんないの……」


「じゃあ、も何か習い事してみる?」




女の子らしくお花とか茶道とかはどうかなんて訊いてくるお母さんにかぶりを振って、家に入っていく亮を見つめる。

どうせお母さん、自分が習ってたからってやらせてみたいだけだし。
それならお兄ちゃんと騒いでた方が、何倍も楽しい。


「ピアノだけでいい。それに私、お勉強もしなくちゃいけないし」


今だって通信教育をやってるんだ、これ以上遊ぶ時間は減らしたくない!


お兄ちゃんは立海とかいうところに行きたいらしい。

神奈川だから遠いけど、それでもいいんだと言っているようだ。
そんな訳だから、多分私も受験するんだろうなあ、なんてぼんやり思っていたりする。


お兄ちゃんと同じ立海かな、やっぱり。
何がいいのかよくわからないけど。

立海に行ったら、多分亮とは離れちゃうんだろうなあ。
私立に行ったらテニスやる時間がなくなりそうだし、公立に行くものだと思っていた。




「立海?」
「その頃はそう思ってたの」
「つうか、立海って超強豪だぞ」
「あれ?そうなんだ」





じっと窓の外を見ていた私をどう思ったのか、お母さんが小さく笑った。


、亮君と一緒にテニスやってもいいのよ?」
「やめとく。あんまり興味ないし」


悪いけど、そんなにいつも亮にべったりするほど子供じゃないつもり。
興味がないことはやりたくないし、だから多分亮のテニスを見に行っても面白くないんだろうと思う。
見に行くつもりはさらさらないけど。


「最近、よく疲れてるんだよね」
「亮君が?」
「うん」


それを何とかしたいとは思うわけで。


「じゃあ、甘い物でも作ってあげたら?クッキーなら簡単だし」
「うん、そうする」


という感じで、クッキーを作ることになりました。




「小麦粉とバターとお砂糖と卵黄。それだけあれば、とりあえず何とかなるから」
「うん」




ふるってふるって混ぜてこねて。


「ほら、こねすぎないの!膨らまなくておいしくないでしょ」


結構スパルタなお母さんの指導でようやく焼きあげたクッキーは、お店で売ってるのよりもやけに丸く盛り上がってつやつやとてかっていた。


「お店で売ってるのは、棒状になってるのを切ったやつだからね。初めてにしてはよくできたじゃない」


小さい子供でも簡単にできる、型抜きのクッキー。
所々抜く時に失敗した形跡はあるけど……味はどうだろう。

と、いうわけで。


「お兄ちゃーん」




割と何でも食べてくれるお兄ちゃんに毒味をさせてみた。




「うまい……けど、何かぼそぼそする」
「あちゃあ、こねすぎたのかな?」
「多分そうね。もう1回作ってみる?」
「うん」


数日に分けて何度か作り直しをして、よくやくお兄ちゃんのOKがもらえるものができた。
何でも食べるくせに、妙なところグルメなんだから……。


「これなら店で出すのよりうまいじゃん!」
「亮にあげても平気?」
「平気平気。自信持って渡してこいよ」


何故か満面の笑顔でそう言ったお兄ちゃんにお墨付きをもらったので、タッパーにクッキーを詰めて亮の家に行こうとする。
したところで、やけに驚いたお兄ちゃんにとめられた。


「え、お前タッパーで渡すの?」
「そうだけど?」


何か問題があるのかと首を傾げながら家を出て、おばさんにクッキーを託す。


「作ってみたんで、よければみんなで食べてくださいー」
「あら、ありがとう!」


大喜びで受け取ってもらえたのが嬉しくて、お兄ちゃんも催促することだしと、それからちょくちょくお菓子を作るようになったわけだ。












「まあ、冷静に考えてみたら、女の子らしいことをさせてみたいっていうお母さんの策略にまんまとはまっただけだったんだけど」


そして兄貴は、私が亮に告白すると思い込んでたらしいんだけど。
肩をすくめたら、亮が盛大に吹き出した。


汚い!!


日吉も同じように思ったらしく、はっきりと眉を顰めていた。


「お前が俺に?ありえねえだろ、それ」
「兄貴は結構真剣だったみたいだけどね。亮みたいな弟がいたらおもしろかったのにとか、散々文句言われたもん」


子供心に理不尽だった、あれは。

ため息をついたら、日吉がためらいがちに肩を叩いてくれた。
いや、この場合はあんまり嬉しくないかも……。











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すず様からのリクエスト、「ガブリエル番外編、過去の話」でした。
漢前なくせにお菓子作りが得意なヒロインの裏話。


小さい頃はヒロインもそれなりに純粋だったんですよ、多分(多分かよ)
幼なじみが頑張ってるんだから、自分もそれを応援したい!みたいな。それをうまく母親に利用されちゃったわけですが(笑)

この後クッキーを食べた宍戸家の皆さんは、子供が作ったとは思えない出来にびっくりしたそうです。
ヒロインのお母さんがスパルタしたんだろうなあ、と予想できるぐらいには親しい家族。
宍戸のお母さんに、「よく頑張ったわね」と、タッパーと一緒にお菓子をもらっちゃいます。
何となくどうして褒められたのかが理解できて、ヒロインちょっぴり哀愁。

すず様のみお持ち帰り可となっております。
リクエストありがとうございました!