きちんと耳と尻尾を隠したユウと、手をつないでお散歩。
どうやらすっぽり頭を覆う帽子が気に入らないらしく、ユウは何度も頭に手をやっていた。
それでも外さないのはかなり偉い。
「、きょうはどこにいくんだ?」
「んー……あそこの山の上に神社があるらしいから、そこに行こっか」
「……あそこまで?」
見上げる程に高い山をちらりと見て、ユウが嫌そうに顔を歪める。
うん、その気持ちはよくわかる。
私だって、普段のお散歩であそこまで行きたくない。
けれど、あそこまで行けばきっと。
「ユウ、その帽子外して遊べるよ」
「……ほんとか?」
「うん。いつ行っても誰もいないから、あそこならきっと大丈夫」
だから頑張ろうと笑いかけると、ユウも表情を明るくしてうなずいた。
ユウだって、本当は耳も尻尾も隠さずに遊びたい。
家の中だけじゃなくて、外にも遊びに行きたい。
いつもそれを我慢させてしまっているから、せめて時々でもと思ったのだ。
「よし、行こうか!」
「おう」
ふてぶてしくうなずいたユウの手をぺしりとはたいて(そんな言葉遣い許しません!)、のんびりと歩く。
季節はどんどん巡ってきていて、もうマフラーもコートも手袋も必要になっていた。
ユウはちゃんと私の編んだものを着てくれていて、それが嬉しくて頬がゆるむ。
「、はやく!」
「はーいはい」
飛び跳ねるように何度も腕を引くユウに返事をしながら、少しだけ足を早めた。
山に差しかかってもユウの速度は全く衰えず、案の定私の息がすぐに切れてしまう。
立ち止まっては水を飲む私を、ユウはめんどくさそうな顔をしながらも待っていてくれる。
「もうへいきか?」
「……うん。行こう」
そんな繰り返しをしながら神社にたどり着いた頃には、私はもうへとへとになってしまっていた。
大きな岩にどさりと座りこんで、握っていた小さな手を離す。
「ここにいるから、好きに遊んでおいでよ。あんまり遠くに行かないでね」
「 わかった!」
ひらひら手を振って笑うと、ユウはすぐに走って行った。
がさがさと落ち葉を蹴散らしながら走る音が聞こえて、裸になった木の枝に登る姿が見える。
落ちるんじゃなかろうかとひやひやしたけれど、小さな身体は危なげなく登っては下りてを繰り返していた。
「怪我しないようにねー」
「わかってる!」
弾んだ声で返ってきた返事に、疲れたけれどここに来てよかったと息をつく。
たまにはこんな風に、思いっきり身体を動かすのもいいだろう。
斜めがけのバッグに突っ込んできた文庫本を取り出して読み始めると、すぐに指先が冷たくてたまらなくなってきた。
まずいまずい、ホッカイロどこにやったっけ。
手を擦り合わせながらポケットを探っていると、目の前に探していたものが突き出された。
「ん」
「寒くないの?」
「そんなによわっちくない!」
「そっか、ありがと」
むっと眉根を寄せる頬は確かに上気しているし、本当に寒くないんだろう。
ありがたく受け取ってぬくぬくと両手で包んだ私に、ユウが満足そうにうなずいた。
再び走って行ったユウを数秒見送って、私も読書に戻る。
ホッカイロは元々ユウに持たせていたのだと気づいたのは、3分の1ほど読んだ頃だった。
本も終わりに差しかかったところで、そろそろいいかとユウを呼ぶ。
「ユウ、帰ろう」
声をかければ、すぐにがさがさと落ち葉を踏み分ける音が近づいてきた。
「、よんだか?」
「帰ろ。そろそろ風が冷たくなってきたし、暗くなってきちゃった」
ホッカイロの効果も弱くなってきている。
これだけ走り回ったら、明日のユウは筋肉痛かもしれないと思いながら、名残惜しくオレンジ色の袋を振っては握りしめた。
手をつなごうと差し出したところで、何やらユウの様子が少し違うことに気づいて、小さく首を傾げる。
いつもよりも鈍い反応、いつもよりも小さい目。
……これはもしや。
「……眠い?」
「……ねむい……」
ぽつりと呟いたユウは、手を通り越して私の膝に小さな手を乗せた。
「、だっこ」
「ユウ?」
思いがけない言葉に、思わず聞き間違いではあるまいかと名前を呼んでしまった。
けれどユウはそれにも反応せず、抱っこと繰り返す。
怒らないかとひやひやしながら抱き上げると、おとなしく頭を預けてきた。
これはよほど眠いに違いない。
「寝ちゃっていいよ。家に着いたら起こすから」
「……ん……」
こっくりとうなずいた黒髪をなでながら、やっぱりまだまだ子供だなあと笑いがもれた。
家までずっと抱っこは腕がつらいけれど、頑張って連れて行こう。
いつまでこうやって甘えてくれるのか、正直少し寂しくて不安だから。
「かーわいいなあ……」
そっとつついたほっぺたはふにふにで柔らかくて、何だか無性に安心した。
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