小首を傾げるその仕草に、一瞬にして囚われた。








ちるちる、みちる。








滝君は、なんて言えばいいのか……とにかく、神秘的な人だ。
一時期はちょっと(いやかなり)荒れてたこともあったけど、今では前みたいに落ち着いてる。


あの滝君がどうして荒れてるのかどうしても不思議で、こっそり友達に訊いてみたことがあったけど、すごく驚かれて可哀相な子を見るような目をされて、ついでしみじみと「あんたはいつまでもそのままでいてよ……」なんて言われてしまった(失礼な!)
滝君自身に訊くのもためらわれたから、結局真相は闇の中だ。


でも、花を愛でる時の指先はとても優しいから、優しい人なんだと思う。




で。




何で今こんなことを思っているかというと。


滝君がひっそりこっそり大事にしてる花壇に、蹴つまづいてガッツリ足を踏み入れてしまいました よ …… !(ヒィ!)


ああもうほんとどうしよう絶対怒られるってむしろ思いっきりひねった足首がすっごく痛いし……!


しかも滝君が世話をしてることは知らない振りしてるから、どう頑張っても現状を伝えにいけやしない。
せめて謝りたいのになあ……。


そんなことを思いつつ、とりあえず這いつくばってずーりずーりと前進。
今日はまだ来てないみたいだし、運が良ければ滝君に会えるさ!


痛む足首に半泣きになりながら必死こいて進んでると、奇跡的に滝君と遭遇しました!


のは、いいんだけど……。




……あの、そんな、珍獣を見るような目つきをしないでください。
地味に落ち込みます……。




「……どうしたの?」
「こ、こんにち……は?」




怪訝な顔で尋ねられ、何故か疑問系で挨拶をしてしまった。
これじゃ完璧変な人じゃんか!(オマイガッ!)

冷や汗をだらだら流していたら、不意に滝君が眉をひそめた。


「足、怪我してるね」
「あ」


その一言で、花壇の現状を思い出す。
あんなに綺麗に手入れされてた花は、見る影もなくなってしまった。

言われて再発した足首の痛みと相成って、じわりと涙が溢れてくる。


「滝君……」


いきなり泣き出した私を見て、滝君が小さく驚いた。
美人はどんな表情でも様になるなあ。

頭の中では冷静にそんなことを思っているのに、一度出てしまった涙はいくら頑張っても引っ込んでくれない。


「ごっ……ごめんなさ……っ!」


あの花壇を見たら、滝君はなんて思うだろうか。
丹誠込めてた花がぐちゃぐちゃになってしまっているのだ。


「ちょっと、さん?一体どうしたの」


滝君が私にあわせてしゃがみこんでくれた。
覗き込むように見られても、涙でぐちゃぐちゃになった視界では、彼の顔がよく見えない。


「花、ぐちゃぐちゃに……っ!」

「花?」


訝しげな声がして、数瞬後に小さくため息をつかれた。


「そんなことより、保健室。足首、すごいことになってるよ」


ほら、と差し伸ばされた手に、それでもふるふるとかぶりを振る。


まずは花が優先だ。
だって、滝君があんなに大事にしてたものだし。


「早く行かないと、もっとひどくなるよ」
「花の方が先!」


譲るもんかと睨みつけると、滝君は困ったように首を傾げた。


「大丈夫だって、花は案外たくましいし」
「あの惨状を見ても、そんなことが言えるかどうか……」


がくりとうなだれていたら、いきなり身体が浮き上がった。
人体の神秘!?とか一瞬馬鹿なことを思って、次いで単に滝君に荷物担ぎをされたんだと気づく。

や、姫抱きされるよりはいいかもしれないけどさ、こっちは一応女な訳だし、しかも今はスカートはいてる訳だし、俵担ぎっていうのはちょっと複雑な気分……。


「まずは花壇に行くよ。それからまっすぐ保健室。文句は?」
「ございませんです、はい」


ちょっぴり黒いオーラがにじみ出ている滝君にかくかくとうなずき、おとなしく連行される。


ほどなくたどり着いた花壇の前で、滝君はいっそ感心したような声をもらした。


「よくもまあ、ここまで器用に突っ込んだものだね」
「お恥ずかしい限りで……」


見事にぐちゃぐちゃになった花壇には、見ようによれば私の間抜けな人型がうっすらと残っていなくもない。


「本当にごめんなさい、すごく大事にしてたのに」
「いや、手直しすれば多少は元に戻るからいいんだけど……どうして俺がここの世話をしてるって知ってるわけ?」


しおしおと謝ると、小首を傾げて訊かれた。




そういえば知らない振りしてたよ……!(すっかり忘れてた……!)




「えー、あー……ごめんなさい、実は前から知ってたりしました」


半年ぐらい前にたまたま見かけてから、何度かこっそり見るようになってた。
滝君が休みの時は、見よう見まねで世話をしてました。


観念して白状すると、滝君は目元を和ませた。


「それで、俺がいない時にも花殻が摘まれてたのか。ありがとう」
「や、そんな大したことはしてないよ!滝君みたいに園芸部に入ってるわけじゃないし……」


慌てて手を振ると、滝君がえ、と声を上げた。


「俺、園芸部なんか入ってないけど」
「……え?」


園芸部じゃないなら何部だ?
内活委員(校内活動委員)じゃないのは知ってるけど……。


「そもそも、園芸部なんてないし」
「あれ?そうだっけ」

「……」
「…………」

「……本当に知らないの?」


「…………すいません」


土下座する勢いで謝りました。
知らないものは知らないんだけど、どうやらその口調だと(っていうか、あの友達の反応からして)知ってるのが当然なんだよね…。


怒られるか呆れられるかを覚悟してたんだけど、何故かくすくす笑われた(どうして……!)


「え、あの、何部なの?」
「内緒」


い、意地悪……!


楽しそうにいった滝君は、再びひょいと私を担ぎ上げた。
もうどうにでもしてください……。


そのまま保健室に連行されたはいいけれど、少女漫画のお決まりのように、養護の先生がいなかった。




「いいよ、自分でできる!」
「俺の方が手当てもテーピングもうまくできるよ」




必死の抵抗もむなしく、乙女の柔肌を滝君に触られてしまいましたよ……!
確かにうまかったけど、テーピングなんてプロ並みに(プロの腕がどれぐらいかなんて知らないけど)うまかったけど!


「なんか複雑……」
「まあまあ」


がっくりとうなだれた肩をぽむと叩かれる。


「あのさ、さん」
「はい?」


顔を上げれば、にっこりと微笑む滝君の顔が間近にあった。
心臓に悪いからやめてください、美人さんのアップは目に毒なんです。


「今度、一緒に花壇の世話しようか」


その足が治ったらの話だけど。


それまでに花壇を元通りにしておくよと言われて、一瞬何のことだかわからなかった。
思考が追いつくと同時に、顔が熱くなる。


「そんな、滅相もない!」


慌ててかぶりを振っても、滝君はのほほんと笑うばかりだ。


「俺が、さんと一緒にやりたいんだよ。それに、ちゃんとした方法を知ってる方が、俺が遠征の時にも安心だしね」
「遠征?」


ってことは、滝君は運動部なんだろうか。
首を傾げると、滝君はしまったという顔になった。


「……まあ、これからよろしくね」


有無を言わせないオーラをバックに背負ってそう言われたら、断ることなんてできないじゃないか。




「……よろしくお願いします……」




まあ、滝君と仲良くなれたから、いい、かな?

すっごく複雑だけど……。