私とアレンの出会いは、どこから始めたらいいのだろうか。


ぴゅうぴゅうと木枯らしが吹き付ける寒い冬、私がコンビニにおでんを買いに出かけたところからだろうか。
それとも、前日にオールで飲んでご飯を作る気力がなくなったところからだろうか。


何だか考えるのが面倒になってきたので、とりあえずコンビニのところから始めようと思う。












「寒っ!!」


叫んでも何も変わらないということはわかっているけれど、それでも叫ばずにはいられないこの寒さ。
マフラーをぐるぐるに巻いて、セーターの上からコートを着て、役には立たないけれど毛糸の手袋。


手袋程度じゃ、超冷え性の指先は温まってくれないのだ。
指先が紫色って、明らかに何か間違ってる。


「ええと……大根につくねに玉子にはんぺん、あとこんにゃくとちくわぶとちくわ2本ときんちゃくください」


食べすぎだって?
そんなこと気にしない。


つゆをたっぷりと入れてもらって、意気揚々とコンビニを出る。
熱い器に手を当てていると、じんわりと指先が温まってきた。
人間の感覚が戻ってくる……。


「やっぱ、寒い日はおでんに限るよねえ。温まるしおいしいし、言うことなし」


冷たい風が入りこむ首筋をすくめながら早足で歩いていると、視界の隅でごそりと何かが動いた。


ゴミ収集所の透明な袋の山、その麓で動く白っぽい何か。
目を凝らして見れば、やけに小さい薄汚れた子供だった。


   失くしもの?」


何となく気が向いたから声をかけてみると、おもしろいほど派手に反応される。
飛び上がるように(実際に3cmは飛び上がったと思う)背筋を伸ばすと、あろうことかゴミに向かって突っ込んで行った。


「えええええ!?」


ちょ、何やってるのこの子!


思わず首根っこをひっつかんで引き戻したけれど、震えようが尋常じゃない。
一体どうしたんだ、この子。


「駄目でしょ、汚いんだか   ?」


子供が暴れた拍子に、頭にぐるぐる巻きにされていた布が取れた。
その下にあったものを見て、色々な意味で絶句する。


「灰色……耳?」


灰色の髪も珍しいけれど、ありえないのは髪の間からにょっきりと生えている耳だ。


レトリーバー系、ついでに言うとラブではなくゴールデン。
髪と同じ色のそれは、偽者ではないと主張するようにぴくぴくと動いていた。


「はな……て、く……ださ   っ!!」


泣きそうな顔で逃げようと必死になっているその子供が何だか可哀相になって、小さくため息を落とす。


「……うち、来る?」


ひとまずお風呂に入ろう。
色々訊きたいことはあるけど、話はそれからだ。


怯えきっている子供をセーターとシャツの間に入れて(明らかに風邪を引きそうなほど薄着だったのだ)、ちょうど串つきだったつくねを手に持たせる。


「汁、こぼさないでね。私も君も火傷するから」
「……いいんですか?」


信じられないというようにおそるおそる見上げる瞳に、苦笑してしっかりと抱き直した。


「この状態の子供を見て放置するほど、私も鬼じゃないからね。温まっときなさい」


おでんも子供も冷えないようにと足早に家に帰って、おでんをレンジの中に突っ込んで子供はお風呂場に放りこむ。
着替えはないけれど、とりあえず私のTシャツでいいだろう。

汚れたシャツとセーターは洗濯機に引っかけて、私の分の着替えも用意した。


「こーら、逃げるな!」
「あつい……っ」
「身体がそれだけ冷えてるの!火傷なんてしないから、おとなしくしなさい!」


まずはお湯でざっと汚れを落としてから、シャンプーで頭を洗う。


1回目は全然泡立たなかった。
2回目も泡が黒かった。


3回目でようやく指通りがよくなって、もういいだろうとすすいだ下に見えた色に、また驚いた。


   銀?」


白とも言えるのかもしれない。
けれど、水と光に反射したその色は、私には確かに銀に見えたのだ。


無意識のうちに呟いていたらしく、子供がきょとりとした目でこちらを見上げた。
顔が濡れているからか、しぱしぱと瞬きを繰り返しながらじっと見上げるその様子は、文句なしに可愛らしい。


「何でもないよ。先に湯船につかってて」


溺れないでねーとへりにつかまらせてそっと入れると、しっかりと両手でしがみついていた。


もうこの際ついでだ、私もお風呂に入ってしまおう。
まだ夕方だけど。


ほこほこほっこりの身体をタオルで包んで、湯冷めしないうちに髪を乾かしてあげる。


自分?
そんなの後あと。


綺麗にすれば、何ともありがちながら、子供はとても可愛かった。
耳さえなければ、普通の美少年だ。
いや、サイズも小さすぎるけれど。


おでんを温め直して2人でわけながら、私は目の前の子供に向かって首を傾げる。


「で?どうしてあんなところであんなこと?」
「あ……あの、ぼく、おうちがなくて……」
「うん、まあ、あの様子を見てればわかるよ」


おどおどと口を開いた子供にうなずいて頭をなでると、何故かいきなり泣き出した。
どうしたんだと内心で慌てふためいていたら、子供がしゃくりあげながら必死に目をこちらに向ける。


「ぼくのこと……っ、きもちわる……ないんで、か?」
「…………誰がそんなこと言ったの」


自分で思っていたよりも、ずいぶんと低い声が出た。
誰だ、こんな子供にそんな心ないことを言ったのは。


子供は怯えたように震えたけれど、頭を優しくなでると大きくしゃくり上げて言葉を吐き出した。




「みんな……っ!!」




叫ぶような悲痛なその声音で、この子が今までどんなことを経験してきたかがうかがえる。


「…………」


うん。


「よし。今日からここが、君の家ね」
   え?」
「一緒に住むの。もう誰にも、君を気持ち悪いなんて言わせない。こんなに可愛い子をつかまえて、何言ってんだか」


ひょーいと抱き上げてあやすように背中を叩けば、しばらくして押し殺すような泣き声が聞こえてきた。


「私、。君は?」
「アレンです……!」
「そっか。うん、よろしく、アレン」
「はい……っ!」


そして始まった、私達の生活。