「はらへったー、めしー」
毎朝毎朝、私の起床時間はきっちり7時半。
ふにふにした手のひらで顔をぺちぺちやられることで訪れる。
「あと2時間……」
「めしー!」
あ、ちょっぴり泣きそう。
多分、今目を開けたら、絶対眉毛がへにゃんってなってるよ。
見たい見たい見たい見たいでも眠 い 。
「ごめんねユウ、徹夜明けの身体には厳しいよ……」
何せ、寝たのは1時間前だ。
大学が休みの日ぐらい、ゆっくり寝かせておくれ……!
「ごはん……」
今にも泣きそうなユウの声。
ぐうぅぅと、可愛らしい音もオプションで。
「 あーはいはい、ご飯とお味噌汁だけでいい?」
「早く!」
むくりと起きあがったら、ユウの顔がぱっと輝いた。
よっぽどお腹が空いてたんだねえ。
尻尾をゆらゆら揺らしながらそわそわしているユウの頭をなでて、眠い頭を必死に働かせる。
ええと、冷蔵庫の中には何があったっけ。
とりあえずご飯とお味噌汁と、あとトマトもちょっと切ってあげた方がいいよね。
それでもちょっと足りない……いやいや、お昼までは何とかもつはずだ。
ご飯はレンジでチン。
お味噌汁は作りおきしておいた菊味噌。
トマトを切って、きちんと並べて。
「いただきます」
お行儀よく両手をあわせてから食べ始めたユウを見ていると、ちらりと上目遣いで様子を見られた。
「……ねむいか?」
「あーうん、そりゃ眠いよ?でも、ユウがお腹空いてるんなら、起きるのも仕方ないよ」
「…………ごめん」
しょんぼりしょんぼり。
しおしおと下がっていく耳が、口よりも感情を素直に表していて、思わず微笑む。
「おいし?」
「……ん」
こっくりとうなずいたユウの頭をなでると、耳が気持ちよさそうにぴくぴく動く。
ユウは口は悪いけど、猫耳と猫尻尾が機嫌を正確に教えてくれるから、そんなにわかりにくくはない。
「ごちそうさまでした」
きちんとごあいさつをしたユウに笑いかけて後始末をし、さてもう一眠りと布団に潜り込んだら。
「……、おれも」
ユウがもぞもぞ入ってきた。
「ユウ?眠い?」
「ねむくはない……」
そう言いつつも、すでに大きな瞳はとろとろと微睡み始めている。
「お休み、ユウ」
「おやすみ……」
柔らかいほっぺたをゆっくりなでると、その手をきゅっと握られた。
眠たそうな目が、一生懸命こちらを見ている。
「むりやりおこして、ごめ……」
言葉の続きはすぅ、という小さな寝息。
……まったく、こういうときに限って可愛いことを言ってくれるんだから。
無意識にすり寄ってきたユウの背中をそっと抱き寄せて、温かいぬくもりにほぅと息をつく。
ちゃんとユウ専用のベッド(というかお布団)も用意して寝かせてたけど、本当は結構寂しかったりしたのかな?
シングルとはいえ、子猫1匹分のスペースが余ってないわけじゃないから、今度からは一緒に寝ようかしら。
シャンプーの香りが鼻をかすめて、一緒のシャンプーを使っているという当たり前のことにくすぐったくなる。
一緒に暮らす家族がいるって、やっぱりいいなあ。
実家にいたときはそんなに意識しなかったけど、帰れば必ず誰かの気配がすることが、こんなに安心するなんて思ってもみなかった。
大学入るまでは一人暮らしに憧れてたけど、今度1回帰ってみようかしら。
いや、ユウがいるから無理か。
この子を1人で置いてはおけない!
放置したら1日で餓死しそうだ、この子。いや、冗談じゃなく。
あえなく帰省計画がおじゃんになったところで、改めてユウをじっくりと観察してみた。
寝起きのままだったから、髪はまだ結ってない。
さらさらの黒いストレートが重力に従って流れてて、思わず触ると少しひんやりしていた。
睫もものすごく長いし、それもまっすぐなせいで目元に淡い影ができている。
白い肌はすべすべ。
ほっぺたはつるつる。
触るとふにふにしてて気持ちがいい。
唇も桜色だし、形もよくてすごく綺麗。
……この子、女の子の洋服着せたらものすごく美少女になるかもしれない……!
どどどどうしよう、和服とか絶対似合うよ!!
青いのが似合うかな、白いのもよさそうだな、でも赤いのも多分似合う 。
いやいやいや、ちょっと待て自分。
女装させて喜ぶような趣味は持ってなかったよね、私!?
危ない趣味に目覚めかけていた自分に気づいて、慌てて叱咤する。
いくらユウが可愛いからって、それはまずいでしょ!
ほら、そんな着物なんか買う余裕ないし。
ユウも嫌がって着ないだろうし。
そんな理由を必死に考えてるうちに眠くなって、ユウの温かさを感じながら夢の中へ。
……夢の中でも日本人形みたいなユウが出てきたことは、誰にも絶対内緒にしておこう。うん。
「、おきろー」
「……んー?」
次にぺしぺしやられて目が覚めたのは、そろそろ小腹が空く3時のおやつ時。
「お昼?」
「ん!」
こっくりとうなずいたユウに仕方がないと苦笑して、本格的に起きることにする。
顔を洗ってユウにも洗わせて、ついでに髪も綺麗に整えてあげる。
ツインテールも絶対に可愛いとは思うけど、そこはこらえてポニーテール。
そのうちちょっと巻いてみようと思いながら、パジャマを脱がせる。
今日の服は何にしようかな、ちょっと気取ってカッターシャツとかでもいいかもしれない。
ぽいぽいと適当に選んだ服を受け取ってユウが自分で着ようとするけど、どうにもボタンをうまく留められないらしい。
「ユウ、貸して」
悔しそうに顔を歪めるユウのシャツを留めてあげると、非常に不本意そうに横を向かれた。
「……ありがと」
「どういたしまして」
「めし!」
「私は小間使いじゃないっての!いい子にしないとご飯作ってあげないよ!」
たしたしと私の脚を叩いて催促するユウに怒ると、さすがにそれは嫌だったのかぴたりと動きが止まる。
「はい、何て言うの?」
にっこり笑ってユウを促し。
「……ごはん、つくってください」
いかにも不本意ですって表情がムカつくけど、まあ今のところはこれで合格点にしておこう。
ほっぺたを引っ張ったぐらいで許してやったんだから、この寛大さに感謝してほしいね!!
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