「あー……いい天気。お花見日和だ」


頑張って買ったロッキングチェアにのんびりと揺られながら、ぼーっと呟く。
庭に咲いてる桜もいい感じで咲いてるし、この分だと今週末の公園はずいぶんと混むだろう。


私の気持ちとはお構いなしに季節は巡るし、桜が咲くんだってこともわかってる。
でもやっぱり、ちょっとは切ないわけで。


センチメンタルな気分に浸っていたら。







ぼとり。







まさにそんな音と共に、目の前に黒いものが落ちてきた。



「……」
「……」
「……………」
「……なんだよ」



し ゃ べ っ た 。



え、あの、思わず見つめあっちゃったけど、もしかしてこれって生きてるの!?


「……おい、こっちがはなしかけてるんだから、なんかいえよ。れいぎしらずだな」


黒いものが眉をしかめた。
どうでもいいけど、かなり口が達者だな。


「ええと……どこの誰だかわからないけど、物の怪になんてなってないで早く成仏しなよ」


某ライトノベルに出てくる物の怪(こっちは真っ白)の登場の仕方とあんまりそっくりだったからそう言うと、黒いのは機嫌を損ねたようだった。

「だれがもののけだ、ばか!」

耳がぴんと立って、目もつり上がって、ついでに尻尾も毛が逆立っている。



……いや、だって、ねえ?



元から霊感はないって信じてるけど、猫耳猫尻尾付きの、猫サイズの人間なんて、人外のものに決まってるじゃない。


「あれ、物の怪じゃないの?それならとうとう、鬱すぎて妄想が具現化したかな?」
「だれがもうそうだ!!」


我慢の限界がきたらしい猫(仮)が、縁側に飛び乗ってきた。
ついでに私の膝にまで飛び乗って、人間にしては鋭い爪でがりりと手の甲をひっかく。



「痛っ!」



思わずあげた悲鳴に、猫が満足そうに鼻を鳴らす。
可愛くないの!



   ん?



ちょっと待て、私。
今、痛くなかったか?

ていうか、血が出てないか?手の甲。



「……もしかして、本物?」
「だから、ここにいるだろ、ばか」


またしても不機嫌そうな表情になった猫(仮)は、確かに重さを持って膝の上にいて。



「……うっそだあ!」



思わずそう叫んでしまうぐらいは許してもらえるでしょう?神様!


認めない認めないこんな生物が存在するなんて絶対認めない!



「おい」




ぺし。




「ぶっ」



現実逃避をしていたら、小さい手のひらで顔の中央を見事にヒットされた。

「むしすんなよ!」
「……したくもなるよ」

ぼやきながらも猫(仮)をじっと見て、新たな発見。
髪の毛さらさらだし、顔も綺麗だし、肌白いし、さっきぶち当たった手のひらもぷにぷにしてて気持ちよかった。


……もしかしてこの子、密かに癒し系?


「ねえ、にゃんこ」
「にゃんこじゃない!」
「うんうん、だからね、名前何て言うの?」


尻尾の毛を逆立てて(だから、そういうところがまんま猫なんだって)威嚇する猫(仮)の頭をなでながら首を傾げると、照れたようにほっぺたを赤くしながらぷいと横を向かれた。



「……かんだ」



「へ?神田?ずいぶん変わった名前だな」
「うるせえ!みょうじだばか!」

どうやらこの神田、口が非常に悪いらしい。
小さくて可愛いから、なんとか許せるけど。

「名字なら、名前もあるよね?名前は?」
「おしえるかよばーか」




ムカちーん☆




あれー?
それはあれかな、お姉さんに対する挑戦なのかなー?


「馬鹿って言った方が馬鹿なんだよー、知ってたー?」


超笑顔で神田のほっぺたをギリギリつかむと、神田がじたばた暴れ出す。


「いひぇえいひぇえ!」
「痛くしてるんだから当たり前!さ、名前をおっしゃい」
「ひゃなせばかー!」


「な・ま・え・は?」


こんなに口の悪い猫は初めて見たわ!
どんだけ馬鹿馬鹿言えば気が済むんだ!


「……ユウー!」


涙をにじませながら神田が叫んだのを聞いて、ようやく手を離してやる。

赤くなった頬と涙目で睨まれても……ねえ?
それに、いまだに私の膝の上に乗ったまんまだし。

「ユウ、ごめんねー?」

頭をなでながら謝ると、ユウはちろりとこちらを見た。


「……いたかったんだからな」
「うんうん、ごめんね?だけど、簡単に馬鹿って言葉を使っちゃいけません」


わかった?と覗きこめば、不機嫌そうにむっつりしながらこくりとうなずいた。
黙ってれば可愛いんだけどなあ、この子。



「あー……びっくりしすぎて、センチメンタルな気分も吹っ飛んでったよ」
「せんちめんたる?」


何だそれはと言いたげに、ユウがこてんと首を傾げた。
バランスが崩れないようにアヒル座りをして、更に両手を前について。



か わ い い !!



やばいやばいやばい、何なのこの犯罪的な可愛さ!

出そうになる鼻血を必死にこらえつつ、にっこり笑ってユウを見る。


「センチメンタルっていうのはね、感傷的になることだよ」
「かんしょうてき?」



再びこてり。



「感傷的は……うーん……あっ、ちょっとしたことでも泣きたくなっちゃう感じのこと!!」

何とか頭の片隅から引っ張りだした意味を言った瞬間、ユウが目を見開いた。


「おまえ、なきたいのか?」


今までと一転して心配そうに眉を顰め、小さい手を一生懸命伸ばして、私の頬に触ろうとする。
その様子が本当に必死で、なんだかものすごく可愛く思えてしまった。


   落ち込んでたのが、馬鹿みたい。



「え、あ、なくなって!」
「ふふふー、大丈夫大丈夫。ちょっと泣けばおさまるから」



わたわたしながら焦るユウの頭をなでて、ゆっくりと背もたれに寄りかかる。
ゆうらりとチェアが揺れて、ユウが小さく声をあげた。

「わ、」
「ああ、ごめんね。この椅子揺れるんだよ。びっくりした?」

こくりとうなずいたユウを抱いて、本当におセンチな気持ちが吹っ飛んでしまった自分に苦笑する。


「……ま、ありがとね」
「なにが?」


首を傾げたユウの頭をなでてゆっくりと目を閉じた。
おずおずと、小さな手のひらが頬をなでる。



   ああ、涙をぬぐってくれるんだね。



小さい温もりが妙に安心できて、当初の予定だった昼寝としゃれこむ。



「はらへった、めし!!」



すっかり星がきらめく頃に、ユウにがりりと腕を引っかかれるまで。












急いで2人分の夕飯を作りながら、ふと気づく。


「……ていうか、何でユウの分まで作ってるの?私」
「はやくー!」


ぱむぱむと両手でテーブルを叩くユウは、文句なしに可愛い。
可愛いけど、口元がひきつるのは仕方がないことだろう。



……なし崩し的に同居決定ですか、そうですか……。