最近のアレンのお気に入りは、お風呂上がりの髪を乾かす時間だ。
お日様の香りするタオルで水気をとっていると、必ず尻尾が小さく揺れる。
はた、はたた、はた、はたはた。
本人は無意識のようなのが、余計に可愛らしい。

絹のような髪には、出会った頃からは想像もできなかった天使の輪が綺麗にできている。
お肌もつやつやすべすべ、子供特有のふっくらとした姿に思わず笑みがこぼれてしまった。


さん?どうしたんですか?」
「ん、ちょっとね。大丈夫、何でもないよ」


ただちょっと、アレンが大好きすぎて。

そんな変態的な本音は心の中にしまって、何事もないかのように笑ってみせる。
私が笑うと、アレンもすごく幸せそうに笑う。
その笑顔を見るのが好きで、こっそりデジカメででも撮れないだろうかと真剣に考えたこともあった。

でもまあ、一緒に暮らす分には、いつでも見れるし。
もうアレンがいない生活なんて考えられないし。

彼氏?そんなもんいりませんよ、アレンといる時間が減るし。
自分が俗に言う「干物女」になってきてることは自覚している。
だってしょうがないじゃない、アレンが可愛いんだし。


「ねえ、アレン」
「なんですか?」
「今度の休みさ、川に遊びに行こっか」
「え!?」


きらきらと目を輝かせて、アレンがこちらを見上げてくる。
うんうん、尻尾が振れてるよ。

最近は試験前の勉強で忙しかったから、ろくにアレンと遊べていなかった。
口には出していなかったけど、やっぱり寂しかったんだろうなあ。


「お弁当も作っていこうね。山奥になるけど、大丈夫?」
「へっちゃらです!」


はしゃいだ声で言い切ると、アレンはそわそわとリビングを歩き回り始めた。
いちいち行動が可愛いんだから、もう!
尻尾用の穴付き水着なんてもちろん売ってないから、濡らしてもいいハーフパンツを用意しなきゃなあなんて思った。








パンツスタイルだと尻尾が隠れないから、(アレン的には)不本意ながらワンピースを着てもらって、電車で移動。

麦わら帽子をかぶったその姿は、どこからどう見ても可愛い女の子!
ちょっとオッサン、何じろじろ見てんのよ、アレンが汚れるでしょ!

さりげなく視線をシャットアウトする位置に動いたところで、くいと手を引かれた。



さん、どこにいくんですか?」
「私が小さい頃に、よく連れて行ってもらったとこ。小さいけど滝もあって、水が澄んで綺麗だよ」
「やった!」


珍しく飛び跳ねたアレンを抱き上げて、上気したほっぺたに自分の頬をくっつける。

ああ、可愛い。
やっぱりオヤジに見せとくなんて耐えられない。

アレンを抱き込むようにして、オヤジの視界から完全にシャットアウト。


運よく、来た電車は2人がけの形式だったから、さっさと車両の中程に入って座席を占領した。
もちろん、アレンは窓側だ。


さん、どこまでいくんですか?」
「とりあえず、この電車の終点まで。それから乗り継いで、1時間ぐらいかな?」
「とおいんですね……」


はふ、と驚いたようにため息をついたアレンの頭を帽子越しになでて、疲れた?と聞いてみる。
アレンのために出かけるのに、本人を疲れさせたんじゃ意味がない。
けれどそんな心配は不要だったみたいで、麦わら帽子が勢いよく横に振られた。


「たのしみです!」
「そう、それならよかった」
さんといっしょなら、どこでもたのしいです」


はにかむようなその笑顔!

天使!!
天使がここにいる!!
誰かラブソング歌って!!


……ごめん、ネタが古すぎた。
でも、あの映画大好き。


実家の最寄り駅を通り過ぎたときにはさすがに(顔を出さないことへの)罪悪感を感じたけれど、アレンのことをどう説明したらいいのかわからなかったからスルーで。
目的地は記憶にあるよりもかなり開発されていたけど、登るにつれて緑が濃くなってきた。
はふはふと息を弾ませながら横を歩くアレンは、けれどとても楽しそうだ。
こっそり笑ったその時、アレンがぴくりと何かに反応した。


「もうすぐですか?」
「うん、そうだけど……なんでわかったの?」
「おみずのにおいと、おとがします」


……マジか。
そっか、アレンって犬並に聴覚と嗅覚がいいのか。
よかった、香水とかつけない主義で。
人間でも苦手な子は駄目だもんね、香水。


私の記憶もおぼろげなので、沢に出る段階になると、完全にアレン先導になっていた。
小走りで先を行くアレンの後を追いながら、私も小さい頃はああだったのかなあと微笑ましくなる。
あの頃はただ楽しかったとしか思い出せないけど、お父さんやお母さんは、今の私みたいな心境だったのかもしれない。

いつまで一緒にいられるのかな。
いつかはきっと、アレンも自分の足で歩くようになるんだろうな。
もう大丈夫ですって、僕一人で生きていけますって、そう言って出て行く日が来たら、私はどうなってしまうんだろう。


さーん!つきました、つきましたよー!!」
「はいはい、ちゃんと着替えてね」


はしゃぎまくりのアレンに手を振り返しながら、目の端ににじんだ熱はまぶしさのせいだと、そう自分に言い聞かせた。